英文契約で頻出するWarranty(保証)とWarranty Disclaimer(保証の否認)。似ているようで全く異なるこの二つの用語の意味、違い、契約に与える影響とリスクについて、例文を交えて解説します。
目次:
1.はじめに:英文契約におけるWarrantyとWarranty Disclaimerの重要性
2.Warranty(保証)とは:例文付き
(1) Express Warranty(明示の保証)
(2) Implied Warranty(黙示の保証)
3.Warranty Disclaimer(保証の否認)とは:例文付き
4.徹底比較:WarrantyとWarranty Disclaimerの5つの違い
5.WarrantyとWarranty Disclaimerが契約に与える影響とリスク管理
6.まとめ:WarrantyとWarranty Disclaimerを正しく理解し、契約リスクを回避する
1.はじめに:英文契約におけるWarrantyとWarranty Disclaimerの重要性
英文契約書は、その専門用語の多さや、日本法との概念の違いから、契約内容の把握に苦労される方も少なくないと思います。
特に、Warranty(保証)とWarranty Disclaimer(保証の否認)という二つの用語は、一見似ているようで、契約における意味合いは大きく異なります。
Warranty(保証)とWarranty Disclaimer(保証の否認)の違いをあいまいなままにして英文契約を締結してしまうと、後々、予期せぬ法的リスクや経済的損失を被る可能性があります。
例えば、製品の品質についてWarranty(保証)があると思っていたのに、実際にはWarranty Disclaimer(保証の否認)が記載されており、自社の利益が十分に守られないケースが考えられます。
この記事では、英文契約書において非常に重要な役割を果たすWarranty(保証)とWarranty Disclaimer(保証の否認)について、その基本的な意味から、契約に与える影響、そしてリスク管理の観点まで詳しく解説します。
実務で役立つ具体的な例文を交えながら、この二つの重要な用語の違いを明らかにしていきます。
この記事を読むことで、英文契約のリスクを適切に理解し、安全な取引を進めるための一歩となればと思います。
英文契約におけるWarranty(保証)とは、簡単に言うと、売主が買主に対して、ある製品やサービスが特定の基準を満たしていること、または特定の状態であることを約束する条項です。
これは、売買契約だけでなく、ライセンス契約や業務委託契約など、様々な種類の契約で見られます。
Warrantyがあることで、買主は購入した製品やサービスが、契約書に記載された通りの品質や性能を備えていることを期待できます。
もし、実際に納品されたものや提供されたサービスがこの約束(Warranty)に反していた場合、買主は売主に対して、修理、交換、損害賠償などの何らかの救済を求めることが可能になります。
Warrantyは、その性質によって大きく分けて、Express Warranty(明示の保証)とImplied Warranty(黙示の保証)の二つの種類があります。
これは、契約書の中に明確に記載された保証のことです。
「製品は〇〇の品質を満たすものとする」「サービスは〇〇の基準に従って提供されるものとする」
といった具体的な記述がこれにあたります。
例文:明示の保証
The Goods shall be free from defects in material and workmanship for a period of one year from the date of delivery.
(商品は、引渡し日から1年間、材料および製造上の欠陥がないものとする。)
The Software shall perform substantially in accordance with the specifications set forth in the Documentation.
(ソフトウェアは、ドキュメントに記載された仕様に従って、実質的に動作するものとする。)
Implied Warranty(黙示の保証)は、契約書に明示的には記載されていないものの、法律の規定や商慣習などによって当然に認められる保証のことです。
黙示の保証の例(物品売買契約の場合):
Warranty of Merchantability(商品性の保証):
販売される商品が、通常の用途に適した品質を備えているという保証です。例えば、通常使用される目的で安全に使える品質を持っているということです。
例文:
The seller warrants that the goods are merchantable.
(売主は、商品が商品性を有することを保証する。)
補足:
例文にあるthe goods are merchantable(商品性を有する)とは、その種類の商品が通常使用される目的に適した品質を持つという意味合いがあります。
Warranty of Fitness for a Particular Purpose(特定目的適合性の保証):
買主が特定の目的を売主に伝え、その目的のために商品を信頼して購入した場合に、その商品が特定の目的に適しているという保証です。
例文:
The seller warrants that the goods are fit for the buyer’s particular purpose.
