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英文契約書を理解するための英米法の基礎知識について、分かりやすく解説します。
目次:
1.英米法とは
1)英米法とは
2)判例法とは
3)コモン・ロー(普通法)とエクイティ(衡平法)
4)英米法と日本法の違い
2.コモン・ロー(普通法)とは
1)コモン・ローの特徴
2)コモン・ローが生まれた背景
3)コモン・ローと成文法との違い
4.代表的な英米法用語(例文付き)
1)Consideration(約因)
2)Indemnification(補償)
3)Liquidated damages(損害賠償額の予定)
4)Force majeure(不可抗力)
5)Waiver(権利放棄)
6)Specific performance(特定履行)
7)Equitable relief(衡平法上の救済)
英米法は、
イギリスを起源とし、アメリカやカナダなど多くの国で採用されている法体系です。
大陸法(日本法もこれに属します)が成文法を重視するのに対し、
英米法は、判例法を重視する点
が大きな違いです。
判例法とは、
過去の裁判の判決が積み重なって法の原則を形成していく法原則であり、
具体的な事件に対する裁判所の判断が、法の解釈や適用基準となります。
成文法のように、法律の条文がすべて書かれているわけではなく、過去の判決が積み重なって法が形成されます。
判例法は、以下の点が特徴として挙げられます。
①過去の判例を参考にした柔軟な判断:
判例法は、過去の判決が法的な拘束力を持つため、新しい問題が生じた場合でも、過去の判例を参考に柔軟な判断が可能と言えます。
これにより、立法手続きを待つことなく、社会の変化に迅速に対応できるメリットがあります。
②裁判を通じた法の具体的な解釈と運用:
裁判官が、実際の事件を判断する中で、法を具体的に適用していく過程で、法の解釈や原則を深めていきます。
判例法は、裁判官の手によって、具体的な運用の中で生み出され、発展していくという側面があります。
英米法は、歴史的に、
コモン・ロー(普通法)と
エクイティ(衡平法:こうへいほう)
に分かれていました。
現在では、
コモン・ローとエクイティは統合され、
これら二つの法の概念が一般的な英米法として用いられています。
(注):コモン・ローとエクイティがどのような法体系なのかについては、
パート2.のコモンロー(普通法)とは、
パート3.のエクイティ(衡平法)とは、
で詳しく解説しています。
英米法と日本法の大きな違いは、
法の根拠が、判例法か成文法かという点にあります。
日本法は、フランス法やドイツ法の影響を受けた大陸法系であり、成文法が中心です。
日本法では、判例も重要な法的根拠となりますが、英米法ほど判例法が重視されていません。
コモン・ローは、英米法の基本をなす概念であり、判例法のことを指します。
判例法とは、
過去の裁判における判決が積み重ねられ、それらが新たな法の根拠となり、法律が形成されていくというものです。
コモンローは、本質的に判例法と同じなので、
①過去の判例を参考に柔軟な判断を行う、
②実際の裁判を通じて、法を具体的に解釈し適用する、
という点で、前述の判例法の特徴と同じことがいえます。
コモン・ローは、
中世のイギリスにおいて、国王裁判所が各地の慣習法を統一し、共通の法として発展させたものです。
成文法(法律)が整備される以前から、判例が積み重なり、慣習法として確立されました。
成文法は、国会や議会が制定した法律であり、その内容が明確に条文として書かれています。
これに対し、コモン・ローは、
過去の判決が積み重なって形成された法であり、
その内容が必ずしも明確に書かれているわけではありません。
日本では、新しい問題が起きた際に、法律の条文に則り、厳密に解釈して判断するのに対して、
イギリスや米国などでは、起きた新しい問題に似ている過去の判例に基づいた判断を行います。
英米法の判例主義は、
歴史的に、
コモン・ロー(common law/普通法)と
エクイティ(equity/衡平法)
とに区分することができます。
コモン・ローが英国のコモン・ロー裁判所の判例法体系であるのに対し、
エクイティは、19世紀前半まで存続した衡平法裁判所の判例を通じて、
コモン・ローの不十分な点を補い、柔軟に救済し公平な解決を狙いとして発達した法理です。
コモン・ローが過去の判例を重視し、確立された法理に重視して判断を行う傾向がありました。
そのため、個々の事情や公平性を十分に考慮できないケースが存在しました。
一方、エクイティは、
コモン・ローのこのような欠点を補い、個々の事情に合わせて柔軟な判断を行うことで、より公平な解決を目指しました。
現代では、コモン・ローとエクイティは統合され、
一つの裁判所で両方の法理が適用されており、一般的な英米法として用いられています。
英文契約書で使われる代表的な英米法の用語を、例文を付けて、いくつかとりあげます。
意味:
契約が有効に成立するために必要な要素の一つで、約束の対価となるものです。
コモン・ローまたはエクイティとの関連:
コモン・ローの重要な概念であり、契約の成立要件として不可欠となるものです。
例文:
In consideration of the mutual covenants contained herein, the parties agree as follows.
