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英文契約書の一般条項のひとつである Remedies(救済条項)について解説します。併せて、Remedies(救済条項)の例文をとりあげて対訳をつけ、例文中の基本表現には注記を入れました。
1.解説:
1)Remedies(救済条項)とは
Remedies(救済条項)とは、
一方当事者に、契約の不履行があったことが原因により、他方当事者が損害を受けた場合の救済措置
について定めた契約条項です。
もうすこし詳しくいうと、Remedies(救済条項)では、
他方当事者の受けた損害の内容が、
コモンロー(common law)による救済措置である金銭賠償(money damages)のみでは、充分な回復が見込めない場合に、
契約不履行を行った当事者に対し、エクイティ (equity:衡平法ともいいます)による救済措置である、
・差止命令による救済(injunctive relief)や
・特定履行(specific performance)
を行うことを裁判所が命じることが規定されます。
2)コモンロー(common law)とエクイティ (衡平法:equity)
Remedies(救済条項)の解説に出てくるコモンロー(common law)とエクイティ (衡平法:equity)は、英米法の法体系に関する用語です。
英米法には、 コモンロー(common law)とエクイティ (衡平法:equity)の二つの法体系があります。
両者の主な違いは、損害を受けた当事者に対する救済策(remedy)の違いにあります。
詳しくは、remedy at law と remedy in equity|英文契約書の基本表現をご覧ください。
3)equity (エクイティ:衡平法)による救済措置とは
エクイティ (衡平法:equity)による救済措置には、
差止命令による救済(injunctive relief)と
特定履行(specific performance)
があります。
・差止命令による救済(injunctive relief):
裁判所の命令で、債務不履行を行った当事者に、特定の行為を行わせるか、または違法もしくは不当な行為の禁止を強制するものです。
・特定履行(specific performance):
裁判所が、特定の行為を命じることにより、契約内容の履行を強制するものです。
4)契約レビューの重要ポイント:Remedies条項の周到な活用と交渉
Remedies(救済条項)は、契約違反が発生した際に、被害を受けた当事者がどのような法的手段を取り得るかを定める、契約の「出口戦略」を規定する極めて重要な条項です。
この条項は、単に契約違反への対処法を定めるだけでなく、契約違反を未然に防ぐ抑止力としても機能します。
契約レビュー時には、以下の点を周到に検討し、自社の利益を最大限に保護できるかを確認しましょう。
ア.救済手段の種類と優先順位の理解
なぜ重要か?:
Remedies条項は、金銭賠償(money damages)だけでなく、差止命令(injunctive relief)や特定履行(specific performance)といった衡平法上の救済手段も規定します。
これらの救済手段がどのような場合に適用され、どのような目的を持つのかを理解することが、適切な条項設計の第一歩です。
確認すべきポイント:
金銭賠償(Money Damages):
最も一般的な救済手段であり、契約違反によって生じた損害を金銭で補償するものです。
その範囲(直接損害、間接損害、逸失利益など)が「損害賠償制限条項(Limitation of Liability)」によって制限される場合があります。
この制限条項と救済条項の関係性を必ず確認しましょう。
差止命令(Injunctive Relief):
金銭賠償では補償しきれない「取り返しのつかない損害(irreparable harm)」が発生するおそれがある場合に、特定の行為の禁止や、特定の行為の実行を裁判所が命じるものです。
特に秘密保持義務違反、競業避止義務違反など、情報や権利が不可逆的に侵害されるリスクがある場合に重要となります。
例文①、例文②のように、money damages may not be an adequate remedy(金銭賠償では十分な救済とならない可能性がある)という文言が含まれているかを確認しましょう。
特定履行(Specific Performance):
契約の目的物が代替不可能な場合(例:唯一無二の美術品、特定の不動産)、または金銭賠償では契約目的を達成できない場合に、契約通りの履行を裁判所が強制するものです。
例えば、ある技術ライセンス契約において、特定の技術移転が契約の根幹である場合などに有効です。
救済手段の非排他性(Cumulative Remedies):
例文①、例文②のように、「in addition to any other remedy to which they may be entitled at law or in equity(当該当事者が権利を有するコモンロー若しくは衡平法上の他の救済策に加えて)」という表現は、契約に規定された救済手段が互いに排他的ではなく、併用可能であることを明確にします。
これにより、被害当事者は複数の救済手段を追求できるため、より強力な保護が期待できます。
この文言がない場合、特定の救済手段を選択したことで他の救済手段を放棄したと解釈されるリスクがあります。
イ.契約解除権(Termination)との関係
なぜ重要か?:
契約違反があった場合、被害当事者が契約関係を終了させたいと考えることがあります。
Remedies条項は、契約解除権と密接に関連します。
確認すべきポイント:
解除の要件:
どのような契約違反(例:material breach:重大な違反)が解除事由となるか、また解除の前に是正期間が設けられているかなど、Termination条項の内容とRemedies条項が整合しているかを確認しましょう。
解除後の救済:
契約解除後も存続する義務(例:秘密保持義務、補償義務)があるか、また解除によって解除権を行使した当事者が損害賠償を請求できるかなど、解除後の法的効果について明確に規定されているかをチェックしましょう。
ウ.弁護士費用(Attorney’s Fees)の負担
なぜ重要か?:
契約違反に関する紛争解決に要する弁護士費用は高額になることが多く、その負担をどちらの当事者が負うかは、紛争解決のインセンティブに大きく影響します。
確認すべきポイント:
勝訴当事者負担原則(English Rule):
例文②のto recover damages and costs (including attorney’s fees) caused by any breach のように、違反によって生じた損害と費用(弁護士費用を含む)を回復できる旨を規定することは、勝訴当事者が弁護士費用を敗訴当事者に請求できる旨を意味します(これは米国法のAmerican Ruleとは異なります)。
これにより、契約違反の訴訟を起こす際の経済的ハードルが下がり、違反抑止に繋がります。
費用負担の公平性:
特に契約交渉力が対等でない場合、不当に厳しい弁護士費用負担条項になっていないか注意しましょう。
エ.裁判管轄(Jurisdiction)と執行(Enforcement)
なぜ重要か?:
裁判所による救済(差止命令や特定履行)を求める場合、どこの国の裁判所が管轄権を持つのか、そしてその裁判所の命令が実際に相手国で執行可能であるかどうかが、実効性を左右します。
確認すべきポイント:
準拠法と管轄裁判所の一致:
Remedies条項を実効的に機能させるためには、契約の準拠法(Governing Law)と紛争解決条項(Dispute Resolution)で指定された管轄裁判所が適切であるかを確認しましょう。
