英文契約書では、損害賠償に関連する条項に、damages、indemnification、indemnityの各用語がよく使われます。
これら三つの用語の意味・違いとそれらの使い方について、多数の具体的な例文で詳しく解説します。
目次:
1.損害賠償の条項とその役割
2.damages、indemnification、indemnityの意味・違いと例文
1)damagesの意味と例文
2)indemnificationの意味と例文
3)indemnityの意味と例文
4)補足:indemnificationとindemnityの違い
3.不公平な損害賠償条項とその修正例
英文契約書における損害賠償に関する条項は、
契約違反が発生した場合の当事者の権利義務を明確にする上で重要な役割を果たします。
損害賠償の条項は、当事者間の公平性を確保するため不可欠な条文です。
というのは、損害賠償の条項は、
当事者間の権利義務が公平に保たれ、
どちらか一方に過度な負担がかからないようにして契約を円滑に履行する
役割があるためです。
2.damages、indemnification、indemnityの意味・違いと例文
損害賠償の条項に関係する代表的な用語として、
damages、indemnification、indemnity
があります。
これら三つの用語の意味と使い方(例文あり)は、以下のとおりです。
意味:
damagesは、最も一般的に使われる損害賠償の用語です。
damagesは、損害賠償、または損害賠償金を意味します。
損害賠償金とは、
実際の損害額、または金銭で賠償される損害
のことを言います。
使い方:
damagesの使い方については、例えば、
「納期遅延により、顧客に損害を与えた場合、その損害賠償(damages)について責任を負う」
あるいは、
「納期遅延により、顧客に損害を与えた場合、その損害額(damages)を支払う」
といったように使われます。
金銭による損害賠償を前提としているので、
「その損害賠償(damages)について責任を負う」と
「その損害額(damages)を支払う」
は、実質、同じことを意味しています。
例文:
If the Supplier fails to deliver the goods by the agreed-upon date, the Supplier shall be liable for all damages incurred by the Customer as a result of such delay.
(訳):
サプライヤーが合意された期日までに商品を納品できなかった場合、サプライヤーは、その遅延によって顧客が被ったすべての損害額について責任を負う。
補足:
damagesは、最も一般的に使われる損害賠償の用語です。
契約違反によって生じた損害に対する一般的な賠償責任を定めるものであり、多くの契約において基本的な条項として置かれます。
意味:
indemnificationは、補償を意味します。
indemnificationが意味する補償とは、
他人の損害に対する責任を負うこと、またはその義務
のことを言います。
使い方:
indemnificationの使い方については、例えば、
「A社がB社にソフトウェア開発を委託し、開発されたソフトウェアにバグがあり、B社の顧客に損害を与えた場合、A社はB社に対して、その損害を補償する(indemnify)義務を負う」
というように使われます。
例文:
例文を二つ、ご紹介します。
例文1:
The Contractor shall indemnify the Client for any and all losses, damages, or expenses arising out of or in connection with the Contractor’s performance of this Agreement.
(訳):
請負業者は、本契約の履行に関連して生じる一切の損害、損失、費用について、顧客に補償する。
例文2:
The Seller shall indemnify the Buyer against any claims that the Goods infringe any third party’s intellectual property rights.
(訳):
売主は、商品が第三者の知的財産権を侵害するとするいかなる請求からも、買主を補償するものとする。
補足:
indemnificationは、一方の当事者が、第三者からの請求や訴訟によって損害を被った場合に、他方当事者がその損害を補償することを目的として使われます。
第三者からの請求や訴訟とは、
例文1では、any and all losses, damages, or expenses(一切の損害、損失、費用)であり、
例文2では、any claims that the Goods infringe any third party’s intellectual property rights(商品が第三者の知的財産権を侵害するとするいかなる請求)が、
その部分にあたります。
意味:
indemnityも、通常、補償と訳されています。
indemnityの補償とは、
将来発生する可能性のある損害に対して、事前に補償する、言い換えると、免責する(=相手方の責任を免除する)
という意味があります。
使い方:
indemnityの使い方については、例えば、
「新しい製品を発売する際に、その製品に欠陥があった場合、メーカーが購入者に損害を補償する(provide indemnity)」
といったように使われます。
つまり、損害の責任はあくまでメーカーが負い、購入者に責任が及ばないようにする(=免責する)ということです。
indemnityは、当事者の一方が、将来発生する可能性のある損害について、他方の当事者を免責または補償することを約束する条項で使用されます。
例文:
indemnityの例文を二つ、ご紹介します。
例文1:
The Manufacturer shall provide indemnity to the Purchaser against future losses arising from defects in the goods.
(訳):
製造業者は、商品の欠陥から将来生じる損失について、買主に対し補償するものとする。
例文2:
The Contractor shall provide indemnity to the Client for any losses resulting from the Contractor’s negligence.”
(訳):
請負業者は、その過失から生じる全ての損失について、顧客に対し補償するものとする。
補足:indemnificationとindemnityの違い
indemnificationとindemnityは、どちらも補償と訳されますが、意味合いが異なります。
indemnificationとindemnityの違いについて、以下に整理してみました。
indemnification:
過去または現在の損害に対する補償、を意味します。
過去または現在の損害に対する補償とは、
当事者が、契約締結の時点で、特定の損害が既に発生しているかもしれない、または発生する可能性が高いだろう、と認識している状況にある、ということです。
知的財産権の侵害や製造物責任など、第三者からのクレームが発生する可能性のある取引では、indemnificationの条項がよく置かれます。(参考:上記のindemnificationの例文2が、知的財産権の侵害の例文です)
indemnificationには、当事者の一方が、第三者からの請求や訴訟によって損害を被った場合に、他方当事者がその損害を補償する狙いがあります。
indemnity:
将来発生する可能性のある損害に対する事前の補償(=将来のリスクに対する備えとしての補償)を意味します。(上記のindemnityの例文1と例文2をご参照ください)
当事者は、契約締結の時点で、特定の損害が将来発生する可能性を認識していますが、いつ発生するかについては不確実な場合です。
それで、当事者の一方が、将来発生するかもしれない損害やリスクについて、他方当事者を事前に補償することを約束する条項で使用されます。
indemnification条項はよく使用されますが、indemnity条項はそれほど多くありません。
損害賠償条項は、
契約違反が発生した場合の当事者の責任範囲を定める重要な条項です。
以下は、一方当事者に過度な負担を強いる不公平な条項の代表的な例とその修正例です。
不公平な条項の例
The Supplier shall be liable for any and all damages, regardless of the cause.
訳:
サプライヤーは、原因の如何を問わず、全ての損害について責任を負うものとする。
問題点:
この条文では、
regardless of the cause(原因の如何を問わず)
となっているので、サプライヤーに、
予見可能性のない損害や、
サプライヤーの責めに帰すべき事由によらない損害
まで賠償責任を負わせる可能性があります。
更に、
any and all damages(全ての損害)
とあるので、
サプライヤーの責任範囲に制限がなく、損害額が過大になる
可能性があります。
修正例:
The Supplier shall be liable for direct damages caused by its breach of this Agreement, up to a limit of $10,000.
(訳):
サプライヤーは、本契約違反に起因する直接損害について、1万ドルを上限として責任を負うものとする。
修正点:
サプライヤーの責任範囲を限定し、責任上限を設定することで、
サプライヤーに過度な負担を強いることないようにしています。
以上のように、
損害賠償条項は、
当事者の一方に過度な負担を負わせる内容になっていることが多い
ため、注意が必要です。
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