Governing Law(準拠法条項)の修正例

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相手方の海外企業から提示された英文契約書のGoverning Law(準拠法条項)について、どのように対応するべきか、その修正案について解説します。

(注):

分かりやすいようにポイントを解説しています。実際の契約書に適用する際には、通常、個々の契約内容や状況に合わせて、十分に検討することが必要となります。

目次:
1.はじめに
2.相手方が指定するGoverning Law(準拠法条項)の例
3.4つの修正案

 1)修正案1
 2)修正案2
 3)修正案3
 4)修正案4
4.相手方との交渉ステップについて
5.まとめ

1.はじめに:

Governing Law(準拠法条項)とは、

契約の解釈の基準となる法律をどの国の法律にするのか

についてを取り決めた契約条項のことです。

海外企業との取引において、契約書に記載されるGoverning Law(準拠法条項)は、紛争発生時の裁判や仲裁の際に適用される法律を定める重要な条項となります。

米国のような多くの州から成る連邦国家を相手とする契約であれば、どこの州の法律を基準にするのかを取り決める必要があります。

契約交渉がスタートすると、当事者は、Governing Law(準拠法条項)として、通常、自国の法律や州法を主張します。

ここでは、相手方の米国企業がニューヨーク州法を一方的に指定してきたケースを想定し、以下の4つの修正案について解説します。

1)修正案1:

カリフォルニア州法を準拠法とする案(自社の拠点がカリフォルニア州にある場合)

2)修正案2:

中立的な第三国の法(シンガポール法)を準拠法とする案

3)修正案3:

統一商事法典の適用事項はニューヨーク州法、それ以外は日本法とする折衷案

4)修正案4:

日本法を準拠としつつ、他の管轄権の強制法規の場合は例外とする折衷案

2.相手方が指定するGoverning Law(準拠法条項)の例:

以下のように、相手方がニューヨーク州法を一方的に指定してきたケースを想定します。

This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of New York, USA.

(訳):

本契約は、米国ニューヨーク州法に準拠し、解釈されるものとする。

問題点:

①自社に不利な環境となる:

ニューヨーク州法は、ビジネス法が発達しており、国際的な取引において頻繁に利用されているという側面があります。

しかし、日本の企業にとっては、ニューヨーク州法の手続きや判例に不慣れな点から、不利な立場に置かれます。

②紛争解決の負担が大きい:

米国での訴訟は、日本と比較して費用が高額になりやすく、時間もかかる傾向があります。

3.つの修正案:

1)修正案1:

カリフォルニア州法を準拠法とする案(カリフォルニア州に自社の拠点がある場合)

This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of California, USA.

(訳):

本契約は、米国カリフォルニア州法に準拠し、解釈されるものとする。

解説:

もし自社がカリフォルニア州に現地法人を置いている場合、準拠法をカリフォルニア州法に修正することは、以下のような理由から、合理的な選択肢と考えられます。

カリフォルニア州に現地法人がある場合は、もし契約書の自社の当事者が日本法人であっても、カリフォルニア州法が適用される可能性が高くなります。

契約の履行場所がカリフォルニア州である場合、カリフォルニア州法が適用される可能性があるからです。

契約の履行や紛争解決において、現地法人の協力が不可欠となる場合、カリフォルニア州法を準拠法とすることで、スムーズな手続きが期待できます。

例えば、カリフォルニア州に拠点があれば、現地でのサポート体制(現地で対応できる米国人弁護士や専門スタッフの確保、必要な証拠収集の促進、など)を活用することができます。

2)修正案2:

中立的な第三国の法(シンガポール法)を準拠法とする案

This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Singapore.

(訳):

本契約は、シンガポール法に準拠し、解釈されるものとする。

*そして、英文契約書のGoverning Law(準拠法条項)の次に、以下のシンガポール国際仲裁センターによるArbitration(仲裁合意)の条文を置きます。

(Arbitration)

Any dispute arising out of or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in accordance with the SIAC Rules of the Singapore International Arbitration Centre. The seat of arbitration shall be Singapore. The language of the arbitration shall be English.  

