Waiver(権利放棄条項):実はNo Waiver(権利不放棄条項)が重要

1.Waiver(権利放棄条項)という用語の誤解:

英文契約書においてWaiver(権利放棄条項)を目にしたら、まず「権利を放棄する条項かな?」と思われるかもしれません。

しかし、Waiver(権利放棄条項)の見出しがあっても、その内容は、No Waiver(権利不放棄条項:権利を放棄しない条項)であることが多いのです。

そもそも、Waiver(権利放棄条項)とは?

本来のWaiver(権利放棄条項)とは、当事者の一方が、自らが持つ契約上の特定の権利を、意図的に放棄することを明確にするための条項です。

例えば、「相手方が、今回の支払いが遅れたことについては、私は遅延損害金を請求する権利を放棄します」のように使われます。

なぜ、Waiver(権利放棄条項)という見出しで、No Waiver(権利不放棄条項)の内容が多いのか?

これは、英文契約書の世界では、権利を簡単には放棄したくないという考え方が一般的だからです。

もし、権利を行使するのが少し遅れたり、一度だけ大目に見たりした場合でも、これで権利を放棄した、と相手当事者に主張されるのを防ぎたいためです。

そのため、条項名としては一般的なWaiver(権利放棄条項)を使いつつ、実際の内容では、権利を行使しなくても、それは権利を放棄することにはなりませんよ、という権利不放棄を定めることが多いのです。

つまり、Waiver(権利放棄条項)という見出しは、権利に関する条項を示す目印のようなもので、その実質は、安易な権利放棄を防ぐためのNo Waiver(権利不放棄条項)であることが多い、と考えると理解しやすいと思います。

この記事では、英文契約書で非常に重要なNo Waiver条項(権利不放棄条項)を中心に、その意味、使い方、注意点を解説します。

2.No Waiver条項(権利不放棄条項)とは:意味と役割

意味:

No Waiver条項(権利不放棄条項)とは、

当事者の一方が、契約上の権利や救済手段を一時的に行使しなかったり、その行使を遅らせたりした場合でも、その権利や救済手段を将来にわたって放棄したとはみなされないことを明確にするための条項です。

役割:

この条項の主な役割は以下の通りです。

継続的な取引において柔軟な対応を可能にする:

契約違反があった場合に、その都度厳格に権利を行使するのではなく、状況に応じて柔軟に対応できるようにします。

例えば、長期的な売買契約において、買主の支払いが数日遅れた場合に、売主がその都度すぐに契約解除の手続きを取るのではなく、今回は様子を見るという対応をしても、将来の同様の遅延に対して契約解除権を失わないようにすることがあります。

黙示的な権利放棄と解釈されないようにする:

権利を行使しなかったことが、黙示的な権利放棄と解釈されるリスクを避けます。

例えば、賃貸契約において、貸主が数ヶ月間、家賃の遅延に対して何も言わなかったとしても、それは将来の家賃滞納に対する権利(契約解除や遅延損害金の請求)を放棄したとみなされないようにすることがあります。

契約の安定性を維持する:

一方的な解釈による権利の喪失を防ぎ、契約関係の安定性を維持します。

例えば、ソフトウェアライセンス契約において、利用者が契約で禁止されている行為を一度行ったとしても、権利者がすぐに警告しなかった場合でも、それは将来的にその禁止行為を主張する権利を放棄したことにはならないようにすることがあります。

3.No Waiver(権利不放棄条項)の注意点・リスク

No Waiver(権利不放棄条項)は、上記2で述べた当事者を保護する重要な役割を果たしますが、注意すべき点もあります。

権利の長期不行使:

あまりにも長期間にわたって権利を行使しない場合、信義則などの原則から、例外的に権利放棄とみなされる可能性も少なからずあります。

明確な意思表示の重要性:

特定の権利を本当に放棄したい場合は、No Waiver(権利不放棄条項)があるからといって曖昧な態度を取るべきではありません。

明確な書面による権利放棄の手続きを踏むことが重要です。

条項の適用される範囲:

No Waiver(権利不放棄条項)が、契約全体のどの権利に適用されるのか、その範囲を正確に理解しておく必要があります。

4.No Waiver(権利不放棄条項)の用法と例文

以下に、No Waiver(権利不放棄条項)の三つの例文をご紹介します。

例文1:権利の不行使は権利の放棄ではないとするNo Waiver(権利不放棄条項)

No failure or delay by either party in exercising any right, power or remedy under this Agreement shall operate as a waiver of any such right, power or remedy, nor shall any single or partial exercise by either party of any right, power or remedy preclude any other or further exercise thereof or the exercise of any other right, power or remedy.

