Jurisdiction(裁判管轄条項)の修正例

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相手方の海外企業から提示された英文契約書の裁判管轄条項(Jurisdiction)についてどのように回答するべきか、その修正案について解説します。

(注):

分かりやすいようにポイントを解説しています。

実際の契約書に適用する際には、通常、個々の契約内容や状況に合わせて、十分に検討することが必要となります。

目次:
1.はじめに
2.相手方が米国デラウェア州の裁判所を指定するケース
3.修正案の解説
 修正案1:中立的な第三国の法を準拠法とし、国際的な仲裁機関での紛争解決を提案する。
 修正案2:被告地主義を提案する
 修正案3:クロス式管轄合意を提案する。
4.交渉のステップについて

1.はじめに

jurisdiction(裁判管轄条項)とは、

訴訟を管轄する裁判所を、どこの国また州の裁判所の管轄にするか、の当事者間の合意

について規定した条文のことをいいます。

裁判管轄条項(Jurisdiction)は、

国際的な取引においては特に重要で、契約トラブルが発生した際に、

どちらの国で訴訟を起こせるのか、

そして適用される法律は何か

を決める上で大きな影響を与えます。

この記事では、

米国の企業が裁判管轄条項(Jurisdiction)にてデラウェア州の裁判所を指定してきた場合を想定し、

修正案3つあげて解説します。

1)相手が米国デラウェア州の裁判所を指定するケース
2)自社からの修正案
 修正案1:中立的な第三国の法を準拠法とし、国際的な仲裁機関での紛争解決を提案する。
 修正案2:被告地主義を提案する。
 修正案3:クロス式管轄合意を提案する。

2.相手が米国デラウェア州の裁判所を指定するケース:

たとえば、先方からの契約書で以下のような裁判管轄条項(Jurisdiction)が提示されたとします。

If either party initiates any legal proceedings arising out of or in connection with this Agreement, such proceedings shall be brought exclusively in the state courts located in the State of Delaware, United States of America.

(訳):

いずれかの当事者が本契約から生じるいかなる訴訟を提起する場合、当該訴訟はアメリカ合衆国デラウェア州の州裁判所で専属的に提起するものとする。

解説:

日本企業が契約を結ぶ際、相手方の米国企業がデラウェア州の裁判所を主張してくることがよくあります。

これは、デラウェア州法では会社法が整備されており、多くの米国企業が本社を置く州であり、米国企業にとって有利な側面があるためです。

3.修正案の解説:

米国の相手先企業から、前述のような裁判管轄条項が要求された場合、自社からは、双方当事者が公平になるような修正案として、以下のいずれかのやり方を提案することが考えられます。

修正案1:中立的な第三国の法を準拠法とし、国際的な仲裁機関での紛争解決を提案する。
修正案2:被告地主義を提案する。
修正案3:クロス式管轄合意を提案する。

以下は、それぞれのやり方について修正案の例文と解説です。

修正案1:中立的な第三国の法を準拠法とし、国際的な仲裁機関で紛争を解決することを提案する

修正案の例文:

Any dispute arising out of or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in accordance wi1th the Arbitration Rules of the Singapore International Arbitration Centre (SIAC) then in effect, by one or more arbitrators appointed in accordance with the said Rules. The seat of arbitration shall be Singapore.

(訳):

本契約から生じるいかなる紛争も、その時点で有効なシンガポール国際仲裁センター(SIAC)の仲裁規則に従い、同規則に従って任命される一人の仲裁人または複数の仲裁人によって、最終的に仲裁によって解決される。仲裁地はシンガポールとする。

解説:

国際仲裁は、最も公平な解決方法と言えます。

いずれの当事者にも偏ることなく、中立的な第三者機関の場による紛争解決であり、

また仲裁判断は上訴ができないため迅速な解決が期待できます

修正案では仲裁機関をシンガポール国際仲裁センター(SIAC)にしています。SIACは、国際的な仲裁機関として評価を得ており、多くの国際取引で採用されています。

また、シンガポールは中立的な国であり、英語が公用語であるため、国際的な紛争解決に適しています。

他に、国際的な仲裁機関としては、国際商事会議所(ICC)、ロンドン国際仲裁院(LCIA)などが挙げられます。

なお、国際仲裁の注意点として、裁判より仲裁費用がかかる場合があります。

修正案2:被告地主義を提案する

修正案の例文:

In the event of any dispute arising out of or in connection with this Agreement, the parties hereto agree to submit to the exclusive jurisdiction of the courts located in the country or state where the defendant’s principal place of business is located.

(訳):

本契約から生じるいかなる紛争の場合、当事者は、被告の主たる事業所の所在地の国または州の裁判所の専属管轄権に服することに同意する。

解説:

被告地主義とは、

訴訟の提起は、被告の住所地または本店所在地を管轄する裁判所で行うという制度です。

法律で定められた原則であり、手続きが比較的シンプルなことが特徴です。日本では民事訴訟法に規定があり、米国では州法に存在します。

訴訟の被告となる者が、自分の身近な場所で裁判を受けることができるという点で、被告にとって有利な側面があります。

他方、訴訟を提起する原告は、被告の所在地まで出向いて訴訟を起こさなければならないため、負担が大きくなる可能性があります。

修正案3:クロス式管轄合意を提案する

修正案の例文:

Jurisdiction for any dispute arising out of or in connection with this Agreement shall be determined on a reciprocal basis, with each party agreeing to submit to the exclusive jurisdiction of the courts having jurisdiction over the other party’s principal place of business.

(訳):

本契約から生じるいかなる紛争の管轄権は、相互主義に基づき決定され、各当事者は相手方の主たる事業所の所在地を管轄する裁判所の専属管轄権に服することに同意する

解説:

クロス式管轄合意とは、

当事者が交渉して合意すれば、原告の所在地、被告の所在地のいずれの裁判所で訴訟を行うかを決めることができる柔軟な制度です。

つまり、当事者双方の合意により、原告の会社、被告の会社の所在地のどちらの裁判所でも構わないというルールです。

前述の被告地主義と異なり、クロス式管轄合意は、当事者間の交渉によって裁判地を自由に決められるという点が特徴があります。

例えば、米国では契約自由の原則があるので、クロス式管轄合意は当事者間で合意した内容として尊重される傾向にあります。

4.交渉のステップについて

被告地主義、クロス式管轄合意、国際仲裁のいずれかの提案を行う場合、どのやり方で交渉をスタートするべきかですが、

国際仲裁を最初に提案することが考えられます。

国際仲裁は、中立的な第三者機関による紛争解決であり、迅速な解決が期待できます。

また、国際仲裁は、先方当事者の現地国法の適用を避けたい場合に有効です。

そして、国際仲裁が合意に至らなかった場合の代替案として、

被告地主義やクロス式管轄合意を提案することが考えられます。

 

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