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英文契約書の 一般条項として設けられるAnti-Bribery(贈収賄禁止条項)について解説します。例文をとりあげて対訳と要点をつけました。例文中の基本表現には注記を入れてあります。
1.解説:
1)外国公務員への贈収賄と適用法令
海外とのビジネスにおいて、外国公務員との贈収賄の発生を予防することの重要性が増大しています。
外国公務員への贈収賄の禁止については、国内外で適用となる以下の法律があります:
日本:不正競争防止法
米国:the United States Foreign Corrupt Practices Act(FCPA:米国の海外腐敗行為防止法)
英国:the United Kingdom Bribery Act(UKBA:英国の増収賄防止法)
たとえば、日本の会社が米国公務員との間で贈収賄を行った場合、
日本の本社は、不正競争防止法、
米国の現地法人は、FCPA(米国の海外腐敗行為防止法)
で罰せられます。
2)英文契約書とAnti-Bribery(贈収賄禁止条項)
したがって、海外取引先との間で
Distribution Agreement(販売店契約)
Service Agreement(業務委託契約)
Consulting Service Agreement(コンサルティング契約)
などの英文契約書を結ぶ場合には、Anti-Bribery(贈収賄禁止条項)を設けて、外国公務員との贈収賄の防止の徹底を図ることがきわめて重要と言えます。
なお、Anti-Bribery(贈収賄禁止)は、Compliance with Law(法令遵守の条項) に盛り込まれて、規定される場合もあります。
(注):
下記に、Anti-Bribery(贈収賄禁止条項)の例文をふたつあげています。
このふたつの例文は、いずれも、贈収賄の禁止の部分のみをとりあげています。
贈収賄の防止のため契約条文としてより確実なものにするためには、以下のような損害賠償と契約解除の規定も加えることが望ましいと言えます。
①贈収賄の違反を行った当事者に対して、贈収賄の違反により生ずるすべての損失と費用を賠償請求する。
②一方当事者に贈収賄の違反が起きた場合、相手方当事者は契約を直ちに解除することができる。
3.Anti-Bribery(贈収賄禁止条項)の実務上の重要点
と交渉の視点
Anti-Bribery(贈収賄禁止条項)は、単なる法令遵守の確認条項ではなく、企業が国際取引における法的リスクを管理するための重要なツールです。
特に、日本の不正競争防止法、米国のFCPA、英国のUKBAといった各国の法令は、自国の企業だけでなく、その子会社や代理店、販売店にも適用される場合があり、違反時の罰則は非常に重いため、契約を通じて取引先にもコンプライアンス遵守を徹底させることが不可欠です。
ア.Anti-Bribery条項の適用範囲と具体性
誰に適用されるか:
Anti-Bribery条項は、当事者である企業だけでなく、その役員、従業員、代理店、下請け業者など、契約に関連する全ての関係者に適用されるようにすることが重要です。
例文②にある「directly or indirectly(直接的にも間接的にも)」という表現は、この適用範囲を広げるための鍵となります。
何を禁止するか:
禁止行為を具体的に列挙することで、条項の解釈を明確にし、意図しない違反を防ぐことができます。
例文②のように、「facilitation payment(手続き円滑のための支払い)」や「hospitality(接待)」など、一見合法と見なされがちな行為まで含めて禁止することで、コンプライアンスの基準を高めます。
facilitation paymentは、FCPAでは軽微なものであれば例外的に認められる場合もありますが、UKBAでは一切禁止されているため、どの国の法令を基準とするかによって禁止の範囲が変わる点に注意が必要です。
イ.補償(Indemnification)と契約解除(Termination)条項
との連携
Anti-Bribery条項の実効性を高めるには、違反した場合のペナルティを明確に規定することが不可欠です。
補償義務:
Anti-Bribery条項に違反した当事者は、その違反によって相手方が被った全ての損害(罰金、訴訟費用、評判の低下によるビジネス上の損失など)を補償するという規定を設けます。
これにより、違反企業に経済的な負担を負わせることで、違反行為を抑止する効果があります。
即時解除権:
贈収賄行為は、企業の存続に関わる重大なリスクです。そ
のため、Anti-Bribery条項違反が判明した場合、相手方は直ちに契約を解除できるという規定を設けることが一般的です。
これにより、取引関係を迅速に解消し、自社が法的な共犯者と見なされるリスクを回避することができます。
ウ.デューデリジェンスと監査権
契約書には、取引相手が贈収賄防止法を遵守しているかを確認するための条項を設けることも重要です。
表明保証:
契約締結時に、相手方が過去に贈収賄行為を行っていないこと、および今後も行わないことを表明保証させる条項を設けます。
監査権:
自社の判断で、相手方のコンプライアンス体制を監査できる権利(right to audit)を設けることで、贈収賄リスクを継続的に監視することができます。
教育:
取引相手に対し、自社の贈収賄防止ポリシーを共有し、必要に応じてトレーニングを義務付ける条項も有効です。
Anti-Bribery条項は、単に契約書に盛り込むだけでなく、その背後にある国内外の法令リスクを理解し、補償、解除、監査といった関連条項と連携させることで、初めて実効性を持つ重要なツールとなります。
