Audit Rights(監査権条項)

英文と日本語のビジネス契約書の作成・チェック(レビュー)・翻訳の専門事務所です。(低料金、全国対応)

英文契約書において監査権条項として規定されるAudit Rightsについて解説します。併せて、例文をとりあげ、要約と対訳をつけて基本表現に注釈を入れました。

1.解説:

1)Audit Rightsとは

Audit Rightsとは、英文契約書に設けられる

監査権条項

のことを意味します。

Audit Rights(監査権条項)は、

業務委託契約ライセンス契約などの主要条項

として置かれます。

2)Audit Rights(監査権条項)の内容・狙い

Audit Rights(監査権条項)の内容・狙いは、以下のようになります。

業務委託契約Audit Rights(監査権条項):

受託先のサービス会社が行うサービス業務の質を維持するために、そのサービス業務の履行に関する記録やプロセスを委託先のベンダーが監査する狙いがあります。(下記の例文①をご覧ください)

ライセンス契約Audit Rights(監査権条項):

ライセンシーが支払うロイヤリティ額が正確であるかどうかを監査することが狙いです。

もし過少(たとえば、取り決めたライセンス額の5%以上)が発見された場合は、監査費用をライセンシー負担とすることもあります。(下記の例文②をご覧ください)

3.Audit Rights(監査権条項)における実務上の重要点と交渉の視点

Audit Rightsは、契約相手の履行状況を監督し、自社の正当な利益を確保するために非常に重要な条項です。

しかし、その実施にはコストや手間がかかる上、相手方との関係性にも影響を与える可能性があるため、実務上の運用や交渉においては以下の点に留意する必要があります。

ア.監査の範囲と対象の明確化

監査権条項を実効性のあるものにするためには、何を、どこまで監査できるのかを具体的に定めることが重要です。

監査対象となる「記録」の範囲:

会計帳簿、販売記録、製造記録、顧客リスト、通信記録など、監査の目的(ロイヤリティ計算、サービス品質維持など)に応じて必要な記録の種類を網羅的に指定します。

電子データを含むか否かも明確にするとよいでしょう。

監査対象となる「プロセス」の範囲:

業務委託契約の場合、サービスの品質を評価するために、実際にサービスがどのように提供されているか、その工程や手順を監査対象に含めることがあります。

これには、現場への立ち入り、担当者へのヒアリングなども含まれるかを確認します。

製造委託契約であれば、製造工程の品質管理体制(Quality Management System)まで踏み込んだ監査権を設けることも重要です。

関連会社・下請けへの適用:

契約相手だけでなく、その子会社や関連会社、あるいは下請け業者(subcontractors)が関係する業務や記録についても監査権が及ぶように定めることが、実効性を高める上で不可欠です。

イ.監査の実施条件と手続き

監査権は強力な権利であるため、相手方の業務を不必要に妨げないよう、その実施条件や手続きを明確に規定し、バランスを取る必要があります。

事前通知期間:

例文①にあるように「5 business days prior notice」のように、監査実施前の事前通知期間を明確に定めます。

これは、相手方が監査の準備をするための時間を与えるものです。

期間が短すぎると相手方から反発が生じ、長すぎると緊急時の監査が難しくなるため、バランスが重要です。

実施日時と場所:

「during normal business hours」のように、相手方の通常の営業時間内に実施することを明記します。

また、監査を行う場所(相手方の事業所、あるいは特定の記録保管場所)も特定するとよいでしょう。

監査担当者の資格と秘密保持義務:

監査を実施する者(自社の従業員、または外部の会計士・弁護士など)の資格を定める場合があります。

また、監査を通じて知り得た相手方の秘密情報に対する厳格な秘密保持義務を負わせることを明確に規定します。

監査頻度:

「at any time」と規定されることもありますが、例えば「年に1回まで」や「合理的な回数」など、監査の頻度を制限することで、相手方の業務への過度な負担を避ける場合があります。

ウ.監査費用の負担と是正措置

監査の結果、契約違反や不正確な報告が判明した場合の費用負担と是正措置について明確に規定することが重要です。

費用負担の原則:

通常、監査費用は監査を行う側(権限保有者)が負担しますが、例文②のように「過少が発見された場合の相手方負担」という規定は非常に一般的です。

この「過少の割合(例:5%)」は交渉の重要なポイントとなります。

この割合は、相手方が故意に過少報告を行った場合のペナルティとしての意味合いも持ちます。

是正措置と期間:

監査結果、契約違反や不備が発見された場合に、相手方が一定期間内に是正措置を講じる義務を定めます。

是正がなされない場合の措置(契約解除など)も併せて規定します。

損害賠償:

監査の結果、過少な支払いなどが判明した場合に、未払い分の支払いだけでなく、遅延損害金や、発生した追加の損害に対する賠償を請求できる旨を規定することもあります。

エ.契約終了後の監査権

例文①にあるように、契約解除または期間満了後も監査権が継続する旨を定めることは極めて重要です。

継続期間:

