【この記事でわかること】
- 英文契約におけるConfidentiality(秘密保持条項)の基本的役割と実務上の重要性
- 秘密情報の定義、開示範囲、例外規定、存続期間、返還・破棄などレビュー時の5大戦略チェックポイント
- 情報漏洩時の救済措置として不可欠な「差止め命令(Injunction)」および損害賠償の実務設計
- 片務・双務・目的外使用禁止・雇用契約など、実務で頻出する全4パターンの具体例文と詳細対訳・語注
英文契約書の General Provisions(一般条項)および独立した契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)の中核をなすConfidentiality(秘密保持条項)について詳しく解説します。いくつかの例文に要点と対訳と語注をつけました。
1.解説:Confidentiality(秘密保持条項)とは?
1)秘密保持条項の定義と目的
契約を結んだ後に、当事者が契約義務を履行する過程で、相手方に秘密情報を提供することがあります。また、相手方から秘密情報を受領することもあります。あるいは、偶然に相手方の秘密情報に触れる機会がある場合もありますし、同じように偶然に相手方がこちらの秘密情報に接することもありえます。
このような場合に備えて、契約の中で、第三者に漏洩されてしまうと相手方や自己のビジネスに支障のある情報について、秘密に保持する義務を課すことを目的とする契約条項がConfidentiality(秘密保持条項)です。
秘密情報が一度第三者に漏洩されたり、契約目的以外の用途に流用されたりすると、企業の競争優位性が損なわれ、回復不能な損害を被る恐れがあります。そのため、本条項は自社の情報資産を守るための最も基本的ながら、極めて重要な防御線となります。
2)秘密保持条項のポイント
Confidentiality(秘密保持条項)の内容は、簡単なものから詳細なものまで、さまざまなパターンの条文が見受けられます。一般的には、以下のような点が重要なポイントになります。
- 秘密情報の特定をどうするのか?:何が秘密情報に該当するのかを明確にするための定義が重要です。
- 秘密保持義務を当事者双方に課すのか、それとも一方のみに課すのか?:当事者の立場(開示者か受領者か、または双方か)によって、義務の範囲が変わります。
- 秘密情報の用途の制限をどうするのか?:受領した秘密情報を、契約目的以外で利用することを禁止する規定です。
- 秘密保持義務の例外となる情報の扱いどうするのか?:公知情報や、法的に開示義務のある情報など、秘密保持義務の対象外となる情報を定めます。
- 秘密保持義務の存続期間をどうするのか?:契約期間中だけでなく、契約終了後も秘密保持義務が存続する期間を定めます。
これらについては、セクション2の四つの例文とその要点を御参考にしてください。
3)契約レビューの重要ポイント:秘密保持条項の戦略的検討
Confidentiality(秘密保持条項)は、企業の知的財産、営業秘密、顧客情報など、事業の中核をなす重要な情報を保護するための必須の法的ツールです。この条項の策定とレビューは、将来の不正競争や損害の発生を防ぐ上で不可欠であり、以下の点を戦略的に検討することが求められます。
【英文契約書の基礎知識:実務上の視点】
Confidentiality(秘密保持条項)は、契約履行に伴い開示される営業秘密やノウハウを保護するため、当事者に厳格な秘密保持および目的外使用禁止の義務を課す機能(specific function)を持った条項タイプ(clause type)です。リーガルチェックの際は、この義務の範囲だけでなく、情報漏洩が発生した際に金銭賠償のみならず違反行為そのものを即座に停止させるための差止め命令(injunction)を請求できる権利(rights of use)が確実に担保されているかを確認することが、実務上の極めて重要なポイントとなります。
ア.「秘密情報(Confidential Information)」の定義の明確性
なぜ問題になるのか?:
秘密情報の定義が曖昧だと、「何が秘密情報で、何がそうでないのか」を巡って紛争が生じます。特に、受領者側にとっては、何を秘密にすればよいか不明瞭になり、過度な義務を負うリスクがあります。
確認すべきポイント:
- 網羅的な定義:営業秘密、技術情報、財務情報、顧客情報、従業員情報など、保護したい情報の種類を具体的に列挙しましょう。
- 識別可能性の基準:「confidential」と明示的に表示された情報(例文③)のみを対象とするのか、あるいは、表示がなくてもその性質上秘密情報と合理的に判断できる情報(例:企業秘密、ノウハウ)も含むのかを明確にしましょう。後者の場合、受領者側は判断が難しくなるため、より注意が必要です。
- 口頭開示の情報:口頭で開示された情報についても、後日書面で秘密情報である旨を通知することで対象に含める規定を設けることを検討しましょう。
イ.秘密保持義務の範囲と例外
なぜ問題になるのか?:
秘密保持義務の範囲が広すぎると、受領者側のビジネス活動が不当に制限される可能性があります。一方、狭すぎると開示者側の情報が保護されません。また、例外規定が不十分だと、法的な義務(例:裁判所命令による開示)にもかかわらず秘密保持違反となるリスクがあります。
確認すべきポイント:
- 目的外使用の禁止:受領した秘密情報を、契約の目的(other than with respect to this Agreement – 例文③)以外の目的で利用することを明確に禁止しましょう。これは、秘密情報が競合他社に渡ることを防ぐ上で非常に重要です。
- 開示の制限:秘密情報を第三者に開示しないこと(例文①、例文④)を明確に規定し、開示が認められる場合(例:written agreement signed by the two parties – 例文②、prior written approval – 例文④)を限定的に定めましょう。
- 秘密保持義務の例外:以下の情報については、秘密保持義務の対象外(Exceptions)とすることが実務上必須です。
- 公知情報(publicly available):受領時に既に公知である情報、または受領後に受領者の過失なく公知になった情報(例文②、例文④)。
- 独自開発情報:秘密情報を受領する前から受領者が独自に開発・保有していた情報。
- 第三者からの適法な取得:秘密保持義務を負わない第三者から適法に取得した情報。
- 法令等による開示義務:法律、裁判所命令、政府機関からの要請などにより開示が義務付けられる情報。この場合、開示者は、可能な限り事前に秘密情報開示者に通知する義務を設けることが望ましいです。
ウ.秘密保持義務の存続期間(Survival Period)
なぜ問題になるのか?:
契約終了後も秘密保持義務が存続するかどうかは、情報の保護期間に直結します。期間が短すぎると、情報が陳腐化する前に漏洩するリスクがあります。
