英文契約に登場する紛らわしい免責条項(Disclaimer、Exclusion of Liability、Exemption、Exclusion)について、その基本的な意味、契約書における使われ方、そしてそれぞれの違いを、具体的な例文を交えながら、分かりやすく解説します。
目次:
はじめに
1.免責条項とは
2.Disclaimerの意味と使い方
3.Exclusion of Liabilityの意味と使い方
4.Exemptionの意味と使い方
5.Exclusionの意味と使い方
まとめ
英文契約書を読んでいると、Disclaimer、Exclusion of Liability、Exemption、Exclusionといった、日本語ではいずれも「免責」と訳されることがある条項を目にすることがあります。
しかし、これらの条項は、英文契約の世界ではそれぞれ少しずつ異なる意味合いがあり、契約書における効果も異なってくる場合があります。
もし、これらの違いをあいまいなままにしておくと、契約内容の理解を誤り、将来的に予期せぬリスクを負ってしまう事態もありえます。
この記事では、英文契約で頻出するこれらの「免責条項」について、その基本的な意味、契約書における使われ方、そしてそれぞれの違いを、具体的な例文を交えながら、出来るだけ、ていねいに解説していきます。
英文契約書に登場する「免責条項」のニュアンスを正確に理解し、契約レビューの際には、しっかりと条項の意味を判断できるようになっていただければと思います。
まず、各条項の詳細に入る前に、そもそも免責条項が契約においてどのような役割を果たすのか、その全体像から入らせていただきたいと思います。
免責条項とは、一言で言えば
契約において、当事者の一方または双方が、特定の状況下で負うべき責任を制限したり、完全に排除したりすることを定める条項
のことです。
免責条項は、予期せぬ損害やリスクから当事者を保護し、ビジネス上のリスクを当事者双方の間で適切に配分するために非常に重要な役割を果たします。
例えば、ウェブサイトの利用規約で「当サイトの利用によって生じた損害について、当社は一切責任を負いません」といったような記載を見かけることがあります。
これは、責任を制限または排除する免責条項を非常に簡単にした例です。
英文契約では、この「責任を免れる」という目的を達成するために、様々な表現が盛り込まれた条項が使われます。
以下に述べるDisclaimer、Exclusion of Liability、Exemption、Exclusionは、その代表的なものです。
これらは、責任の「何」を「どのように」免れるのか、という点に違いがあります。
Disclaimer は、一般的に「保証の否認」や「責任の限定」といった意味合いで使われることが多い免責条項です。
特に、製品やサービスに関する品質、性能、または特定の目的への適合性について、明示的または暗示的な保証を行わないことを示す場合に用いられます。
また、情報の正確性や完全性について責任を負わないことを示す場合にも使われます。
例文:
THE SOFTWARE IS PROVIDED “AS IS” WITHOUT WARRANTY OF ANY KIND, EXPRESS OR IMPLIED, INCLUDING BUT NOT LIMITED TO WARRANTIES OF MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE AND NON-INFRINGEMENT. IN NO EVENT SHALL THE AUTHORS OR COPYRIGHT HOLDERS BE LIABLE FOR ANY CLAIM, DAMAGES OR OTHER LIABILITY, WHETHER IN AN ACTION OF CONTRACT, TORT OR OTHERWISE, ARISING FROM, OUT OF OR IN CONNECTION WITH THE SOFTWARE OR THE USE OR OTHER DEALINGS IN THE SOFTWARE.