外国判決の執行可能性:
国際契約においては、指定された裁判所の判決(差止命令等を含む)が、実際に相手方の所在する国で執行可能であるか(外国判決の承認・執行の制度があるか)も事前に確認することが重要です。
これにより、単なる「絵に描いた餅」とならないよう実効性を担保します。
Remedies条項は、契約の履行が困難になった際の企業の「生命線」とも言える条項です。
その内容を深く理解し、予期せぬリスクから自社を保護し、紛争発生時には適切な救済を受けられるよう、契約交渉・レビューの際には細心の注意を払いましょう。
2.例文と基本表現:
1)Remedies(救済条項)の例文と基本表現 ①
Remedies
Each of the parties hereto acknowledges and agrees that, in the event of any breach of any covenant or agreement contained in this Agreement by the other party, money damages may be inadequate with respect to any such breach and the non-breaching party may have no adequate remedy at law. It is accordingly agreed that each of the parties hereto shall be entitled, in addition to any other remedy to which they may be entitled at law or in equity, to seek injunctive relief and/or to compel specific performance to prevent breaches by the other party hereto of any covenant or agreement of such other party contained in this Agreement.
(訳):
救済条項
本契約の各当事者は、相手方が本契約の誓約または合意事項に違反した場合、かかる違反に関して金銭的損害賠償では不充分なものがあり、違反を被った当事者が 充分な法的救済を受けれない可能性があることを確認し合意する。 これに応じて、本契約の各当事者は、当該当事者が権利を有するコモンロー若しくは衡平法上の他の救済策に加えて、差止命令による救済を求め、および/または他の当事者による本契約の誓約若しくは合意事項の違反を防ぐために、特定履行を強制する権利を有することに合意する。
(注):
*heretoは、本契約のという意味です。くわしくは、hereto, hereof, herein, hereby, hereunder, herewith, hereinafterの意味と例文をご覧ください。
*acknowledges and agreesは、確認して合意するという意味です。くわしくは、acknowledgeの意味と例文をご覧ください。
*any covenant or agreementは、誓約または合意事項という意味です。
*contained in this Agreementは、本契約の、本契約に記載されたという意味です。
*money damagesはこのように複数形で使われると、金銭的損害賠償という意味になります。
*with respect toは、~に関してという意味です。
*the non-breaching partyは、違反を被った当事者という意味です。
*adequate remedy at lawは、充分な法的救済という意味です。
*at law or in equityは、コモンロー若しくは衡平法上のという意味です。
*seek injunctive reliefは、差止命令による救済を求めるという意味です。
*compel specific performanceは、特定履行を強制するという意味です。
2) Remedies(救済条項)の例文と基本表現 ②
Remedies
Each of the parties to this Agreement will be entitled to enforce its rights under this Agreement specifically, to recover damages and costs (including attorney’s fees) caused by any breach of any provision of this Agreement and to exercise all other rights existing in its favor. The parties hereto agree and acknowledge that money damages may not be an adequate remedy for any breach of the provisions of this Agreement and that any party may in its sole discretion apply to any court of law or equity of competent jurisdiction (without posting any bond or deposit) for specific performance and/or other injunctive relief in order to enforce or prevent any violations of the provisions of this Agreement.
(訳):
救済条項
本契約の各当事者は、本契約に基づく権利を個別に行使する権利、本契約の条項の違反に起因した損害及び費用(弁護士費用を含む)を回収する権利、及び本契約上の他の一切の権利を行使する権利を有する。 本契約の当事者は、金銭的損害賠償が本契約の条項の違反に関して十分な救済とならない可能性があること、及び各当事者がその独自の裁量により、本契約の条項の違反の是正若しくは防止のために、特定履行又はその他差止命令による救済に関して、(担保若しくは保証金の預託なしに)管轄権を有するコモンロー又は衡平法の裁判所の適用に服する権利を有することを合意し確認する。
(注):
*be entitled toは、(~する)権利を有するという意味です。
*enforce its rights under this Agreement specificallyは、本契約に基づく権利を個別に行使するという意味です。
*attorney’s feesは、弁護士費用という意味です。
*exercise all other rightsは、他の一切の権利を行使するという意味です。
*in its sole discretionは、その独自の裁量によりという意味です。くわしくは、at its optionとat its discretionの意味と例文をご覧ください。
*any court of law or equity of competent jurisdictionは、管轄権を有するコモンロー又は衡平法の裁判所という意味です。
*specific performance and/or other injunctive reliefは、特定履行又はその他差止命令による救済という意味です。
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