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英文契約書の販売店契約などにおいて先買権条項(優先購入権条項)として置かれることがあるRight of First Refusalについて解説します。併せて、例文をとりあげ、要点と対訳をつけて例文中の基本表現に注記を入れました。
1.解説:
1)Right of First Refusalとは
販売店契約などの長期の売買契約において、Right of First Refusalの条項が置かれることがあります。
Right of First Refusalは、直訳すると最初に拒否する権利となります。
しかし、その内容は、製品を最初に購入する権利を与えることなので、先買権とか優先購入権と訳されます。
改めて定義すると英文契約書に置かれるRight of First Refusalとは、
売主が製品の供給に余裕ができた場合などに、買主に対し、優先的に製品をオファーし買い入れの権利を与えることを定めた条項
のことを意味します。
売主が長期の販売契約の買主に対し、
最初に製品をオファーし、一定期間内に、買主はこの権利を行使して、オファーされた製品を買い入れるか、それともこの権利を行使しないかを決定する権利(=Right of First Refusal)
が与えられます。
2)株主間契約、合弁契約、ライセンス契約
Right of First Refusal(先買権条項、優先購入権条項)は、販売店契約のほかに、株主間契約、合弁契約、ライセンス契約などでも、設けられることがあります。
この場合、優先的な購入権の目的となるものは、それぞれ、
株主間契約と合弁契約では株式であり、
ライセンス契約では技術や知的財産のライセンス権
となります。
3)Right of First Refusalと第三者
次の項目2で、売主と買主の間のシンプルな仕組みの例文をとりあげています。
ほかに、Right of First Refusalの一般的な条文の類型として、
売主がオファーする相手方として、買主のほかに第三者が存在する場合において、買主に優先的な購入権が与えられる
ものがあります。
4)契約レビューと交渉におけるRight of First Refusalの重要性
Right of First Refusal(先買権条項)は、当事者の一方が特定の資産(製品、株式、ライセンスなど)を第三者に売却しようとする場合に、まず相手方当事者にその資産を優先的に購入する機会を与えるものです。
この条項は、当事者間の長期的な関係を保護し、予期せぬ外部からの影響を防ぐために非常に有効ですが、その設計と交渉は慎重に行う必要があります。
ア.権利者(買主側)の視点:メリットと確保すべきポイント
メリット:
重要な資産の確保:
重要な製品、技術、または事業(株式)が他社に渡ることを防ぎ、サプライチェーンの安定性や事業継続性を確保できます。
将来的な成長機会の獲得:
市場の動向や自社のニーズに応じて、優先的に追加購入や事業拡大の機会を得られます。
競争優位性の維持:
競合他社が特定のリソースを獲得するのを阻止し、市場での競争力を維持できます。
確保すべきポイント:
対象資産の明確化:
何が先買権の対象となるのか(例:特定の製品の全在庫、特定のライセンス権、発行済み株式のすべて、など)を具体的かつ網羅的に定義する必要があります。
オファー条件の具体性:
売主がオファーする際の価格決定方法(例:LDPコスト、市場価格、第三者からの最良オファーと同額など)、数量、納期、支払い条件などを明確に規定し、後で不利な条件を提示されないようにします。
行使期間(Response Period)の確保:
提示されたオファーに対して、買主が検討し、受諾または拒否を決定するための十分な期間(例:five (5) business days(例文)だけでなく、より複雑な案件では30日や60日など)を確保することが重要です。
オファー拒否後の売却制限:
買主がオファーを拒否した場合、売主が第三者に売却できる条件(例:買主へ提示した条件よりも不利な条件で売却できないこと)や期間(例:例文のup to one hundred eighty (180) days)を規定し、安易な「試し売り」を防止します。
イ.義務者(売主側)の視点:デメリットと回避・軽減策
デメリット:
売却機会の制約:
第三者への売却が、先買権者の決定に左右されるため、売却プロセスが遅延したり、より好条件での売却機会を逸したりする可能性があります。
価格形成への影響:
外部からの競争入札が抑制され、適正な市場価格での売却が困難になる場合があります。
事務手続きの負担:
先買権者への事前の通知、オファー提示、期間管理など、追加的な手続きが必要になります。
回避・軽減策:
適用範囲の限定:
先買権の対象を特定の製品や在庫に限定したり、特定の数量を超える場合のみに適用したりするなど、その範囲を狭めることを検討します。
行使期間の短縮:
売却プロセスを迅速に進めるため、買主の行使期間をできるだけ短く設定します。例文のfive (5) business daysは、この観点からは有利な設定です。
特定の取引からの除外:
連会社への移転、担保設定、事業譲渡など、特定の種類の取引については先買権の対象外とする規定を設けることを検討します。