(訳):

本契約に基づく権利、権限または救済手段のいずれかの行使における、いずれかの当事者による不履行または遅延は、かかる権利、権限または救済手段の放棄とはみなされず、いずれかの当事者によるいずれかの権利、権限または救済手段の単独または一部の行使も、その後のまたは更なる行使、あるいはその他の権利、権限または救済手段の行使を妨げるものではない。  

解説:

この条項は、権利を行使しなかったり、行使が遅れたりしても、将来的にその権利や他の権利を失わないことを明確にする基本的なNo Waiver(権利不放棄条項)です。

例文2:書面による権利放棄を要求するNo Waiver(権利不放棄条項)

Any waiver by either party of any breach of, or any default under, this Agreement shall not be deemed a waiver of any subsequent or other breach or default. No waiver shall be effective unless in writing and signed by the waiving party.

(訳):

本契約の違反または不履行に対するいずれかの当事者による権利放棄は、その後のまたはその他の違反または不履行の権利放棄とはみなされないものとする。いかなる権利放棄も、書面で行われ、権利を放棄する当事者によって署名されない限り、有効ではないものとする

解説:

この条項は、口頭での曖昧なやり取りではなく、書面による明確な意思表示によってのみ権利放棄が有効となることを定めています。

例文3:一部履行があっても権利の放棄とはならないとするNo Waiver(権利不放棄条項)

The acceptance by Seller of any partial payment shall not constitute a waiver of Buyer’s obligation to pay the remaining balance in full.

(訳):

売主による一部支払いの受領は、買主の残額全額を支払う義務の放棄となるものではない。

解説:

この条項は、代金の一部を受け取ったとしても、売主は残りの代金を請求する権利を放棄しないことを明確にしています。

5.本来の Waiver(権利放棄条項)について:

前述は、No Waiver条項について説明でしたが、本来の意味でのWaiver条項(権利放棄条項:特定の権利を意図的に放棄する条項)も、それほど頻度は多くありませんが、存在します。

これは、特定の状況下で、当事者が明確に権利を放棄する意思を示す場合に用いられます。

本来の Waiver(権利放棄条項)は、例えば、以下のようなケースでが置かれることがあります。

紛争解決・和解での請求権の放棄:
訴訟や紛争の和解において、一方当事者が将来の同様の請求権を放棄する。

債務の放棄:
債権者が債務者に対して、債務の一部または全部を放棄する。

瑕疵担保責任の放棄:
特定の期間経過後の瑕疵担保責任を放棄する(下記の例文はその一例です
)。

知的財産権の不行使:
特許権者などが、特定の範囲で権利を行使しないことを表明する。

本来の Waiver(権利放棄条項)の例文:

The Buyer hereby unconditionally and irrevocably waives any right to claim a defect in the Goods that was reasonably discoverable upon delivery if the Buyer fails to notify the Seller of such defect in writing within thirty (30) days of the delivery date.

(訳):

買主は、引渡し時に合理的に発見可能であった物品の欠陥について、引渡し日から30日以内に売主に書面で通知しなかった場合、かかる欠陥について主張する一切の権利を無条件かつ取消不能に放棄する。

解説:

この条項は、買主が引渡し時に合理的に発見できた欠陥について、30日以内に売主に書面で通知しなかった場合、その欠陥に関する請求権を明確に放棄することを定めています。

6.まとめ

英文契約書におけるWaiver(権利放棄条項)は、文脈によって意味合いが異なります。

多くの場合、Waiver(権利放棄条項)という条項名で記載されているのは、権利放棄の効果を否定するNo Waiver(権利不放棄条項)の内容です。

No Waiver(権利不放棄条項)は、継続的な取引における柔軟な対応を可能にし、意図しない権利の喪失を防ぐ重要な役割を果たします。

一方、本来のWaiver(権利放棄条項)は、特定の権利を意図的に放棄する場合に用いられます。

例えば、上記のように、一定期間内に通知しなかった場合の瑕疵担保責任の放棄などです。

英文契約書を読む際には、Waiver(権利放棄条項)という名称だけでなく、条項全体の意味を正確に理解することが、契約上のリスクを適切に管理する上で不可欠となります。

 

英文契約書・日本語契約書の作成・チェック(レビュー)・翻訳は、当事務所にお任せください。リーズナブルな料金・費用で承ります。

お問合せ、見積りは、無料です。お気軽にご相談ください。

受付時間: 月~金 10:00~18:00

メールでのお問合せは、こちらから。

ホームページ:宇尾野行政書士事務所