訳:
本契約に含まれる相互の約束を約因として、両当事者は以下のように合意する。
意味:
一方の当事者が、他方の当事者に生じた損害を補償することを約束する条項です。
コモン・ローまたはエクイティとの関連:
コモン・ローの損害賠償(補償)の概念に基づいています。また、エクイティの公平な救済の原則とも関連しています。
例文:
The Supplier shall indemnify the Customer against any and all claims arising out of or in connection with the products supplied.
訳:
サプライヤーは、供給した製品に起因又は関連するすべての請求に対して、顧客を補償するものとする。
3)Liquidated damages(損害賠償額の予定)
意味:
契約違反が発生した場合に支払われるべき損害賠償額を、あらかじめ契約書で定めておくことことを意味します。
コモン・ローまたはエクイティとの関連:
コモン・ローの損害賠償の概念に基づいています。また、将来の損害額を予測し、事前に定めるという点で、エクイティの柔軟性も影響しています。
例文:
In the event of a breach of this Agreement, the breaching party shall pay to the non-breaching party liquidated damages in the amount of $1,000.
訳:
本契約に違反した場合、違反当事者は、非違反当事者に対して1,000ドルの予定損害賠償を支払うものとする。
意味:
当事者の責めに帰すことのできない事由(天災、戦争など)により、契約の履行が不可能または著しく困難になることを指します。
コモン・ローまたはエクイティとの関連:
コモン・ローの概念に基づいており、契約の履行が不可能になった場合の免責事由として広く認められています。
例文:
Neither party shall be liable for any failure to perform its obligations under this Agreement caused by a force majeure event.
訳:
本契約に基づく義務の履行遅延または不履行について、いずれの当事者も、不可抗力事由によって生じた場合には、いかなる責任も負わないものとする。
意味:
ある権利を放棄することを意味します。
コモン・ローまたはエクイティとの関連:
コモン・ローの厳格な権利概念に基づいています。契約当事者間の合意によって権利を放棄することが可能です。
例文:
The failure of either party to exercise any right or remedy under this Agreement shall operate as a waiver thereof.
訳:
いずれかの当事者が本契約に基づく権利を行使しなかったとしても、その権利を放棄したものとはみなされない。
意味:
契約違反があった場合に、金銭賠償ではなく、契約の内容どおりに履行することを命じる裁判所の命令のことを指します。
コモン・ローまたはエクイティとの関連性:
エクイティの概念に基づく救済方法であり、コモン・ローの損害賠償による救済では不十分な場合に適用されます。
例文:
If the Seller fails to deliver the goods as agreed, the Buyer may seek specific performance to compel the Seller to deliver the goods.
訳:
売主が合意どおりに商品を納品しなかった場合、買主は売主に商品の納入を強制する特定履行を求めることができる。
意味:
コモン・ローの厳格な法解釈では不十分な場合に、公平な解決を求めるために、裁判所が認める様々な救済方法の総称です。
コモン・ローまたはエクイティとの関連性
エクイティの概念に基づく救済方法であり、特定履行、禁止命令、信託の設立などが含まれます。
例文:
The court may grant equitable relief, such as an injunction, to prevent the defendant from breaching the contract.
訳:
裁判所は、被告が契約に違反することを防ぐために、差し止め命令などの衡平法上の救済を認めることができる。
この記事では、英文契約書を理解するために必要な英米法の基礎知識について解説しました。
英米法は、判例法を重視した柔軟な法解釈が特徴です。
英米法の判例主義は、歴史的に、コモン・ローとエクイティに分かれていました。
コモン・ローは、英米法の根本の概念であり、契約の解釈や履行に関する基本的な原則を提供します。
エクイティは、コモン・ローでは対応しきれない不公平な事態に対して、より柔軟な救済を与えるための法理として存在しました。
現代では、コモン・ローとエクイティは統合され、これら二つの概念が英米法に用いられています。
英文契約書でよく見かける
Consideration(約因)
Waiver(権利放棄)
force majeure(不可抗力)
indemnification(補償)
liquidated damages(損賠賠償額の予定)
specific performance(特定履行)
equitable relief(衡平法上の救済)
などの
英米法の用語は、契約関係における当事者の権利義務を規定する上で重要な役割を果たします。
これらの基礎知識を踏まえて、英文契約書を読んでいただくことで、より深い理解が可能となります。
この記事が、英文契約書を読む際の参考になれば幸いです。
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