英文契約で「秘密情報」に関する主な三つの用語であるConfidential Information, Proprietary Information, Trade Secret の違いを正確に理解するために、意味・違い、そして具体的な使われ方について、例文を交えながら解説します。
はじめに
英文契約書において、企業が保有する重要な情報を保護することは極めて重要です。
しかし、「秘密情報」と一口に言っても、契約書では
Confidential Information、Proprietary Information、そしてTrade Secret
といった異なる用語が使われることがあります。
これらの用語は、それぞれ異なる法的意味合いや保護の範囲を持つため、その違いを正確に理解しておくことは、情報漏洩のリスク管理や契約交渉において重要です。
この記事では、これら三つの秘密情報に関する主な用語について、その定義、法的特徴、そして具体的な契約書での使われ方を解説します。
この記事を読むことで、これらの用語の微妙なニュアンスを理解していただき、秘密保持契約(NDA)の作成やレビューに役立てることができればと思います。
1,Confidential Informationとは
Confidential Informationは、当事者間で「秘密」として扱われることに合意した、最も一般的な「秘密情報」を意味します。
これは、特定の性質を持つ情報に限定されず、口頭や書面、あるいは有形物の検査(試作品・工場、書類など見たことによって得た情報)によって開示された、非公開の情報全般を含みます。
この用語は、主に秘密保持契約(NDA: Non-Disclosure Agreement)の根本をなすもので、契約上の取り決めに基づいてその秘密性が確保されます。
企業が外部に情報を開示する際、その情報が秘密として保護されるべきであることを示すために、confidential marking(秘密表示)を付すことや、口頭で開示された場合には後日書面で通知するといった手続きが契約で定められることがあります。
ただし、広く一般に知られている情報や、開示を受けた側が独自に開発した情報などは、通常、Confidential Informationの定義から除外されます。
これは、最初から秘密ではない情報まで秘密保持義務の対象とすることは適切ではないためです。
例文:
“Confidential Information” shall mean any non-public information disclosed by one party to the other, whether orally, in writing, or by inspection of tangible objects, that is designated as confidential.
(訳):
「秘密情報」とは、一方の当事者が他方の当事者に開示する、非公開のあらゆる情報を意味し、口頭、書面、または有形物の検査によるかを問わず、秘密として指定されたものを意味する。
ポイント:
・Confidential Informationは、最も一般的に使われる「秘密情報」の呼び方です。
・契約上の合意に基づいて秘密性が確保されます。
・情報がnon-public(非公開)であることが重要な要素です。
・通常、一般に知られている情報や独自に取得した情報は除外されます。
2.Proprietary Informationとは
Proprietary Information は、機密情報、専有情報と訳されています。
「所有権のある情報」や「財産的価値のある情報」といった意味合いを持つ用語です。
これは、単に秘密であるだけでなく、その情報が企業にとって経済的・競争上の価値を持ち、かつその企業が所有権(または管理権)を有することを意味します。
企業のノウハウ、技術、顧客リスト、事業計画など、その企業独自の事業活動に密接に関連し、その企業が排他的に利用・管理する権利を持つ情報がProprietary Informationに該当することが多いです。
Confidential Informationと重なる部分は多いものの、Proprietary Informationは「所有権」の概念が加わるため、より積極的な権利保護の意図が強い点が特徴です。
不適切な利用や開示に対しては、単なる契約違反だけでなく、企業の財産権侵害の主張をすることも可能になることがあります。
これは、企業が自社の競争優位性を守る上で特に重要な概念と言えます。
例文:
“Proprietary Information” shall mean all information and data, including but not limited to, trade secrets, know-how, designs, formulas, algorithms, customer lists, and business plans, owned by a party and disclosed hereunder.
(訳):
「専有情報」とは、一方当事者が所有し、本契約に基づき開示される、営業秘密、ノウハウ、設計、処方、アルゴリズム、顧客リスト、事業計画を含むがこれらに限定されない、すべての情報およびデータを意味する。
ポイント:
・企業が「所有する」ことに重点が置かれる秘密情報です。
・単なる秘密性だけでなく、経済的・競争上の価値を伴う点が特徴です。
・より積極的な権利主張の基盤となることがあります。
3.Trade Secretとは
Trade Secret は、日本の不正競争防止法をはじめとする各国の法令によって保護される「営業秘密」を意味します。
Trade Secretは、単なる秘密情報ではなく、厳格な要件を全て満たした場合に限り、法的な保護の対象となります。
Trade Secretとして認められるためには、一般的に以下の3つの要件を満たす必要があります。
秘密性管理性(Secret Management):
秘密として管理されていることが要件となります。
アクセス制限、秘密表示(confidential marking)の徹底、情報の保管方法の限定など、企業が積極的に秘密として管理している状態が求められます。
有用性(Usefulness):
事業活動に有用な技術上または営業上の情報であることが必要です。
例えば、独自の製造プロセス、顧客リスト、開発中の技術データなどが該当します。
非公知性(Non-public nature):
公然と知られていない情報であることが求められます。
業界内で広く知られている情報や、容易に入手可能な情報は該当しません。
これらの要件を満たしたTrade Secretは、企業の競争優位性を生み出す基本となる情報であり、もし不正に取得、使用、または開示された場合には、法令に基づき差止請求や損害賠償請求が可能となります。
この点が、契約上の合意のみで保護されるConfidential InformationやProprietary Informationとの大きな違いです。
例文:
Notwithstanding any other provision herein, all Trade Secrets disclosed by Disclosing Party to Receiving Party shall be protected under applicable law and shall not be used or disclosed for any purpose other than as expressly permitted by this Agreement.
(訳):
本契約の他のいかなる規定にかかわらず、開示当事者が受領当事者に開示するすべての営業秘密は、適用される法律の下で保護され、本契約で明示的に許可された目的以外には使用または開示されないものとする。
ポイント:
・法令(例:日本の不正競争防止法)による保護の対象となる特別な秘密情報です。
・「秘密性管理性」「有用性」「非公知性」という厳格な要件を満たす必要があります。
・企業の競争優位性に直結する核心的な情報が対象となります。
・不正な行為に対しては、契約違反だけでなく、法的措置(差止請求や損害賠償請求) を講じることが可能です。
まとめ
この記事では、英文契約書で用いられるConfidential Information、Proprietary Information、Trade Secretという三つの主要な秘密情報の関連用語について解説しました。
それぞれの用語が持つ意味合いを再確認したいと思います。
Confidential Information(秘密情報):
契約上の合意に基づき秘密として扱われる、広範な非公開情報を指します。
秘密保持契約(NDA)の基本的な対象となる概念です。
Proprietary Information(専有情報):
Confidential Informationの性質に加え、企業が所有権を持ち、その情報が財産的・競争上の価値を持つことに強調が置かれます。
Trade Secret(営業秘密):
契約上の保護に加え、法令による保護を受ける、より厳格な要件(秘密性管理性、有用性、非公知性)を満たした営業秘密を指します。
これらの用語の区別を正確に理解することは、単に契約書を読むためだけではありません。
企業が保有する重要な情報の種類を適切に区別し、それぞれに最適な保護策を講じることが必須となります。
例えば、単なる非公開情報であればNDAで保護できますが、企業の存続に関わるような核心技術であれば、Trade Secretとしての要件を満たすよう厳重に管理することが求められます。
契約を締結する際には、どの情報がどの用語の定義に該当するのか、そしてその情報がどのように保護されるべきなのかを明確に規定することが重要となります。
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