契約の条項 - 権利の譲渡禁止

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1.権利の譲渡禁止とは

債権の譲渡は、原則として自由に行うことができます。(民法466条1項)

しかし、契約当事者以外の第三者の債権者が登場して、債権が譲渡されてしまい、債権者の請求を受けることになれば、契約の法律関係が複雑になってしまう可能性があります。

債権を自由に譲渡できることになれば、最終的な権利者が誰なのかが不明確になることも考えられます。 債務者にとっては、二重払いのリスクもでてきます。

また、債務者が経営不振に陥ると、債権者からの要請に応じ、複数の債権譲渡を行う可能性があります。

この点、契約に債権の譲渡禁止特約の条項を入れておけば、(その特約を知らない善意の譲受人には対抗できませんが)その特約を知っている債権者また重過失により知らない債権者に対しては、債権譲渡の効果が有効でないと主張することができます。

このように、権利の譲渡禁止の条項をいれることで、契約当事者以外の第三者が登場することを防ぐことができます。

なお、債権と異なり、義務(債務)については、原則として契約の相手方の承諾なしに譲渡することはできません。 勝手に義務を第三者に譲渡できると、権利者が不当に害されるためです。

権利の譲渡禁止の条項では、義務についても承諾なしに譲渡できないと規定しているのが一般的ですが、これは注意的な意味でしかありません。

2.権利の譲渡禁止 - 条項の例

① 従来の一般的な条項

現行民法における債権譲渡についての条項は、以下に示す例のように、契約当事者双方が債権の譲渡を禁止する内容にしているものが一般的です。

現行民法では、債権の譲渡は原則として自由であるものの、譲渡禁止特約を行う場合、譲渡禁止特約に違反して行われた債権譲渡は、原則として無効とされています。(現行民法466条2項)

「第○条 (権利の譲渡禁止等)
甲及び乙は、予め相手方の書面による承諾を得ないで、本契約に基づく権利、義務又は財産の全部又は一部を第三者に譲渡し、承継させ、又は担保に供してはならない。」

② 譲渡禁止を買主に限定する - 売主に有利な条項

現代では、ファクタリングのような売掛金の買取による資金調達が進んでいます。

一方で、原則として譲渡禁止特約に違反した債権譲渡が無効とされており、これが資金調達の支障となっていました。

そこで、改正民法では、譲渡禁止特約が存在し、それに違反した債権譲渡があった場合でも、債権の譲渡は有効であるとされました。(改正民法466条2項)

このように、ファクタリングによる資金調達を活性化させるために民法改正が行われたことにより、今後、売掛金を早期資金化する事態が多くみられることになるといわれています。

そのため、従来の債権譲渡禁止条項についても、見直す余地がありそうです。

そこで、当事者双方の債権譲渡を禁止する特約を設けておくのではなく、自社の売掛金については譲渡禁止特約を設けないやり方もありえます。

以下の条項の例では、譲渡禁止の特約は、買主のみに適用させて、売主に適用させないでいます。

「第○条 (権利の譲渡禁止等)
は、予めの書面による承諾を得ないで、本契約に基づく権利、義務又は財産の全部又は一部を第三者に譲渡し、承継させ、又は担保に供してはならない。」

③ 譲渡禁止を売主に限定する - 買主に有利にする

買主は、売買契約が締結された際は、商品の納品を受けることができるという権利を取得します。この権利を自由に譲渡することにより、早期に転売できるという利点が生じる可能性があります。

そのため、譲渡禁止特約を買主に適用させなければ、買主に有利になります。

「第○条 (権利の譲渡禁止等)
は、予めの書面による承諾を得ないで、本契約に基づく権利、義務又は財産の全部又は一部を第三者に譲渡し、承継させ、又は担保に供してはならない。」