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英文契約書に置かれるTermination Without Cause(正当事由のない解除の条項)について解説します。例文をとりあげ、要点と対訳と語注をつけました。
1.解説:
1)Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)とは
Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)とは、
契約不履行や契約違反がない場合でも解除できる
ことについて合意した条項です。
典型的な内容は、
『〇〇日以上前に通知すれば(つまり、充分な通知期間をおいて)、理由の如何に関わらず、契約を解除できる』
と合意するような契約条文です。
2)Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)が使われる場面とは
国内の契約書では、一方的な契約解除は、不利な契約とされて控える傾向があります。
しかし、海外では、一方的な解除を認めた英文契約書も比較的多く見られます。
よく見かけるのは、ひとつの契約書の中に契約解除について、
①Termination for Cause(正当事由による解除の条項)
②Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)
の二つを区別しながらも、両方を規定しているものです。
ちなみにTermination for Cause(正当事由による解除の条項)とは、
相手方の当事者に契約の重大な違反や不履行がある場合の契約解除
について定めた条項です。
ひとつの契約書の中に、二つの異なる契約解除に関する条項を設ける理由ですが、
これは、訴訟や損害賠償責任を回避して、いつでも解除できるようにするために、
Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)
が意図的に追加されるものです。
なお、Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)のタイトルは代わりに、
Termination for Convenience(都合による解除の条項)
の見出し条項で置かれることもあります。
注意点として、
Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)は、契約に明示的に規定されている場合にのみ有効です。
下記にあげたTermination Without Cause(正当事由のない解除の条項)の例文①と例文②は、当事者双方に、事由のない解除権を認めているものです。
一方、当事者の一方に不利な内容の契約の場合は、その不利な立場の当事者にのみ、事由のない解除権を認めるものもあります。
たとえば、以下のような契約の当事者です。
・販売店側に最低購入数量が設定されている非独占的な販売店契約で、当事者が販売店の場合。
・ライセンシーにミニマムロイヤリティが課されているライセンス契約で、当事者がライセンシーの場合。
3)Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)の戦略的意義と留意点
Termination Without Cause条項は、契約の「出口戦略」を明確にし、ビジネスの柔軟性とリスク管理を担保するための極めて重要な機能を持っています。
特に国際取引においては、その戦略的意義と留意点を深く理解しておく必要があります。
ビジネス戦略の柔軟性:
この条項は、市場環境の変化、事業戦略の見直し、予期せぬ外部要因(例:経済情勢の悪化、技術の陳腐化、パートナーの事業方針転換)など、契約締結時には予測できなかった状況変化に対応するために不可欠です。
正当な事由がなくても契約関係を終了できることで、企業は不採算事業からの撤退、提携先の変更、新たなパートナーシップへの移行などを、法的リスクを最小限に抑えつつ、スムーズに行うことが可能になります。
これは、長期的なコミットメントを伴う契約において、将来の不確実性に対応するための「安全弁」としての役割を果たします。
紛争リスクの低減と関係性の円滑な終了:
Termination for Cause(正当事由による解除)の場合、相手方の契約違反を立証する必要があり、しばしばその「重大性」を巡って紛争に発展するリスクを伴います。
これに対し、Termination Without Causeは、解除の「理由」を問わないため、このような立証責任や紛争のリスクを大幅に回避できます。
十分な通知期間を設けることで(例文①のninety (90) days after the date such notice is givenや例文②のupon 90 days written notice)、相手方にも対応の猶予を与え、関係性の円滑な終了を促します。
これは、訴訟や仲裁による時間・コストの消費を避け、ビジネスに集中するための合理的な選択肢となります。
通知期間の重要性:
この条項において、通知期間(Notice Period)は非常に重要な要素です。
通知期間が短すぎると、相手方のビジネスに甚大な影響を与え、実質的な「不当な解除」とみなされる可能性があります。
一方、長すぎると、解除したい側の柔軟性を損なうことになります。
適切な通知期間は、業界慣行、取引の性質、契約の複雑さ、および双方のビジネスへの影響を考慮して慎重に決定されるべきです。
解除後の責任と補償(Liabilities and Obligations):
多くの場合、Termination Without Cause条項は、解除後の「追加の債務や義務なしに」(例文②のwithout any further liabilities or obligations hereunder)契約を終了できると定めます。
これは、正当事由による解除の場合に発生しうる損害賠償責任を原則として排除することを意味します。
しかし、解除前に発生した債務や義務(例:製品の支払い、秘密保持義務、保証責任など)は存続する旨が明記されることがほとんどです(例文②の(except with respect to liabilities and obligations arising prior to such termination which shall survive termination of this Agreement))。
