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英文契約書における裁判管轄条項と準拠法条項の基本的な概念、裁判管轄条項と準拠法条項の関係、組み合わせパターン、などについて例文を入れて解説します。
目次:
1.はじめに:裁判管轄と準拠法の重要性
2.裁判管轄(Jurisdiction)とは
1)国際裁判管轄の原則
2)国際裁判管轄の種類と英文契約書における裁判管轄条項の例文
①専属的合意管轄(exclusive jurisdiction)
②付加的合意管轄(optional jurisdiction)
③法定管轄(statutory jurisdiction)
3)裁判管轄条項のポイント
4)日本の民事訴訟法における国際裁判管轄
3.準拠法(Governing Law)とは
1)準拠法の選択の重要性
2)準拠法の選択方法
3)英文契約書における準拠法条項の例文
①例文1:準拠法条項(基本的な形式)
②例文2:準拠法条項(通常の詳細な形式)
4)準拠法条項のポイント
5)日本の国際私法における準拠法
4.裁判管轄と準拠法の関係
1)裁判管轄と準拠法の違い
2)裁判管轄と準拠法の関係
3)裁判管轄と準拠法の組み合わせとメリット・デメリット
4)英文契約書における組み合わせの例文
①例文1:日本の裁判所・日本法
②例文2:外国の裁判所・外国法
(ニューヨーク州法とニューヨーク州裁判所)
③例文3:外国の裁判所・外国法
(シンガポール法とシンガポール国際仲裁センター)
5.まとめ
国際取引は、異なる法体系を持つ国々の間で成立する契約です。
そのため、紛争が発生した場合に備えて、
どの国の裁判所でどの国の法律に基づいて解決するか
を事前に明確に定めておくことが非常に重要になります。
しかし、日本企業が直面する英文契約書の中には、裁判管轄や準拠法について明確な定めがないケースも多々あります。
これらの条項が曖昧な場合、紛争解決は複雑になり、訴訟費用の増大や不利な判決を招くリスクがあります。
例えば、契約書に「準拠法は日本法とする」としか記載されていないとします。
この場合、どの国の裁判所で裁判を行うかが不明確であり、相手方と裁判管轄について争うことになる可能性があります。
また、準拠法が海外の相手国の法律であるとします。
この場合、日本法とは異なる法制度や商習慣に基づいて判断されるため、日本企業にとって不利な判決を受けるリスクがあります。
この記事では、契約交渉において適切な判断ができるようにするため、
国際契約における裁判管轄と準拠法の基本的な概念、
裁判管轄と準拠法はどのような関係にあるのか、
裁判管轄と準拠法の組み合わせパターン、など
について解説します。
裁判管轄(Jurisdiction)とは、
特定の事件について、どこの裁判所が裁判を行う権限を持つかを定めるものです。
国際取引においては、異なる国の企業が契約を締結するため、紛争が発生した場合にどの国の裁判所で裁判を行うかを事前に合意しておくことが重要になります。
そして国際裁判管轄とは、
国際的な取引や法律関係において、どの国の裁判所が裁判を行う権限を持つかを定めるものです。
国際裁判管轄の原則とは、
裁判所が国際裁判管轄を判断する際の基準のことです。
国際裁判管轄は、公平に、正しく、速やかに裁判で解決する、ことを考慮して決定されます。
一般的に、以下の原則に基づいて判断されます。
当事者の合意:
当事者間で合意した国の裁判所が管轄権を持ちます。これを合意管轄といいます。
被告の住所地:
被告の住所地を管轄する裁判所が管轄権を持ちます。
契約の履行地:
契約の履行地を管轄する裁判所が管轄権を持ちます。
不法行為地:
不法行為地を管轄する裁判所が管轄権を持ちます。
2)国際裁判管轄の種類と英文契約書における裁判管轄条項の例文
裁判管轄の種類とは、
当事者がどのように管轄裁判所を定めるかという分類のことです。
国際裁判管轄には、主に、以下の種類があります。
それぞれの種類の国際裁判管轄について英文契約書における裁判管轄条項の例文を付けました。
①専属的合意管轄(exclusive jurisdiction):
意味:
当事者間で合意した特定の国の裁判所のみが管轄権を持ちます。
例文:
Any dispute arising out of or in connection with this Agreement shall be subject to the exclusive jurisdiction of the Tokyo District Court.
(訳)
本契約に起因または関連する一切の紛争は、東京地方裁判所の専属的管轄に服する。
②付加的合意管轄(optional jurisdiction):
意味:
当事者間で合意した国の裁判所に加え、他の国の裁判所も管轄権を持ちます。
例文:
Any dispute arising out of or in connection with this Agreement may be brought before the courts of Japan or the courts of the State of New York.
(訳)
本契約に起因または関連する一切の紛争は、日本またはニューヨーク州の裁判所に提訴することができる。
③法定管轄(statutory jurisdiction):
意味:
当事者間の合意に関わらず、法律によって定められた裁判所が管轄権を持ちます。
例文:
Statutory Jurisdiction: Claims arising from the sale of goods to consumers within the State of California shall be subject to the jurisdiction of the California Superior Court.
