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英文契約書の 一般条項として設けられるSet-off(相殺条項)とNo Set-off(相殺禁止条項)について解説します。例文をとりあげて対訳と要点をつけました。例文中の基本表現には注記を入れてあります。
1.解説:
1)Set-offとは
Set-offとは、相殺条項のことを意味します。
Set-off(相殺条項)は、
当事者間の債権債務を随時、相殺により精算できることについて定めることにより、債権回収のリスクを軽減する
ための契約条項です。
No Set-off(相殺禁止条項)については、次の2)の解説をご覧ください。
2)Set-off(相殺条項)の内容
英文契約書に定めらる Set-off(相殺条項)の内容は、たとえば、以下のようなものがあります。
・当事者の一方がdefault(債務不履行)になったとき、その相手方は、不履行の当事者が有する債権と相殺ができるとするもの(下記の例文①をご覧ください)。
・売主が買主をindemnification(補償)する義務を負う場合に、買主は、被った損失を回復するため、製品の価格と相殺できるとするもの(下記の例文②をご覧ください)。
・反対に、契約に基づく支払いは全額行われなければならず、相殺は認められないとして、No Set-off(相殺禁止条項)も置かれることがあります。(下記の例文③と例文④をご覧ください)
(ご参考):相殺とは何かについては、契約の条項-相殺条項をご覧ください。
3)Set-off(相殺条項)の実務上の重要点と交渉の視点
Set-off(相殺)は、契約上の金銭的な債権・債務を清算するための手段ですが、その規定は、当事者間のキャッシュフローとリスク配分に直接的な影響を与えます。
特に国際取引においては、相手方の債務不履行や倒産リスクを考慮し、相殺条項の有無や内容を慎重に検討することが非常に重要です。
ア.Set-off(相殺条項)の目的とメリット
Set-off条項は、主に債権者の立場(相手方から支払いを受ける立場)にとって有利な条項です。
債権回収リスクの軽減:
相手方が債務不履行に陥った際、自社の支払い義務と相手方の支払い義務を相殺することで、未回収の債権を実質的に回収できます。
これにより、相手方の倒産などによる回収不能リスクを最小限に抑えることができます。
迅速な解決:
紛争時に裁判などを経ることなく、自社の判断で直ちに債権を清算できるため、紛争解決のコストと時間を削減できます。
イ.No Set-off(相殺禁止条項)の目的とメリット
No Set-off条項は、主に債務者の立場(相手方に支払いを行う立場)にとって有利な条項です。
安定したキャッシュフローの確保:
支払い義務がある当事者は、相手方が何らかの理由で相殺を主張するリスクを排除できるため、契約に基づく支払いを確実に行うことができます。
これにより、安定したキャッシュフローを確保し、予期せぬ支払いの留保を回避できます。
紛争解決のルール化:
相殺を禁止することで、「まずは支払いを行い、紛争は別途解決する」というルールが確立されます。
これにより、相手方の不当な相殺によるビジネスの中断を防ぎ、紛争解決プロセスを正規の手続き(裁判など)に限定できます。
ウ.交渉のポイント:自社の立場を明確にする
Set-off条項を交渉する際には、自社が「債権者」と「債務者」のどちらの立場になることが多いかを考慮することが重要です。
売主・ライセンサーの立場:
製品やサービスの提供者である売主は、代金を確実に回収したいため、No Set-off条項を盛り込むことを希望します。
相手方のクレーム(例えば、製品の欠陥)を理由とした支払いの留保を防ぐためです。
買主・ライセンシーの立場:
製品やサービスの購入者である買主は、品質不良や契約違反による損害が発生した場合に備え、Set-off条項を設けることを希望します。
これにより、損害を被った際に、未払いの代金と相殺することで損失を補填できます。
双方の利益のバランスを取る:
相手方のNo Set-off条項を受け入れる代わりに、相殺を禁止する範囲を限定するよう交渉する。
例えば、「except for amounts finally determined to be due and owing(最終的に支払いが確定した金額を除く)」といった文言を追加することで、債務が確定した場合には相殺を認める、という妥協点を探ることができます。
Set-off条項は、契約交渉におけるリスク管理の要です。
どちらの立場にあるか、そしてどのようなリスクを最も回避したいかを明確にし、それに合わせた条項を選択・交渉することが、後の金銭トラブルを防ぐ上で不可欠です。
※実務上の視点:
相殺条項(Set-off)は、お互いに金銭のやり取りが発生する取引において、未払いの債権と債務を差し引き計算でまとめて精算できるようにする相殺条項という条項タイプ(clause type)です。
