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英文契約書の一般条項であるAssignment(譲渡制限条項)について解説します。いくつかの例文をとりあげて対訳をつけ、例文中の重要表現には注記を入れました。
1.解説:
1)Assignment(譲渡制限条項)とは
Assignment(譲渡制限条項)とは、
契約上の権利や義務を、
①その全部または一部を第三者に譲渡できるかどうか、そして
②どのような条件で譲渡できるか、
について取り決めた契約条項です。
Assignment(譲渡制限条項)は、日本の継続的取引契約に見られる「権利の譲渡禁止」の規定とよく似た条項です。
英米法においては、契約上の権利は、契約で別段の規定や制限がない限り、自由に第三者に譲渡したり委託することができます。
このままでは当事者は困るので、
契約上の権利の譲渡について、制限や禁止をかける
ことを目的にAssignment(譲渡制限条項)が置かれます。
2)Assignment(譲渡制限条項)のいくつかの類型パターン
Assignment(譲渡制限条項)に定められる内容は、いくつかのパターンがあります。以下は、その一例です。
①相手方の同意がなければ、契約上の権利義務を譲渡できないとするもの。典型的な例です。(下記の例文①をご覧ください)
②通知により、契約上の権利義務を譲渡できるとするもの。(例文②をご覧ください)
③合併、統合、売却による関連会社や承継会社への譲渡の場合を除き、相手方の同意なしに契約上の権利義務を譲渡できないとするもの。(例文③をご覧ください)
④譲受人がライセンサーの契約上の義務とその履行を負担することを条件に、ライセンサーは、ライセンシーの同意なしに、不特定の第三者に譲渡できるとするもの。(例文④をご覧ください)
3)Assignment条項が担保する「契約当事者の個別な関係」と「事業継続性」
Assignment条項は、単に契約上の権利義務の移転を制限するだけでなく、契約当事者の「個別な関係」を担保し、ビジネスの「継続性」と「信頼関係」を維持するための極めて重要な機能を持っています。
この条項は、将来の企業再編やM&Aといったビジネスイベントにも大きく影響するため、その戦略的意義を理解しておくことが肝要です。
契約当事者の個別な関係・信頼関係の維持:
契約は、特定の当事者間の信頼関係、能力、資力などを前提に締結されるものです。
例えば、ある製品の製造委託契約であれば、受託会社の技術力や実績、秘密保持体制などを信頼して発注するでしょう。
もし、その受託会社が自由に契約上の義務を第三者に譲渡できてしまうと、発注側は「当初意図しない第三者」と取引を継続せざるを得なくなり、品質や秘密保持のリスクを負うことになります。
Assignment条項は、こうした予期せぬ第三者の介入を防ぎ、当初の信頼関係に基づいた取引が継続されることを保証する役割を果たします。
これが、多くの契約で「相手方の同意がなければ譲渡できない」
(例文①)という形式が採られる理由です。
事業継続性と企業再編(M&A)への対応:
一方で、企業は合併、買収、事業譲渡といった企業再編(M&A)を戦略的に行うことがあります。
この際、対象となる事業に関連する契約がスムーズに承継されるか否かは、M&Aの成否を左右する重要な要素となります。
Assignment条項は、このような場合に柔軟性を持たせるための例外規定を含むことがあります(例文③)。
「同意なしの譲渡可能例外」:
例えば、「合併、統合、売却による関連会社や承継会社への譲渡の場合を除き、相手方の同意なしに譲渡できない」という規定です。
通常は譲渡に同意が必要なものの、会社自体の存続に関わるような事業再編の際には、契約が自動的に新しい法人に引き継がれることを可能にします。
これは、事業の連続性を確保し、M&Aに伴う法的・手続き的障壁を軽減する上で非常に重要です。
承継時の義務の明記:
譲渡が許される場合でも、譲受人が元の契約上の義務を全て引き継ぎ(例文④のprovided the assignee agrees to assume and thereafter perform all obligations)、その履行を確約することが条件とされるのが一般的です。
これにより、譲渡後も契約の安定性が保たれます。
権利と義務の分離(DelegationとAssignment):
Assignmentは主に「権利の譲渡」を指しますが、これと混同されやすいのが「義務の委託(Delegation)」です。
英米法では、原則として権利は自由に譲渡できる一方で、義務は相手方の同意なしに委託できないとされています。
これは、義務の履行がその当事者の能力や資力に依存するため、相手方にとってのリスクが大きいからです。
Assignment条項は、この権利と義務の両方(rights or obligations)の譲渡について言及することで、契約全体の移転可能性を包括的に規定し、当事者間の誤解を防ぎます。
このように、Assignment条項は、契約締結時における当事者の個別の関係を保護しつつ、将来のビジネス環境の変化や企業戦略の変更にも対応できる柔軟性を持たせるための、契約マネジメント上、極めて戦略的な位置付けにある条項であると理解することが重要です。
2.例文と基本表現:
1) Assignment(譲渡制限条項) の例文 ①:
相手方の同意なしに、契約の権利義務を譲渡できません。
No Party shall have the right to assign any of its rights or obligations under this Agreement without the consent of the other Parties hereto.