(訳)
法定管轄:カリフォルニア州内の消費者への物品販売から生じる請求は、カリフォルニア州高等裁判所の管轄に服する。
裁判管轄条項のポイントは、以下の通りです。
管轄裁判所の特定:
裁判所の名称だけでなく、所在地も明確に記載します。
管轄権の範囲:
どのような紛争について管轄権を持つのかを明確に記載します。
専属的か付加的か法定的かの明示:
専属的合意管轄、付加的合意管轄、法定管轄のいずれとするかを明確に記載します。
日本の民事訴訟法では、一定の要件を満たす場合に、日本の裁判所が国際裁判管轄を持つことが認められています。
例えば、日本に被告の住所がある場合や、契約の履行地が日本国内である場合などが該当します。
準拠法(Governing Law)とは、
国際契約において、契約の成立、有効性、解釈、履行、違反など、契約に関するあらゆる法的問題を解決するために適用される法律のことをいいます。
国際取引では、異なる国の企業が契約を締結するため、どの国の法律に基づいて契約を解釈し、紛争を解決するかを事前に合意しておくことが重要になります。
準拠法を適切に選択することにより、以下のメリットがあります。
見通しが立つ:
契約当事者は、どの国の法律が適用されるかを事前に把握できるため、契約の解釈や履行に関する見通しが立ちやすくなります。
法的リスクを減らせる:
準拠法を定めることで、紛争が発生した場合に、どの国の法律に基づいて解決するかを明確にすることで、法的リスクを減らすことにつながります。
紛争解決の円滑化:
準拠法を定めることで、紛争解決の手続きや判断基準が明確になり、紛争解決を円滑に進めることができます。
準拠法は、主に以下の方法で選択されます。
当事者間の合意:
契約当事者間で合意した国の法律が準拠法となり、これが契約の準拠法条項に定められます。
抵触法による決定:
当事者間で準拠法の合意がない場合、抵触法に基づいて準拠法が決定されます。
抵触法とは、どの法を適用させるかを定める法のことをいい、国際私法とも呼ばれます。
以下に、英文契約書における準拠法条項の例文を二つご紹介します。
準拠法条項の基本的な形式です。
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan.
(訳)
本契約は、日本法に準拠し、同法に従って解釈されるものとする。
実際の英文契約書でよく見られる詳細な条項です。
This Agreement and any dispute or claim arising out of or in connection with it or its subject matter or formation (including non-contractual disputes or claims) shall be governed by and construed in accordance with the laws of the State of New York.
(訳)
本契約およびその主題または成立に起因または関連する一切の紛争または請求(契約外の紛争または請求を含む)は、ニューヨーク州法に準拠し、同法に従って解釈されるものとする。
準拠法の特定:
準拠法とする国や州の法律を明確に記載します。
例文2でいうと、
the laws of the State of New York(ニューヨーク州法)の部分です。
解釈方法の明示:
契約の解釈方法についても準拠法に委ねることを記載します。
例文2でいうと、
construed in accordance with(に従って解釈される)の部分です。
適用範囲の明確化:
契約全体だけでなく、契約に関連する一切の紛争に準拠法を適用することを明示します。
例文2でいうと、
This Agreement and any dispute or claim arising out of or in connection with it or its subject matter or formation (including non-contractual disputes or claims)(本契約およびその主題または成立に起因または関連する一切の紛争または請求(契約外の紛争または請求を含む))
の部分です。
日本の国際私法(法の適用に関する通則法)では、準拠法について以下の規定を設けています。
当事者自治の原則:
契約当事者が準拠法を合意した場合、その合意が尊重されます。
最密接関係地法:
当事者間で準拠法の合意がない場合、
契約に最も密接な関係がある地の法律が準拠法となります。
これらの規定は、日本の裁判所が準拠法を判断する際の基準となります。
裁判管轄と準拠法は、国際契約における紛争解決の重要な要素ですが、それぞれ独立した内容・概念です。
しかし、裁判管轄と準拠法は密接に関連しており、適切な組み合わせを選択することが紛争解決を円滑に進める上で重要となります。
裁判管轄(Jurisdiction):
どの国の裁判所が裁判を行う権限を持つかを定めるものです。
準拠法(Governing Law):
どの国の法律に基づいて契約を解釈し、紛争を解決するかを定めるものです。
つまり、裁判管轄は「どこで」、準拠法は「何を」基準に紛争を解決するかを定めるものです。
裁判管轄と準拠法は、以下の点で関係しています。
①裁判所の判断基準と外国法の適用:
裁判所は、自国の裁判管轄権に基づいて裁判を行う場合でも、準拠法として外国法を適用することがあります。
②判決の執行への影響:
裁判管轄と準拠法が適切に選択されていない場合、裁判所の判決が執行できない可能性があります。
③訴訟費用への影響:
裁判管轄と準拠法の組み合わせによって、訴訟費用が大きく影響を受ける可能性があります。
裁判管轄と準拠法の主な組み合わせを挙げてみます。
そして、裁判管轄と準拠法の組み合わせについて、それぞれのメリットとデメリットを整理してみました。
日本の裁判所と日本法:
日本の裁判所で日本法に基づいて紛争を解決するケースです。