この条項の一番の大切な機能(specific function)は、相手のお金の状態が悪くなって代金を回収できなくなるリスクを減らし、面倒な裁判などを起こさなくても自社の判断でスピーディーに支払いを相殺して債権を回収することにあります。
リーガルチェックの現場では、この条項によって自社に「相手の未払いや契約違反に備えて、自社からの支払いを止めて差し引くという権利(rights of use)」がきちんと確保できているかを精査します。
具体的には、自社が製品やサービスを買い取る買主の立場なら、ビジネスの安全を守る防衛線として「相手に契約違反や品質不良があって損害を受けた場合、まだ支払っていない代金からその損害分を差し引いて回収する権利(rights of use)」(例文②)を確保しておきます。
逆に、自社が製品を納品して代金を受け取る売主の立場であれば、相手から「製品にちょっとした不満があるから代金は払わない」などと理不尽に支払いを拒まれるリスクを防ぐための防衛線として、一切の差し引きを禁止する「相殺禁止(No Set-off)を相手に求める権利(rights of use)」(例文③・例文④)を主張し、まずは全額を期日通りに支払わせる流れを作っておくことが、会社の毎月のキャッシュフローを安定させるための必須の設計となります。
相殺(Set-off)と 相殺禁止(No Set-off)の比較:
英文契約の実務でお金の支払いルールを決めるとき、その契約に「相殺(Set-off)を認める文言」を入れるか、それとも「相殺禁止(No Set-off)の文言」を入れるかによって、取引におけるリスクの持ち方が真逆になります。
この2つのアプローチの本質的な違いをここで整理しておきましょう。
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相殺(Set-off):
自分の身を自分で守る「債権回収のセーフティネット」-
特徴:
相手が約束通りにお金を払ってくれない(債務不履行)状態になったとき、こちらから相手に支払う予定だったお金と差し引いてチャラにできる仕組みです(例文①)。
もし相手が倒産しそうな時でも、自社の判断で即座に債権を回収できるため、お金の焦げ付きを防ぐ最高の盾になります。ただし、お互いに金額の根拠に納得がいかない場合は、いくら差し引くかで新たな揉め事になることもあります。
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相殺禁止(No Set-off):
計画通りにお金を受け取るための「キャッシュフローの防衛線」
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【選択の指針】
もし自社が、システム開発やコンサルティングなどのサービスを提供して「確実に代金を受け取りたい売主」の立場であれば、相手が勝手な理由をつけて支払いを引き延ばすのを防ぐために、契約書に「相殺禁止(No Set-off)」の文言を滑り込ませておくのが定石です。
反対に、自社が機械や原材料を仕入れる「買主」の立場であれば、不良品や納品遅れがあったときのリスクヘッジとして、こちらから自由に支払いを差し引ける「相殺(Set-off)」の権利を勝ち取っておくことが鉄則となります。
どうしても話し合いが平行線になった場合は、例文④のように法律で決められた場合(税金の差し押さえなど)を除外したり、「最終的に金額が確定した損害だけは相殺できる」という妥協案を探るアプローチが実務的です。
2.例文と基本表現:
(注):set offは、青文字で示し、基本表現をハイライトしています。
1)Set-off(相殺条項)– 例文①
当事者の一方が債務不履行になったとき、相手方は、不履行の当事者が有する債権と相殺できます。
If any party hereto shall be in default hereunder to any other party, the non-defaulting party shall be entitled to set off from any payment owed by such non-defaulting party to the defaulting party hereunder any amount owed by the defaulting party to the non-defaulting party thereunder;
(訳):
本契約のいずれかの当事者が他の当事者に対して本契約の不履行となる場合、非不履行当事者は、当該非不履行当事者が本契約に基づき不履行当事者に対して負担する支払い債務と、不履行当事者がそれに従って非不履行当事者に支払うべき金額を、相殺する権利を有するものとする。
(注):
*in defaultは、不履行になるという意味です。
* the non-defaulting partyは、非不履行当事者(不履行していない当事者)という意味です。
*be entitled toは、(~する)権利を有するという意味です。
*the defaulting partyは、不履行当事者という意味です