確認すべきポイント:
- 秘密保持義務が契約の終了または満了後も存続する旨(survive the expiration or termination)を明確に規定し(例文④)、その具体的な期間(例:for a period of 10 years – 例文④)を定めましょう。
- 技術情報の特性や業界慣行に応じて適切な期間を設定します。永久的な秘密保持を求める場合もありますが、実効性や交渉の難易度も考慮が必要です。
エ.秘密情報の返還・破棄義務
なぜ問題になるのか?:
契約終了時に秘密情報が受領者側に残っていると、将来的に漏洩のリスクが残ります。
確認すべきポイント:
- 契約終了時(理由の如何を問わず)に、受領者が秘密情報の全てのコピーを速やかに返還または破棄する義務(例文③、例文④)を明確に規定しましょう。
- 有形・無形(intangible copies)の区別も明記するとより確実です(例文④)。
- 破棄証明書(Certificate of Destruction)の提出義務(例文③)を求めることも実務上大変有効です。
オ.救済措置(Remedies)と差止め命令(Injunction)
なぜ問題になるのか?:
秘密保持義務が破られた場合、金銭的損害賠償だけでは、漏洩した秘密情報の回復は困難であり、回復不能な損害が生じる可能性があります。
確認すべきポイント:
- 秘密保持義務違反があった場合、金銭的損害賠償に加えて、差止め命令(injunction)や特定履行(specific performance)を求める権利があることを明記しましょう。これは、違反行為そのものを停止させるための強力な手段です。
- 「回復不能な損害(irreparable harm)」が生じる可能性について言及し、金銭的損害賠償では不十分である旨を明記すると、裁判所が差止め命令を出す際の強力な根拠となります。
2.例文と基本表現
1)Confidentiality(秘密保持条項)の例文①
シンプルな内容です。この例文では、相手方のみに、秘密保持義務を課しています。契約の範囲内で提供されるすべての情報を秘密保持の対象にしています。
In the process of cooperation between ABC Company and XYZ Company, Company XYZ shall have strict confidentiality responsibility and obligation to all technical and commercial materials in the scope of cooperation and shall not disclose them to a third party.
(訳)
ABC会社とXYZ会社の間の協力の過程において、XYZ会社は、協力の範囲内におけるすべての技術資料およびビジネス資料について、厳格な守秘の責任と義務を負い、それらを第三者に開示しないものとする。
- In the process of:の過程において
- in the scope of cooperation:協力の範囲内において
- disclose:開示する
2)Confidentiality(秘密保持条項)の例文②
機密情報の所有者が別にいて、当事者双方が秘密保持義務を負います。秘密保持義務の例外(公知情報)が規定されています。
Both ABC Company and XYZ Company represent to another party as the provider and receiver of confidential information in the course of executing the term of this agreement, and thus both parties undertake confidentiality obligations and liabilities. Neither party shall disclose the information of the owner, unless the disclosure is allowed by a written agreement signed by the two parties nor there is clear evidence that proves the information is publicly known.
(訳)
ABC会社とXYZ会社は共に、本契約 of の期間を履行する過程で、機密情報の開示者および受領者として他の当事者に対し表明し、両当事者は共に機密保持義務および責任を負う。 両当事者が署名した書面での合意により開示が許可されていない限り、または情報が公に知られていることを証明する明確な証拠がない限り、いずれの当事者も所有者に関する情報を開示してはならない。
- represent to:~に対し表明する
- the provider and receiver:開示者および受領者
- in the course of executing the term of this agreement:本契約の期間を履行する過程で
- undertake:(責任などを)を負う
- Neither party:いずれの当事者も~でない
- the disclosure:開示
- written agreement:書面での合意(※agreementは、ここでは契約でなく合意事項の意味)
3)Confidentiality(秘密保持条項)の例文③
秘密情報の特定表示(Confidentialマーク)、秘密情報の目的外の使用禁止、契約終了後の秘密情報の返還・破棄証明書の提出が規定されています。
Each party hereby agrees that all information provided by the other party and identified as “confidential” will be treated as such, and the receiving party shall not make any use of such information other than with respect to this Agreement. If the Agreement shall be terminated, each party shall return to the other all such confidential information in their possession, or will certify to the other party that all of such confidential information that has not been returned has been destroyed.