(訳):

(仲裁合意)

本契約に関連して生じる一切の紛争は、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)の仲裁規則に従い、最終的に仲裁によって解決されるものとする。仲裁地はシンガポールとし、仲裁言語は英語とする。

解説:

シンガポール法は、中立的な第三国の法として非常に適しているとの評価を得ています。

シンガポールは、国際金融センターとして発展しており、その法制度は英米法系でありながら、アジアのビジネス慣習も取り入れている点が特徴とされています。

また、日本企業にとっても比較的馴染みやすく、国際的なビジネス取引においても広く認められています。

仲裁合意については、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)は、アジアにおける主要な国際仲裁機関の一つであり、日本企業にとっても利用しやすい機関です。

実際、日本企業は、アジア地域の企業だけでなく、欧米企業との取引においても、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)を積極的に利用しています。

英語を仲裁言語とすることで、国際的な紛争解決に適しています。

3)修正案3:

統一商事法典の適用事項はニューヨーク州法、それ以外は日本法とする折衷案

This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan, except with respect to matters governed by the Uniform Commercial Code, which shall be governed by the laws of the State of New York, USA.

(訳):

本契約は日本法に準拠するものとする。ただし、統一商事法典の適用を受ける事項については、ニューヨーク州法に準拠するものとする。

解説:

Uniform Commercial Code(UCC:統一商事法典)とは、米国のモデル商事法典で、米国のほとんどの州にとりいれられて運用されています。

商品売買契約など、Uniform Commercial Code(UCC:統一商事法典)の適用を受ける事項については、ニューヨーク州法を適用させることで、相手方の要求に応えることができます。

他方、それ以外の事項については日本法を適用することで、自社の利益も守ることができます。

4)修正案4:

日本法を準拠としつつ、他の管轄権の強制法規の場合は例外とする折衷案

This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan, except to the extent that the application of Japanese law is prohibited by mandatory provisions of the law of another jurisdiction.

(訳):

本契約は、日本法に準拠し、解釈されるものとする。ただし、他の管轄権の強制法規が日本法の適用を禁止する場合を除く。

解説:

自国法への変更: 日本法を選択することで、自社にとって馴染みのある法制度のもとで紛争を解決できる可能性が高まります。

但し書きの、他の管轄権の強制法規が適用される場合は、その法規に従うという例外規定は、米国でよく使われる条文です。

この例外規定を盛り込むことで、単に、どちらかの国の法規が全面的に適用されることを主張し合うのではなく、契約の締結をより円滑にすることができます。

4.相手方との交渉ステップについて:

準拠法に関する修正案の交渉ステップについては、

1)カリフォルニア州法を準拠法とする案(現地に自社の拠点がある場合)

または

2)中立的な第三国の法(シンガポール法)を準拠法とする案

からスタートすることが考えられます。

1)カリフォルニア州法を準拠法とする案

自社がカリフォルニア州に拠点を有している場合は、この事実を示すことで、相手方にとっても妥協しやすくなる可能性があります。

カリフォルニア州法は同じ米国内の州法ですので、相手方にとって、この案は比較的受け入れられやすくなります。

2)中立的な第三国の法(シンガポール法)を準拠法とする案

日本法とニューヨーク州法の中間的な位置づけとなるため、双方の主張をある程度尊重する姿勢を示すことができます。

シンガポール法は、国際的なビジネス取引において広く認められている法体系であり、中立性が高いと評価されています。

5.まとめ:

契約書に記載される準拠法条項は、契約の解釈や紛争解決に大きな影響を与えます。

そのため、安易に相手方の準拠法に従うのではなく、自社の状況や契約内容に合わせて、最適な準拠法を選択することが重要です。

本記事で紹介した4つの修正案は、あくまで一例です。

契約の内容や相手方との関係、そしてビジネスの目的によって、最適な準拠法を選択する必要があります。

相手方との関係については、例えば、信頼関係が深く、過去にトラブルがない相手であれば、相手方の希望する準拠法を優先することも考えられます。

逆に、初めて取引をする相手で、自社が製品やサービスにおいて独占的な地位にある場合や、相手がその取引を強く希望している場合は、日本法を優先して交渉することが考えられます。

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