この「存続条項(Survival Clause)」は非常に重要であり、解除後の清算関係を明確にするために不可欠です。
契約によっては、早期解除に対する一定の補償金(Termination Fee)の支払いを定めることもあります。
交渉上のパワーバランスとリスクヘッジ:
この条項が、特定の当事者にのみ有利な形で設定される場合、それは通常、その当事者が契約においてより大きなコミットメント(例:最低購入数量、ミニマムロイヤリティなど)を負っているケースです。
例えば、販売店が最低購入数量の義務を負う場合や、ライセンシーがミニマムロイヤリティの支払義務を負う場合、予期せぬ市場変化によってそれらの義務が過度な負担となるリスクがあります。
このような状況下で、「不利な立場にある当事者」にTermination Without Causeの権利を付与することは、その当事者が合理的な通知期間をもって契約から撤退し、過度なリスクを回避するための重要なリスクヘッジとなります。
これは、コミットメントを負う側が、予期せぬ状況変化によって不採算となる事態から脱却するための「出口戦略(契約から抜け出す選択肢)」として機能します。
このように、Termination Without Cause条項は、単に「契約を終わらせる方法」ではなく、ビジネス上のリスクを管理し、予期せぬ状況変化にも対応できる「強靭な契約関係」を構築するための、戦略的な条項であると理解することが重要です。
2.例文と基本表現:
(注):キーワードのwith or without cause(理由の有無にかかわらず)とwithout cause(理由を問わず)は青文字で示しています。
(注):英文契約書によく出る他の基本表現をハイライトし、語注をつけています。
1)Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)– 例文①
いずれの当事者も、理由の有無にかかわらず、相手方に書面で通知して、90日後に契約解除できます。
Termination without Cause. Either party may terminate this Agreement, with or without cause, by delivering written notice of termination to the other party, and, unless a later date is specified in such notice, termination shall be effective ninety (90) days after the date such notice is given.
(訳):
いずれの当事者も、理由の有無にかかわらず、他方当事者に書面による解除通知を送付することにより本契約を解除することができ、通知に特定の後日が指定されていない限り、解除は、当該通知の日付から90日後に有効になるものとする。
(注):
*terminateは、解除するという意味です。くわしくは、terminateとexpireの意味と例文をご覧ください。
*Either partyは、いずれかの当事者という意味です。くわしくは、partyとpartiesの関連表現の意味と例文をご覧ください。
*with or without causeは、理由の有無にかかわらずという意味です。
*delivering written notice of terminationは、解除通知を送付してという意味です。
*the other partyは、他方当事者という意味です。
*effectiveは、有効な、効力を有するという意味です。
2)Termination Without Cause(正当事由のない解除の条項)– 例文②
いずれの当事者も、90日前の書面通知で、理由を問わず、いつでも契約解除できます。
Termination Without Cause. This Agreement may be terminated by either party upon 90 days written notice given at any time during the initial or any renewal term without cause and without any further liabilities or obligations hereunder (except with respect to liabilities and obligations arising prior to such termination which shall survive termination of this Agreement).
(訳):
本契約は、いずれかの当事者により、90日前の書面による通知で、理由を問わず、かつ本契約に基づき何ら債務または義務なしに、当初の期間または更新期間中いつでも解除することができる(本契約の解除前に発生した、かかる解除後も存続する債務および義務に関する場合を除く)。
(注):
*either partyは、いずれかの当事者、一方当事者という意味です。
*upon 90 days written noticeは、90日前の書面による通知でという意味です。
*at any timeは、いつでもという意味です。
*the initial or any renewal termは、当初の期間または更新期間という意味です。
*without causeは、理由を問わずという意味です。
*liabilities or obligationsは、債務または義務という意味です。
*hereunderは、本契約に基づきという意味です。under the Agreementと同じです。
*with respect toは、~に関する、~に関してという意味です。他にも類似の表現であるwith regard to、in relation to、in respect of、pertaining to、regarding、concerningなどがよく使われます。
*survive termination of this Agreementは、本契約の解除後も存続するという意味です。
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