(訳):
本ソフトウェアは、明示的または暗示的であるかを問わず、いかなる種類の保証(商品性、特定目的への適合性、および非侵害に関する保証を含むがこれらに限定されない)もなく、「現状のまま」で提供される。いかなる場合においても、著者または著作権者は、契約、不法行為、またはその他の行為であるかを問わず、ソフトウェアまたはその使用もしくはその他の取引に起因または関連して生じるいかなる請求、損害、またはその他の責任についても責任を負わないものとする。
解説:
この例では、ソフトウェアのサプライヤーは、あらゆる種類の保証を明確に否認(disclaim)しています(マーカー部)。
「現状のまま(AS IS)」という表現は、Disclaimer条項でよく見られるもので、提供するものがその時点の品質であり、特定の保証をしないことを強く示唆します(マーカー部)。
ポイント:
・製品やサービスの品質、性能に関する保証を否定する際に使われることが多いです。
・情報の正確性や完全性について責任を限定する場合にも使われます。
・without warranty(保証もなく) や as is(現状のまま) といった表現と組み合わせて使われることが多いです。
・法的な責任を「完全に排除」するというよりは、「特定の保証責任を負わない(=現状のままでの提供であり、それ以上の品質や性能、機能などは保証しない)」というニュアンスが強いです。
3.Exclusion of Liabilityの意味と使い方
Exclusion of Liability は、「責任の排除」や「責任の免除」を意味する免責条項です。
これは、特定の損害が発生した場合に、当事者の一方がその責任を負わないことを明確に定めるものです。
Disclaimerが「保証をしない」という側面が強いのに対し、
Exclusion of Liabilityは、「損害が発生しても、私たちは責任を負いません」と、より直接的に責任の範囲を限定・排除する意味合いがあります。
例えば、ソフトウェアの不具合によって生じた事業の中断や、データの消失といった結果的な損害について、サプライヤー側が責任を負わない旨を定める場合によく用いられます。
例文:
IN NO EVENT SHALL EITHER PARTY BE LIABLE FOR ANY INDIRECT, INCIDENTAL, CONSEQUENTIAL, SPECIAL, PUNITIVE, OR EXEMPLARY DAMAGES, INCLUDING BUT NOT LIMITED TO, LOSS OF PROFITS, REVENUE, DATA, OR USE, INCURRED BY THE OTHER PARTY, WHETHER IN AN ACTION IN CONTRACT OR TORT, EVEN IF SUCH PARTY HAS BEEN ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH DAMAGES.
(訳):
いかなる場合においても、いずれの当事者も、契約または不法行為における訴訟であるかを問わず、相手方が被った間接的、偶発的、結果的、特別、懲罰的、または懲戒的損害(利益、収益、データ、または使用の損失を含むがこれらに限定されない)について責任を負わないものとする。かかる当事者がかかる損害発生の可能性を伝えられていたとしても同様とする。
解説:
この例文では、「間接損害」「偶発的損害」「結果的損害」「逸失利益」といった、特定の種類の損害に対する責任を明確に排除しています(マーカー部)。
たとえ相手方がその損害の可能性を伝えていたとしても責任を負わない、という強い意思表示が含まれています(マーカー部)。
ポイント:
・特定の種類の損害(例:間接損害、結果的損害、逸失利益など)に対する責任を排除することが多いです。
・いかなる場合においても (in no event shall ~) や、 ~について責任を負わない (shall not be liable for ~) といった強い表現が使われることが多いです(マーカー部)。
・Disclaimerよりも、より広範な損害賠償責任の排除を意図するケースが多いです。
広範な損害賠償責任の排除とは、Disclaimerが「製品は保証しない」という責任なのに対し、
Exclusion of Liabilityは、「保証しなかった結果、損害が発生しても、これこれの損害について責任を負わない」 という広い損害賠償責任も排除する、という意味です。
・裁判所によって、その有効性が厳しく審査されることがあるため、明確な記載が求められます。
Exemption は、一般的に「免除」や「除外」といった意味合いを持つ免責条項です。
これは、特定の義務や責任、あるいは特定の法的規定の適用から、当事者を免除する際に用いられます。
これまでの Disclaimer(保証の否認)や Exclusion of Liability(責任の排除)が「損害賠償責任」に焦点を当てることが多いのに対し、
Exemption は、より広範な「義務や規制からの免除」を示す場面で使われることがあります。
例えば、特定の義務の履行を免除する場合や、法規の適用を受けないことを定める場合などに使用されます。
例文:
Company A shall be exempt from any obligation to deliver the Products if such delivery is prevented by force majeure events, including but not limited to acts of God, war, or natural disasters.