「5年間」のように、一定の期間を定めて継続させます。

これは、契約期間中に発生した事象に関する記録が、契約終了後も監査の対象となることを保証するためです。

特に、法的な時効期間などを考慮して設定されます。

監査継続の目的:

契約終了後の監査の目的(例:未払いロイヤリティの回収、秘密情報の不適切な利用の確認など)を明確にすることで、相手方の不必要な不利益を防ぎます。

Audit Rightsは、信頼関係を前提としつつも、万が一の事態に備えて自社の権利と利益を守るための「保険」のような条項です。

これらの実務上のポイントを踏まえることで、契約の実行フェーズにおけるリスクを効果的に管理し、円滑なビジネス関係を維持できるでしょう。

2.例文と基本表現:

(注):よく使われる基本表現をハイライトし注記を入れています。

1)Audit Rights(監査権条項) – 例文①

業務委託契約からです。委託先のベンダーは、受託先のサービス会社が行うサービス業務の履行記録やプロセスを監査できます。

Audit Rights Vendor reserves the right to audit, inspect, and make copies or extracts of Service Provider’s records and processes associated with Service Provider’s performance under this Agreement at any time with 5(five) business days prior notice to Service Provider. Any audit or inspection will occur during Service Provider’s normal business hours. Vender’s right to audit, inspect, and make copies or extracts of Service Provider’s records and processes shall continue for a period of five years following the termination or expiration of this Agreement.

(訳):

監査権 ベンダーは、サービス会社への5営業日前の通知により、本契約に基づくサービス会社の履行に関係する記録及びプロセスを、いつでも監査、検査並びにコピー又は抜粋することができる。 監査又は検査は、サービス会社の通常の営業時間に行われるものとする。 サービス会社の記録及びプロセスを監査、検査並びにコピー又は抜粋するベンダーの権利は、本契約の解除又は期間満了後も5年間継続するものとする。

(注):

reserves the right toは、~する権利を留保する、~することができるという意味です。

*make copies or extractsは、コピー又は抜粋するという意味です。

associated withは、~に関係するという意味です。

performanceは、履行という意味です。くわしくは、performとperformanceの意味と例文をご覧ください。

*normal business hoursは、通常の営業時間という意味です。

*following the termination or expiration of this Agreementは、following(~の後に)the termination or expiration of this Agreement(本契約の解除又は期間満了)の組み合わせで、本契約の解除又は期間満了後という意味になります。

2)Audit Rights(監査権条項) – 例文②

ライセンス契約からです。ライセンサーは、ライセンシーが支払うロイヤリティ額が正確であるかどうかを監査できます。ロイヤリティ額に過少が発見された場合は、ライセンシーが監査費用を負担します。

Audit Rights During the Life of this Agreement, Licensor shall have the right, with reasonable Notice to Licensee, during normal business hours, to audit on a Confidential basis, any relevant books and records of Licensee or its sub-licensees to ensure that the type and amount of Fees calculated or stated to be payable to Licensor are complete and accurate. Licensee shall bear the costs of such audit (including reasonable in-house and outside accountant and attorneys’ fees, if incurred) if Licensor determines that Licensee (together with its sub-licensees) has not paid, calculated, and/or reported Fees of more than five percent (5%) of that due Licensor under this Agreement.

(訳):

監査権 本契約の存続期間中、ライセンサーは、ライセンサーに支払われるべき計算又は記録された料金完全かつ正確なものであることを確認にするために、ライセンシーへの妥当な通知期間をおいて、ライセンシー又はそのサブライセンシーの関連する帳簿及び記録を、通常の営業時間中に、機密扱いにて監査する権利を有するものとする。 ライセンシーが(サブライセンシーとともに)本契約に基づくライセンサーへの5パーセントを超える料金を支払、計算または報告していないとライセンサーが判断した場合、ライセンシーは、かかる監査の費用(合理的な社内及び社外の会計士並びに弁護士費用を含む)を負担するものとする。

(注):

During the Life of this Agreementは、本契約の存続期間中という意味です。同様の表現にduring the term of this Agreementがあります。

with reasonable Noticeは、妥当な通知期間をおいてという意味です。

books and recordsは、帳簿及び記録という意味です。くわしくは、books and recordsの意味と例文をご覧ください。

Fees calculated or statedは、計算又は記録された料金という意味です。 

payable toは、~に支払われるべきという意味です。

*complete and accurateは、完全かつ正確なという意味です。

bear the costsは、費用を負担するという意味です。

 

英文契約書・日本語契約書の作成・チェック(レビュー)・翻訳は、当事務所にお任せください。リーズナブルな料金・費用で承ります。

お問合せ、見積りは、無料です。お気軽にご相談ください。

受付時間: 月~金 10:00~18:00

メールでのお問合せは、こちらから。

ホームページ:宇尾野行政書士事務所