*any payment owed by such non-defaulting party to the defaulting party hereunderは、当該非不履行当事者が本契約に基づき不履行当事者に対して負担する支払い債務と訳しています。
*any amount owed by the defaulting party to the non-defaulting party thereunderは、不履行当事者がそれに従って非不履行当事者に支払うべき金額と訳しています。
2)Set-off(相殺条項)– 例文②
売主が買主を補償する義務を負う場合に、買主は、損失を回復するため、製品の価格と相殺できます。
In order to satisfy any indemnification obligations of Seller pursuant to this Article 7, Purchaser shall have the right to recover Losses incurred or suffered by Purchaser by setting off the amount of any such Losses against any Purchase Price.
(訳):
本第7条に従って売主による補償義務を可能とするために、買主は、買主が被った損失を、購入価格と相殺することにより、かかる損失の金額を回収する権利を有する。
(注):
*indemnification obligationsは、補償義務という意味です。
*pursuant toは、~に従って、~に基づきという意味です。
*recover Losses incurred or sufferedは、recover Losses(損失を回収する)とincurred or suffered(被った)の組み合わせで、被った損失を回収するという意味です。incurred or suffered(被った)は、類語を並べた強調表現です。
3)No Set-off(相殺禁止条項)– 例文③
買主は、代金の全額支払いをしなければならず、相殺が禁止されています。
The Purchaser shall pay the full amount of costs and disbursements incurred under this Agreement, and shall not set-off, counterclaim or otherwise withhold any other amount owed to the Seller on account of any obligation owed by the Seller to the Purchaser.
(訳):
買主は、本契約に基づいて発生した費用及び支出の全額を支払うものとし、売主が買主に対して負担する義務を理由として、売主に対する支払い金額で相殺したり、反対請求したり、又はその他の形で支払いを留保してはならない。
(注):
*disbursementsは、支出という意味です。
*counterclaimは、反対請求するという意味です。
*or otherwiseは、又はその他の形でという意味です。詳しくは、or otherwiseの意味と例文をご覧ください。
*withholdは、留保するという意味です
*on account of any obligation owed by the Seller to the Purchaserは、on account of(を理由として)とany obligation(義務)とowed by the Seller to the Purchaser(売主が買主に対して負担する)の組み合わせで、売主が買主に対して負担する義務を理由としてという意味です。
4)No Set-off(相殺禁止条項)– 例文④
支払いは完全に行われるものとし、原則、相殺を禁止しています。
All payments to be made under This agreement shall be made in full without any set-off or counterclaim and free from any deduction and withholding except as may be required by law.
(訳):
本契約に基づいて行われるすべての支払いは、完全に行われるものとし、法で要求される場合を除き、相殺又は反対請求もなく、差し引き及び留保もないものとする。
(注):
*free fromは、~がないという意味です。詳しくは、free fromの解説と例文をご覧ください。
*except as may be required by lawは、except(を除き)とas may be required(要求される場合)とby law(法で)で、法で要求される場合を除きという意味です。
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