メリット:自国である日本の裁判制度や法律に精通しているため、安心感があります。
デメリット:相手方が外国企業の場合、判決の執行が困難になる可能性があります。判決の執行に相手国の裁判所による承認が必要となるためです。
日本の裁判所と外国法:
日本の裁判所で外国法に基づいて紛争を解決するケースです。
メリット:相手方の母国法を適用することで、相手方の協力を得やすくなる可能性があります。
デメリット:外国法に精通している弁護士を探す必要があり、訴訟費用が増加する可能性があります。
外国の裁判所と日本法:
外国の裁判所で日本法に基づいて紛争を解決するケースです。
メリット:相手方の母国で裁判を行うことで、判決の執行が容易になる可能性があります。
デメリット:外国の裁判制度や手続きに関する法律(訴訟法)に不慣れなため、不利な判決を受ける可能性があります。
外国の裁判所と外国法:
外国の裁判所で外国法に基づいて紛争を解決するケースです。
メリット:中立的な第三国の裁判所と法律を選択した場合、双方の合意を得やすくなる可能性があります。
デメリット:第三国の裁判制度や法律に精通している弁護士を探す必要があり、訴訟費用が増加する可能性があります。
以下に、英文契約書における裁判管轄条項と準拠法条項の組み合わせの例文をご紹介します。
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan. Any dispute arising out of or in connection with this Agreement shall be subject to the exclusive jurisdiction of the Tokyo District Court.
(訳)
本契約は、日本法に準拠し、同法に従って解釈されるものとする。本契約に起因または関連する一切の紛争は、東京地方裁判所の専属的管轄に服する。
②例文2:外国の裁判所・外国法(ニューヨーク州法とニューヨーク州裁判所)
ニューヨーク州は国際取引の中心地であり、中立的な裁判地として選ばれることも多くあります。
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of the State of New York. Any dispute arising out of or in connection with this Agreement shall be subject to the exclusive jurisdiction of the courts of the State of New York.
(訳)
本契約は、ニューヨーク州法に準拠し、同法に従って解釈されるものとする。本契約に起因または関連する一切の紛争は、ニューヨーク州の裁判所の専属的管轄に服する。
③例文3:外国の裁判所・外国法(シンガポール法とシンガポール国際仲裁センター)
日本企業の場合、中立的な第三国の裁判所と法律を選択するよくある例として、シンガポールがあります。
この場合、紛争解決機関は、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)となります。
以下がその例文です。
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Singapore.
Any dispute arising out of or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in accordance with the SIAC Rules of the Singapore International Arbitration Centre. The seat of arbitration shall be Singapore. The language of the arbitration shall be English.
(訳):
本契約は、シンガポール法に準拠し、解釈されるものとする。
本契約に関連して生じる一切の紛争は、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)の仲裁規則に従い、最終的に仲裁によって解決されるものとする。仲裁地はシンガポールとし、仲裁言語は英語とする。
このように、裁判管轄と準拠法は、契約内容や当事者の状況に応じて、最適な組み合わせを選択することが重要です。
この記事では、国際契約における裁判管轄(Jurisdiction)と準拠法(Governing Law)の基本的な概念、両者の関係について解説しました。
裁判管轄と準拠法は、国際取引における紛争解決の重要な要素であり、契約締結前に慎重に検討する必要があります。
裁判管轄:どの国の裁判所が裁判を行う権限を持つかを定めるものです。
準拠法:どの国の法律に基づいて契約を解釈し、紛争を解決するかを定めるものです。
両者はそれぞれ独立した内容・概念ですが、密接に関連しており、適切な組み合わせを選択することが紛争解決を円滑に進める上で重要となります。
裁判管轄と準拠法の組み合わせには、主に以下のパターンがあります。
日本の裁判所・日本法: 日本の裁判所で日本法に基づいて紛争を解決します。
日本の裁判所・外国法: 日本の裁判所で外国法に基づいて紛争を解決します。
外国の裁判所・日本法: 外国の裁判所で日本法に基づいて紛争を解決します。
外国の裁判所・外国法: 外国の裁判所で外国法に基づいて紛争を解決します。
各パターンには、それぞれメリットとデメリットがあり、契約内容や当事者の状況に応じて、最適な組み合わせを選択する必要があります。
裁判管轄と準拠法の選択は、国際取引におけるリスク管理の重要な要素となります。
自社の利益を最大限に守るために、この記事で解説した内容を参考に、契約交渉において適切な判断をすることが重要です。
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