(訳)
各当事者は、他の当事者によって提供され、「機密」として特定されたすべての情報がそのように扱われることに同意し、受領当事者は、本契約に関連する目的以外で、当該情報を使用しないものとする。 本契約が終了する場合、各当事者は、所持するすべての機密情報を相手側に返還するか、または返還されていない機密情報がすべて破棄されたことを相手方に証明するものとする。
- the receiving party:受領当事者
- make any use of:~を使用する
- other than:~以外で
- with respect to:に関連する(※ここでは関連する目的に意訳)
- terminate:(契約が)終了する
- in their possession:所持する
- certify to:に証明する
4)Confidentiality(秘密保持条項)の例文④
雇用契約における従業員の秘密保持義務と目的外使用の禁止、秘密保持の長い存続期間(10年間)、秘密保持の例外、契約終了時の秘密情報の返却・無形データの完全消去が規定されています。
The Employee acknowledges that, in the course of his/her employment with the Company, he/she will receive information from the Company that is of a confidential and proprietary nature (“Confidential Information”), and that disclosure of Confidential Information to third parties would cause harm to the Company. Thus, the Employee agrees that (i) he/she will not disclose Confidential Information to any third party and (ii) he/she will not use Confidential Information for any purpose other than the performance of the Work Duties, unless he/she receives prior written approval for such disclosure/use from a representative of the Company who has the authority to give such an approval. These non-disclosure and limited use obligations shall not apply to Confidential Information that is publicly available at the time of receipt by the Employee from the Company or which becomes publicly available after such receipt by the Employee from the Company through no fault of the Employee. These non-disclosure and limited use obligations shall survive the expiration or termination of this Agreement for a period of 10 years. Upon the expiration or termination of this Agreement for any reason, the Employee shall promptly return to the Company all copies (or permanently delete, in the case of intangible copies) of Confidential Information that may be in his/her possession.
(訳)
従業員は、会社での雇用期間中に、会社から機密情報および専有情報(以下、「機密情報」という。)を受領し、機密情報を第三者に開示することは、会社に損害を与えることを認識する。したがって、従業員は、承認権限を有する会社の担当代表者からの開示/使用に関する書面による事前の承認がない限り、(i)機密情報を第三者に開示しないこと、および(ii)業務の遂行以外の目的で機密情報を使用しないことに合意する。これらの非開示および限定使用の義務は、 従業員が会社から受領した時点で既に公知になっている、または会社から従業員が過失なく受領した後に公知になった機密情報に適用されない。これらの非開示および限定使用の義務は、10年間、本契約の満了または解除後も存続するものとする。何らかの理由で本契約が満了または解除した場合、従業員は、所持している可能性のある機密情報のすべてのコピーを速やかに会社に返却する(無形コピーの場合は完全に削除する)ものとする。
- he/she / his/her:従業員、従業員のと訳します(※英文契約書の雇用契約では、個人の性別を表す表現がよく使われます)
- of a confidential and proprietary nature:機密情報および専有情報(※直訳は機密且つ財産的価値の性質)
- third parties:第三者(契約当事者以外の者)
- cause harm to:に損害を与える
- for any purpose other than:以外の目的で
- the performance of the Work Duties:業務の遂行
- prior written approval:書面による事前の承認
- a representative:代表者、担当代表者
- non-disclosure:非開示
- publicly available:公知になっている
- through no fault of the Employee:従業員が過失なく
- survive:存続する
- the expiration or termination:満了または解除
- for any reason:何らかの理由で
- intangible:無形の
- be in his/her possession:所持している
知識補強:秘密保持条項(Confidentiality)と緊密に連動する重要一般条項
Confidentiality条項のリスク管理体制をより強固にするためには、契約書内の他の一般条項の機能や対処法とあわせて体系的に理解しておくことが重要です。
- 損害賠償条項(Damages):秘密情報の漏洩が発生した場合、流出による営業損失や逸失利益の立証は実務上非常に困難です。そのため、一般的な損害賠償条項の構成や修正例をあらかじめ把握し、自社を守る損害請求ルートを整えておく必要があります。
- 損害賠償額の予定条項(Liquidated Damages):特に重要なNDA(秘密保持契約書)では、違反時の立証負担を軽減するために「情報漏洩時の賠償金額」をあらかじめ契約内で固定するアプローチが取られることがあります。実務上の設計ポイントを学ぶことで、抑止力を格段に高めることができます。
- NDA(秘密保持契約)の全体設計:単一の条項チェックだけでなく、実際の契約締結の現場における交渉の力関係や、契約書全体としての注意点を網羅的に確認することで、より実践的なリーガルチェックが可能となります。