(訳):
A社は、天災、戦争、または自然災害を含むがこれらに限定されない不可抗力事由により製品の引渡しが妨げられた場合、かかる引渡しの義務を免除されるものとする。
解説:
この例文では、A社が「不可抗力事由」が発生した場合、製品の引渡し義務から免除されることを明確に示しています。
これは、特定の原因によって生じる責任や義務そのものを負わない、という意味合いがあります。
ポイント:
・特定の義務や規制からの免除を示す際に使われることが多いです(マーカー部)。
・~から免除される(shall be exempt from…)という形式で記載されることが多いです(マーカー部)。
・主に不可抗力(Force Majeure)条項など、特定の事由が発生した場合に、当事者が本来負うべき義務の履行が免除されることを定める際に用いられます(マーカー部)。
・DisclaimerやExclusion of Liabilityが損害賠償責任の免除に焦点を当てるのに対し、
Exemptionは義務の履行そのものの免除という点で意味合いが異なります。
Exclusion は、「排除」や「除外」を意味する免責条項です。
Exclusion は、契約上の責任や適用範囲から、特定の項目や事由を明確に除外する際に用いられます。
Exclusionは、特に責任の種類や対象となる損害、あるいは特定の状況を列挙して、それらについては責任を負わないことを明確に定める場合に用いられます。
Exclusion of Liabilityと似ていますが、Exclusionは、より「特定のもののリストからの除外」という意味合いが強いことがあります。
例えば、特定の種類の損害(間接損害、逸失利益など)や、特定の製品の欠陥、あるいは特定のサービス範囲外の事項などを、責任の対象から「除外」する際に使用されます。
例文:
Notwithstanding anything to the contrary in this Agreement, in no event shall Seller be liable for any indirect, special, incidental, or consequential damages, including without limitation, loss of profits or revenue, arising out of or in connection with this Agreement.
(訳):
本契約の別段の定めにかかわらず、いかなる場合も、売主は、本契約に起因または関連して生じる、利益または収益の損失を含むがこれに限定されない、いかなる間接的、特別、偶発的、または結果的損害についても責任を負わないものとする。
解説:
この例文は、前述の Exclusion of Liability の例文と非常に似ており、実際に両者は重複する概念を持つことが多いです。
しかし、Exclusion が強調される場合、それは「(責任の対象となる範囲から)これを明確に外します」という意図がより強く込められています。
特に、損害の種類を列挙してそれらを責任の対象から「排除」する際に頻繁に用いられます。
ポイント:
・特定の項目、種類、または範囲を責任の対象から明確に「除外」する際に使われることが多いです(マーカー部)。
・例文にありませんが、Exclusionの除外を示すため、~を除いて (excluding) や、 ~を含まない (does not include) といった表現と合わせて使われることもあります。
・Exclusion of Liability と概念が重複する部分が多いですが、Exclusion は除外する対象を列挙するというニュアンスがより強い場合があります。
・責任の範囲を明確に限定し、予期せぬ責任を回避するために重要な役割を果たします。
英文契約書に登場する「免責」に関する主要な4つの条項である Disclaimer、Exclusion of Liability、Exemption、Exclusion について、それぞれの意味、法的なニュアンス、そして具体的な使用例を交えて解説しました。
Disclaimer、Exclusion of Liability、Exemption、Exclusion は、いずれも、通常、免責条項と訳されますが、ここで、それぞれの条項が持つ役割を改めて整理します。
Disclaimer:
製品やサービスに関する保証の否認や、情報の正確性などに対する責任の限定を目的とします。
Exclusion of Liability:
特定の種類の損害賠償責任を排除することを狙いとしています。「いかなる場合も責任を負わない」という強い意図があります。
Exemption:
特定の事由(特に不可抗力)が発生した場合に、契約上の義務の履行を免除する際に用いられます。
Exclusion:
責任の範囲や対象から、特定の項目や種類を明確に排除・除外することを目的とします。
これらの条項は、どれも「責任を負わない」という共通の目的を持ちながらも、そのアプローチや焦点が異なります。
英文契約書をレビューする際は、これらのわずかな違いを理解することが極めて重要となります。
というのは、各条項の選択や表現の少しの違いが、万が一の紛争時に、責任の範囲や法的効果に大きな影響を与える可能性があるたまです。
契約書に免責条項を盛り込む側としては、どの責任を、どのような状況で、どれだけ免除または排除したいのかを明確にし、最も意図に合致する適切な用語を選択する必要があります。
逆に、相手方の契約書をレビューする側としては、免責条項の内容が自社にとってのリスクを不当に高めていないか、細部にわたって確認することが求められます。
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