国際ビジネスにおけるコンプライアンス体制を強化するために、これらのポイントを考慮して条項をレビュー・交渉することが求められます。
※実務上の視点:
贈収賄禁止条項(Anti-Bribery)は、海外の政府関係者や公務員に対して、取引獲得などの不当な利益を目的として金銭や接待を提供する行為を相互に禁止する贈収賄禁止条項という条項タイプ(clause type)です。
この条項の最も大切な機能(specific function)は、取引先が現地で行った不正行為による連鎖的な責任追及を防ぎ、自社が米国のFCPA(海外腐敗行為防止法)や英国のUKBA(贈収賄防止法)といった各国の厳格な法規制に抵触する致命的なリスクを回避して、企業の健全な社会的信用を維持することにあります。
リーガルチェックの現場では、この条項によって自社に「もし相手方に重大なコンプライアンス違反の疑いが生じた場合、自社を法的なリスクから保護して迅速に対処するための権利(rights of use)」が確実に確保できているかを精査します。
具体的には、自社が海外の販売店やコンサルタントに現地の業務を委託する立場であれば、企業の安全を守る防衛線として「相手方に対し、直接的にも間接的にも不適切な金銭や利益の提供を一切認めない権利(rights of use)」(例文①)や、「行政手続きの円滑化を目的とした現地での少額の支払い(ファシリテーション・ペイメント)まで含めて包括的に禁止する権利(rights of use)」(例文②)を取り決めておくことが重要です。
さらに、万が一相手方に違反行為が発覚した場合には、自社の安全を確保するための強力な防衛線として「相手方の帳簿や記録を随時確認できる監査権(Right to Audit)を行使し、催告なしに直ちに契約を解除して、発生したすべての損失を相手方に全額補償させる権利(rights of use)」を併せて規定しておくことが、国際的なコンプライアンス実務において自社の正当性を証明するための必須の設計となります。
贈収賄禁止(Anti-Bribery)と 法令遵守(Compliance with Law)の比較:
英文契約の実務において、健全なビジネスを維持するための規定として「贈収賄禁止(Anti-Bribery)」と「法令遵守(Compliance with Law)」の2つがありますが、これらは対象とする範囲の広さと、違反時に生じる影響の大きさに明確な違いがあります。実務的な対応を的確に行うため、それぞれの本質的な違いを整理しておきましょう。
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贈収賄禁止(Anti-Bribery):
企業の存続に関わる重大な法的リスクを防止する「特定の不法行為への対策」 -
法令遵守(Compliance with Law):
ビジネスに関わるすべての規範を広く網羅する「包括的な基本原則」-
特徴:
「本契約に関係するすべての国や地域の、あらゆる法律、政令、および政府規則を遵守する」という、ビジネスを遂行する上での大前提を広くカバーする共通のルールです。
環境保護規制、労働基準法、個人情報保護、および現地の税法など、準拠すべきすべての法規がこの中に含まれます。贈収賄禁止条項(Anti-Bribery)がこの法令遵守条項の一部として包括して規定されるケースもありますが、その場合でも、贈収賄が持つ特有のリスクを見落とさないよう個別に配慮する必要があります。
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【選択の指針】
もし自社が、海外市場で現地の販売店、代理店、あるいはコンサルティング会社を起用してビジネスを展開する立場であれば、相手方が現地で不適切なアプローチを行うリスクを確実に排除するため、契約書に独立した「贈収賄禁止(Anti-Bribery)」の条項を必ず設けるのが鉄則です。
その際は、例文②のように「接待(Hospitality)」や「手続き円滑のための支払い(Facilitation payment)」といった、現地の実務で慣習的に行われがちなグレーゾーンの行為まで明確に列挙して合意を形成しておくことが、将来的な不測の法規違反や連鎖的な摘発リスクを回避するための最も有効なアプローチとなります。
2.例文と基本表現:
1)Anti-Bribery(贈収賄禁止条項)– 例文①
外国公務員に影響を与えたり、影響を与えようとすることを目的とする金銭や対価物の提供を禁止しています。
The Parties will not directly or indirectly, offer or pay or authorize such offer or payment of any money or other consideration to improperly influence or seek to influence any governmental official. In performing its respective obligations under this Agreement each Party will comply with all applicable statutes, regulations and government rules relating to anti-bribery and anti-corruption including the United States Foreign Corrupt Practices Act and the United Kingdom Bribery Act 2010.