(訳):
いずれの当事者も、本契約の他の当事者の同意なしに、本契約に基づく権利または義務を譲渡する権利を有しない。
(注):
*assign any of its rights or obligationsは、権利または義務を譲渡するという意味です。rights or obligationsについては、rights and obligationsの意味と例文をご参考にしてください。
*heretoは、本契約のという意味です。詳しくは、hereto, hereof, herein, hereby, hereunder, herewith, hereinafterの意味と例文をご覧ください。
2) Assignment(譲渡制限条項) の例 ②:
通知により、権利義務を譲渡できます。
PARTY A may assign this agreement or any of its rights or obligations under this agreement, by giving PARTY B notice.
(訳):
当事者 Aは、当事者 Bに通知を行うことにより、本契約または本契約に基づく権利もしくは義務を譲渡することができる。
*any of its rights or obligationsは、直訳すると権利もしくは義務のいずれもですが、 単に権利もしくは義務と訳しています。
*under this agreementは、本契約に基づくという意味です。
3) Assignment(譲渡制限条項) の例 ③:
合併、統合、売却による関連会社や承継会社への譲渡を除き、相手方の同意なしに権利義務を譲渡できません。
This Agreement may not be assigned by either party without the prior written consent of the other party, except that Company may assign this Agreement to an Affiliate or to a successor in connection with the merger, consolidation, or sale of all or substantially all of its assets or that portion of its business to which this Agreement relates.
(訳):
本契約に関係する全てもしくは実質的に全ての資産または一部の事業の合併、統合もしくは売却に関連して、会社が、関連会社もしくは承継会社に対し本契約を譲渡する場合を除いて、いずれの当事者も、相手方当事者の事前の書面による同意なしに、本契約を譲渡できない。
(注):
*without the prior written consentは、事前の書面による同意なしにという意味です。
*the other partyは、相手方当事者という意味です。
*either partyは、いずれの当事者という意味です。
*to an Affiliate or to a successorは、関連会社もしくは承継会社に対しという意味です。
*the merger, consolidation, or saleは、合併、統合もしくは売却という意味です。
*all or substantially all of its assets or that portion of its business to which this Agreement relatesは、all or substantially all of its assets(全てもしくは実質的に全ての資産)とor that portion of its business(または一部の事業)とto which this Agreement relates(本契約に関係する)の組み合わせで、本契約に関係する全てもしくは実質的に全ての資産または一部の事業という意味です。
4) Assignment(譲渡制限条項) の例 ④:
譲受人がライセンサーの義務等を負担することを条件に、ライセンサーは、ライセンシーの同意なしに、権利義務を譲渡できます。
Licensor shall have the right to assign this Agreement, and all of its rights and privileges hereunder to any Person without Licensee’s prior consent provided the assignee agrees to assume and thereafter perform all obligations of “Licensor” hereunder.
(訳):
譲受人が本契約に基づき「ライセンサー」のすべての義務を引き受け、それ以降、履行することに同意することを条件に、ライセンサーは、ライセンシーの事前の同意なしに、本契約および本契約に基づくすべての権利と権限を、いずれの第三者に対しても付与する権利を有する。
(注):
*hereunderは、本契約に基づきという意味です。
*provided the assignee agrees to assume and thereafter perform all obligationsは、provided(~を条件に)とthe assignee(譲受人)とagrees to assume and thereafter perform all obligations(すべての義務を負担し、それ以降、履行することに同意する)の組み合わせで、譲受人がすべての義務を負担し、それ以降、履行することに同意することを条件にという意味です。
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