例外条件の設定:
例外的に、市場価格での迅速な売却が必要な場合など、特定の緊急事態においては先買権を適用しない旨の規定を盛り込むことを検討する場合があります。
消滅条件:
一定期間が経過した場合、特定の売上が達成された場合、あるいは契約違反があった場合に、先買権が消滅する(terminate or expire)条件を設けることも、売主側のリスクを軽減します。
Right of First Refusal条項は、当事者双方にとって戦略的な意味合いを持つため、その内容を詳細に検討し、将来のリスクと機会をバランスさせる形で交渉を進めることが、円滑なビジネス関係を維持し、長期的な利益を確保する上で極めて重要です。
2.例文と基本表現:
(注):基本表現をハイライトしています。
Right of First Refusal(先買権条項、優先購入権条項)– 例文
契約が終了した場合に、売主は、買主に対し、残った在庫を購入する最初の権利を、買主にオファーします。買主は、指定期間内に、オファーを受けるか拒否するかを選択できます。
Upon expiration or termination of this Agreement for any reason, Seller shall deliver to Purchaser a statement showing the number and description of Products on hand, in transit or in the process of manufacture (“Remaining Inventory”). Seller shall offer to Purchaser the first right to purchase the Remaining Inventory at Seller’s LDP Cost. Purchaser shall have the option to accept or decline the offer; provided that if Purchaser does not respond to the offer within five (5) business days of its receipt, the offer shall be deemed rejected. If Purchaser does not accept the offer to purchase the Remaining Inventory, Seller shall have the right for a period of up to one hundred eighty (180) days after the effective date of expiration or termination of this Agreement to sell the Remaining Inventory.
(訳):
何らかの理由で本契約が満了または終了した場合、売主は、買主に対し、手持ち、輸送中または製造中の製品の数量と説明を記載した明細書を提示するものとする(以下、「残りの在庫」という)。 売主は、残りの在庫を売主のLDPコストで購入する最初の権利を買主に提供するものとする。 買主は、オファーを受け入れるか拒否するかを選択できる。 ただし、買主が受領から5営業日以内にオファーを受けない場合、オファーは拒否されたものと見なされる。 買主が残りの在庫を購入する申し出を受け入れない場合、売主は、本契約の満了または終了の効力発生日から最大180日までの期間、残りの在庫を販売する権利を有する。
(注):
*Upon expiration or terminationは、(本契約が)満了または終了した場合という意味です。
*for any reasonは、何らかの理由でという意味です。
*statementは、明細書という意味です。
*on hand, in transit or in the process of manufactureは、手持ち、輸送中または製造中(の製品)という意味です。
*the first right to purchaseは、購入する最初の権利(が買主にオファーされる)という意味です。
*LDP Costは、Landed Duty Paidの略で、送料・関税・通関手数料を含んだ価格のことです。
*provided thatは、 ~を条件に、~の場合に限ってという意味ですが、ただし~とすると訳しています。詳しくは、provided thatとprovided, however, thatの意味と例文をご覧ください。
*business daysは、営業日という意味です。詳しくは、business dayとcalendar dayの意味と例文をご覧ください。
*be deemed rejectedは、拒否されたものと見なされるという意味です。
*for a period of up toは、最大(180日)までの期間という意味です。
*the effective dateは、効力発生日という意味です。
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