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英文契約書の 一般条項として設けられるDispute Resolution(紛争解決条項)について、とりあげます。併せて、例文をとりあげ対訳をつけました。例文中の基本表現に詳しい注記をつけました。
1.解説:
1)Dispute Resolution(紛争解決条項)とは – 三つのパターン
Dispute Resolution(紛争解決条項)で規定される内容には、三つのパターンに区分されます。
まず二つのパターンが、仲裁または裁判による紛争解決です。
(三つ目のパターンは、次の2)の項目で解説します)
国際的な取引において紛争が生じた場合は、紛争解決の方法として、基本的に、仲裁か裁判のどちらかで行われます。
従って、英文契約書では国際的取引に関するDispute Resolution(紛争解決条項)は、通常、
Arbitration(仲裁条項)かJurisdiction(裁判管轄条項)のどちらかの条文で定めておく
のが一般的です。
・Arbitration(仲裁条項)の解説と例文については、
Arbitration(仲裁条項)|英文契約書の一般条項 をご覧ください。
・Jurisdiction(裁判管轄条項)の解説と例文については、
Jurisdiction(裁判管轄条項)|英文契約書の一般条項 をご覧ください。
2)Dispute Resolution – 当事者間の協議による解決
Dispute Resolution(紛争解決条項)の三つ目のパターンが、当事者間の協議です。
まず当事者間の協議によって解決を図ります。
そして当事者間の協議で解決できない場合に、arbitration(仲裁) か、jurisdiction(裁判管轄)のどちからの手段に移行する
ことを定めた契約条文がよく見られます。(下記の例文をご覧ください)
3)Dispute Resolution条項が担保する「ビジネス関係の維持」と「紛争解決の効率性」
Dispute Resolution(紛争解決条項)は、単に紛争が起きた際の「手続き」を定めるだけでなく、当事者間のビジネス関係を維持しつつ、紛争を最も効率的かつコストを抑えて解決するための「戦略的な道筋」 を示す点で極めて重要です(参考:下記の例文)。
特に、当事者間の協議を先行させる多段階の紛争解決プロセス(Multi-Tier Dispute Resolution Clause)は、以下の点でその価値を発揮します。
・信頼関係の維持とエスカレーションの抑制:
まず「誠実な協議(good faith negotiations)」を義務付けることで、当事者は法的な争いに入る前に、互いの主張を理解し、話し合いによって解決できる可能性を探ります。
これは、長年のビジネス関係やパートナーシップを不必要に損なうことなく、問題を内部で解決する機会を提供します。
すぐに訴訟や仲裁に移行するのではなく、一段階目の協議を設けることで、感情的な対立が激化するのを防ぎ、関係性の維持を優先する意図が示されます。
・時間とコストの削減:
訴訟や仲裁は、時間と弁護士費用が膨大にかかる可能性があります。当事者間の協議で問題が解決できれば、これらの高額な費用や長期にわたる手続きを回避できます。
交渉によって合意に至ることで、ビジネスへの影響を最小限に抑え、双方にとって実益のある解決策を見出す可能性が高まります。
例文のように「30日以上の期間」といった具体的な期間を設けることで、協議の期限が明確になり、無駄な引き延ばしを防ぎつつ、解決への集中を促します。
・適切な紛争解決手段への誘導:
協議が不調に終わった場合に、仲裁(Arbitration) や 裁判(Jurisdiction) といった、より正式な第三者による解決手段に移行する道筋を明確にすることで、不確実性を排除します。
特に国際取引においては、仲裁機関や裁判所を事前に指定しておくことで、どの国の法律が適用され、どこで紛争を解決するのかという「フォーラム・ショッピング(Forum Shopping)」の回避にも繋がり、当事者間の予見可能性を高めます。
・契約の信頼性と法的安定性の確保:
紛争解決手段を契約書に明確に定めておくことは、当事者双方にとって将来の紛争に対する安心感をもたらします。
契約に紛争解決条項がない場合、紛争発生時にどの国の裁判所で争うか、どの国の法律が適用されるか、といった点で新たな争いが生じ、事態がより複雑化するリスクがあります。
この条項を設けることで、契約全体の法的安定性が高まり、当事者は安心して取引に専念できます。
Dispute Resolution条項は、単なる事後処理のルールではなく、契約締結時から将来のリスクを見据え、ビジネス関係の継続と効率的な問題解決を目指すための、いわば「羅針盤」 となるものです。
そのため、この条項の内容は、契約締結前に慎重に検討し、自社のビジネス特性やリスク許容度に合わせて適切に設定することが非常に重要です。
(注):基本表現をハイライトしています。
Dispute Resolution – 例文
一定期間の当事者間の協議で解決できない場合、仲裁に移行します。
Dispute Resolution. In the event of any controversy or claim arising out of or relating to this Agreement, the Parties shall first attempt to resolve such controversy or claim through good faith negotiations for a period of not less than thirty (30) days following notification of such controversy or claim to the other Party. If such controversy or claim cannot be resolved by means of such negotiations during such period, then such controversy or claim shall be resolved by binding arbitration administered by the American Arbitration Association (“AAA”) in accordance with the Commercial Arbitration Rules of the AAA in effect on the date of commencement of the arbitration, subject to the provisions of this Section 11. The arbitration shall be conducted as follows:
(訳):
紛争解決 本契約に起因若しくは関連して解釈の相違又は申立てが発生した場合、当事者はまず、その解釈の相違について他の当事者に通知した後、30日以上の期間、誠実な協議を通じて、かかる解釈の相違又は申立てを解決するよう試みるものとする。 その期間中にかかる解釈の相違又は申立てが、そのような交渉によって解決できない場合、かかる解釈の相違又は申立ては、本契約第11条の規定に従って、仲裁の開始日に効力を有する米国仲裁協会(「AAA」)の商事仲裁規則に基づき、AAAが管理する拘束力を有する仲裁によって解決されるものとする。 仲裁は次のように行われる:
(注):
*in the event ofは、の場合という意味です。
*controversy or claimは、解釈の相違又は申立てという意味です。
*arising out of or relating toは、に起因若しくは関連してという意味です。
*attempt toは、~するよう試みるという意味です。
*good faith negotiationsは、誠実な協議という意味です。詳しくは、good faithの意味と例文をご覧ください。
*not less thanは、~以上という意味です。詳しくは、not more than と not less thanの意味と例文をご覧ください。
*binding arbitration administered byは、binding arbitration(拘束力を有する仲裁)とadministered by(が管理する)の組み合わせで、が管理する拘束力を有する仲裁という意味です。
*the American Arbitration Association (“AAA”) は、国際的な仲裁機関のひとつである米国仲裁協会のことです。詳しくは、Arbitration(仲裁条項)|英文契約書の一般条項をご覧ください。
*in accordance withは、~に従って、~に基づきという意味です。
*the Commercial Arbitration Rulesは、商事仲裁規則という意味です。
*in effect は、有効である、効力を有するという意味です。詳しくは、in forceとin effectの意味と例文をご覧ください。
*subject to the provisions ofは、~の規定に従ってという意味です。詳しくは、subject to の意味と例文をご覧ください。
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