(訳):
両当事者は、国家公務員に不適切な影響を与えたり、影響を与えようとするために、直接的にも間接的にも、金銭の支払い若しくはその他の対価を提供、支払い又は提供及び支払いの許可、をしてはならない。各当事者は、 本契約に基づく各々の義務を履行するにあたり、米国の海外腐敗行為防止法および2010年英国贈収賄法を含む贈収賄防止及び腐敗防止に関係するすべての適用法、規制及び政府規則を遵守するものとする。
(注):
*other considerationは、その他の対価という意味です。
*influence or seek to influenceは、影響を与えたり、影響を与えようとするためにという意味です。
*governmental officialは、国家公務員という意味です。
*its respective obligations under this Agreementは、its respective obligations(各々の義務)と under this Agreement(本契約に基づく)の組み合わせで、本契約に基づく各々の義務という意味です。
*comply with all applicable statutes, regulations and government rulesは、comply with(~を遵守する)とall applicable statutes, regulations and government rules(すべての適用法、規制及び政府規則)の組み合わせで、すべての適用法、規制及び政府規則を遵守するという意味です。
*the United States Foreign Corrupt Practices Actは、米国の海外腐敗行為防止法の意味です。
*the United Kingdom Bribery Act 2010は、2010年英国贈収賄法の意味です。
2)Anti-Bribery(贈収賄禁止条項)– 例文②
facilitation payment(手続き円滑のための支払い)を含め、対象となる禁止行為が具体的に挙げられています。
Each Party agrees that it has not and shall not, either directly or indirectly, engage in the following conduct: bribery or offer, promise, authorize to pay, or make any improper payment of any monies or financial or other advantage, including cash, loan, gift, travel, entertainment, hospitality, facilitation payment, kickback, political or philanthropic contribution, anything of value, or any other perceived benefit to improperly obtain or retain a business advantage in violation of any Anti-Corruption Laws and further, each Party agrees that it shall not take any action that would cause the other Party to be in violation of such Anti-Corruption Laws.
(訳):
各当事者は、直接的にも間接的にも、次に掲げる行為を現に行っておらず、今後も行わないことに合意する:贈収賄防止法に違反してビジネス上の優位性を不適切に獲得し、又は保持するために行うための贈収賄又は支払いの申し出、約束、許可若しくは金銭若しくは金銭的その他の利益の不適切な支払い(キャッシュ、ローン、贈答品、旅行、娯楽、接待、手続き円滑のための支払い、キックバック、政治的若しくは慈善的貢献、価値のあるもの若しくはその他の便益と認識されるものを含む)。さらに、各当事者は、他の当事者にかかる贈収賄防止法の違反につながらせる行動をとらないことに合意する。
(注):
*hospitalityは、接待という意味です。
*facilitation paymentは、手続き円滑のための支払いという意味です。
*philanthropic contributionは、慈善的貢献という意味です。
*anything of valueは、価値のあるものという意味です。
*perceived benefitは、便益と認識されるものという意味です。
*improperly obtain or retain a business advantageは、ビジネス上の優位性を不適切に獲得し、又は保持するという意味です。
*in violation of any Anti-Corruption Lawsは、贈収賄防止法に違反してという意味です。
*any action that would cause the other Party to be in violation ofは、cause(つながらせる)が入っており、他の当事者に(贈収賄防止法)の違反につながらせる行動という意味です。
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