without prejudice toの意味と例文

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英文契約書の基本表現である”without prejudice to”について解説します。例文をとりあげ、要点と対訳と語注をつけました。

1.解説:

1)without prejudice toとは

without prejudice to”は、

~の権利を害することなく
~に影響を及ぼすことなく
~を妨げることなく

などと訳されます。

prejudice”は、日常生活では「偏見」の意味です。

一方、法律用語としての”prejudice”は、「不利益 」や「権利侵害」の意味に使われます。

2)without prejudice toの使い方

without prejudice to”は、

Termination(契約解除条項)で、

当事者の権利保護を目的によく使われます。

なお、Termination(契約解除条項)とは、

契約上の重大な違反がある場合に、契約解除となる事由を挙げて、どのような事由・条件があるときに、当事者間の契約関係を終了できるかについての手続き

を定めた条項のことをいいます。

具体的には、以下のような使い方です。(青字部分

『当事者は、相手に通知することにより、他の権利や救済手段に影響を与えることなく、契約を解除できる』

セクション2.例文と基本表現に、二つの例文をとりあげました。

3)without prejudice toが契約における「将来の権利行使の自由」と「実務上の選択肢」を担保する意味合い

without prejudice to は、単に「〜に影響を与えない」という意味に留まらず、契約当事者が取る特定の権利行使が、それ以外の別の権利や救済手段の行使を妨げないという、非常に重要な法的効果をもたらします。

これは、特に複雑なビジネス紛争や契約解除の場面において、当事者の「将来の選択肢」と「実務上の柔軟性」を確保する上で不可欠な役割を果たします。

権利の喪失防止と選択肢の保持:

例えば、契約解除権を行使した場合、通常であれば、それ以外の損害賠償請求や契約履行の強制といった権利が失われると解釈される可能性があります。

しかし、without prejudice to its other rights and remedies と明記することで、契約解除という権利行使を行ったとしても、それとは別に損害賠償請求を行う権利や、将来的に他の法的手段を講じる権利を保持していることを明確にできます(例文①例文②)。

これにより、一つの権利行使が、意図せず他の権利の放棄とみなされるリスクを回避し、当事者が利用できる法的選択肢を最大限に維持することが可能になります。

和解交渉や話し合いの促進:

without prejudice は、「将来の訴訟において証拠として使用できない」という意味でも使われることがあります。

これは、特に和解交渉の場面で重要な意味を持ちます。

当事者が「without prejudice(付言すれば、和解協議は証拠として使わない、という意味合い)」と明記して交渉した場合、その交渉中に自社に不利な事実を認めたとしても、それが後に続く訴訟で相手方に利用されることを防ぐことができます。

これにより、当事者は法的なリスクを恐れることなく、自由かつ建設的な和解交渉に臨むことができます。

多角的アプローチの許容:

ビジネス紛争においては、単一の解決策では不十分な場合があります。

例えば、契約を解除しつつも、過去の損害については賠償を求めたい、あるいは、並行して別の契約上の義務の履行を要求したいといった状況が考えられます。

without prejudice to は、このような複数の法的手段や請求を同時に、または連続して追求する自由を当事者に与え(例文①例文②)、より実務的な紛争解決アプローチを可能にします。

法律的な「念のため」の表現:

この表現は、あるアクションが他の権利に悪影響を及ぼさないことを「念のため」に明確にすることで、解釈の余地を排除し、法的安定性を高める役割も果たします(例文①例文②)。

特に英米法では、判例法主義の下で、個別の行動が将来の権利行使に影響を与える可能性があるため、このような明示的な文言が極めて重視されます。

 

without prejudice to は、単なる定型句ではなく、契約当事者が予期せぬ権利喪失を防ぎ、常に最も有利な法的立場を維持するための「護符」 とも言える重要な表現です。

この表現の真の意味を理解し、適切に活用することで、契約の解除や紛争解決の場面において、自社の権利を最大限に保護し、実務上重要な優位性を確保することが可能になります。

 

2.例文と基本表現

(注):without prejudice toは、青文字で示しています。

(注):基本表現をハイライトし語注をつけています。

without prejudice to例文①:

Termination(契約解除条項)からです。当事者は、相手方が債務を支払えない場合、通知をして、他の権利と救済に影響を及ぼすことなく、契約を解除できます。

Either party shall be entitled to terminate this Agreement without prejudice to its other rights and remedies forthwith by notice in writing to the other party, if the other party is unable to pay its debts

(訳):

いずれの当事者も、相手方が債務を支払うことができない場合、相手方に書面で通知することにより、他の権利と救済に影響を及ぼすことなく、本契約を直ちに解除する権利を有する

(注):

*be entitled toは、権利を有するという意味です。

*forthwith は、日常的にはあまり聞きませんが、英文契約書で使われます。直ちにの意味です。詳しくは、forthwithの意味と例文をご覧ください。

*by notice in writing to the other partyは、相手方に書面で通知することによりという意味です。

without prejudice to例文②:

Termination(契約解除条項)からです。 当事者は、相手方に通知することにより、他の権利や救済手段に影響を及ぼすことなく、契約を解除できます。

Either party may, without prejudice to any other rights or remedies, terminate this Agreement by giving notice to the other party with immediate effect.

(訳):

いずれの当事者も、相手方に通知を行うことにより、他の権利または救済手段に影響を及ぼすことなく、本契約を解除することができ、解除の効果は直ちに生じる。

(注):

*by giving notice toは、に通知を行うことによりという意味です。

*with immediate effectは、(催告なしに)直ちに効果が生じるという意味です。詳しくは、with immediate effectの意味と例文をご覧ください。

 

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