(売主は、商品が買主の特定の目的に適合することを保証する。)
補足:
例文にあるfit for the buyer’s particular purpose(買主の特定の目的に適合する)とは、買主が売主に伝えた特定の用途にその商品が適しているという意味合いがあります。
ただし、この黙示的保証は、後述するWarranty Disclaimer(保証の否認)によって排除されることが多い点に注意が必要です。
Warrantyは、買主にとって製品やサービスの品質を確保するための重要な権利となります。契約書の中でWarrantyがどのような範囲をカバーしているのか、をしっかりと確認することが、リスク管理につながります。
黙示的保証は、実際の英文契約書においては、売主によってWarranty Disclaimer(保証の否認)条項を置いて排除されることが非常に多いです。
したがって、契約書を読む際には、Warranty条項だけでなく、Disclaimer条項の内容をしっかりと確認し、どのような保証が実際に有効なのかを把握することが重要です。
3.Warranty Disclaimer(保証の否認)とは:例文
項目2では、Warranty(保証)が売主から買主への約束であり、製品やサービスの品質などを保証するものであることを解説しました。
それに対して、Warranty Disclaimer(保証の否認)は、売主が買主に対して、特定の保証はしない、または一切の保証をしないことを明確にする条項です。
Warranty Disclaimerは、保証の排除条項や、免責条項などと訳されることもあります。
売主がWarranty Disclaimerを契約書に盛り込む主な目的は、自らが負う可能性のある責任範囲を限定し、リスクを軽減することにあります。
Warranty Disclaimerが有効に記載されていれば、たとえ製品やサービスに欠陥があったり、期待される性能を発揮しなかったりした場合でも、買主は売主に対して、Warrantyに基づく修理、交換、損害賠償などの救済を求めることが難しくなります。
Warranty Disclaimerは、様々な形で契約書に記載されます。以下に、代表的な三つの例文をご紹介します。
Warranty Disclaimerの例文:
SELLER MAKES NO WARRANTIES, EXPRESS OR IMPLIED, INCLUDING BUT NOT LIMITED TO, ANY WARRANTY OF MERCHANTABILITY OR FITNESS FOR A PARTICULAR P1URPOSE.
(売主は、明示的または黙示的な一切の保証(商品性または特定の目的への適合性の保証を含むがこれらに限定されない)を行わない。)
THE GOODS ARE PROVIDED “AS IS” WITHOUT ANY WARRANTY WHATSOEVER.
(商品は、いかなる保証もなく「現状有姿」で提供される。)
SELLER SHALL NOT BE LIABLE FOR ANY INDIRECT, INCIDENTAL, CONSEQUENTIAL DAMAGES ARISING OUT OF THE USE OF THE PRODUCTS.
(売主は、製品の使用から生じる間接的、付随的、派生的損害について責任を負わない。)
これらWarranty Disclaimerの条項は、売主が提供する製品やサービスについて、どのような責任を負わないのかを明確にすることにより、将来生じるかもしれない紛争を予防する役割もあります。
買主としては、契約書にWarranty Disclaimerが記載されている場合、どのような保証が排除されているのかを注意深く確認する必要があります。
特に、AS IS(現状有姿)という表現がある場合は、製品にどのような欠陥があっても、売主は基本的に責任を負わないという意味合いになるため、慎重な検討が必要です。
Warranty Disclaimerは、売主のリスクを軽減する一方で、買主にとっては製品やサービスの品質に関するリスクを高めることにつながります。
契約交渉においては、WarrantyとWarranty Disclaimerの両方を全体として理解し、双方が納得できるバランスの取れた条項を目指すことが重要となります。
4.徹底比較:WarrantyとWarranty Disclaimerの5つの違い
ここでは、Warranty(保証)とWarranty Disclaimer(保証の否認)の主な違いを、5つのポイントで比較してみます。
1)意味合いの違い
Warranty(保証):
売主が買主に対して、製品やサービスが特定の基準を満たすことを約束するものです。
Warranty Disclaimer(保証の否認):
一方、Warranty Disclaimerは、売主が買主に対して、特定の保証はしない、または一切の保証をしないことを明確にするものです。
2)買主への影響
Warranty(保証)がある場合:
買主は、製品やサービスが約束された品質や性能を備えていることを期待でき、法的に保護される立場になります。
Warranty Disclaimer(保証の否認)がある場合:
買主は、製品やサービスに欠陥があっても、売主に修理や損害賠償などを求めることが難しくなり、法的な保護が制限されます。
3)売主の意図・狙い
Warranty(保証)を提供する意図・狙い:
売主は、製品やサービスの信頼性をアピールし、買主の購買意欲を高めることの狙いがあります。
Warranty Disclaimer(保証の否認)を定める意図・狙い:
売主は、自らが負う可能性のある責任範囲を限定し、将来的なリスクを減らす狙いがあります。
4)契約における位置づけ
Warranty(保証):
買主にとっての権利を定める条項と言えます。
Warranty Disclaimer(保証の否認):
売主にとっての免責を定める条項と位置づけられます。
5)WarrantyとWarranty Disclaimerの併記:
Warranty(保証)とWarranty Disclaimer(保証の否認)は、相反する内容ですが、一つの契約書内に併記されることが多いです。
売主は、限定的な保証を約束する一方で、それ以外の広範囲な保証をDisclaimerによって否認することがよくあります。
そのため、買主はWarranty条項だけでなく、Disclaimer条項も注意深く確認する必要があります。
重要な注意点:
Warranty条項が契約書に置かれる場合でも、その保証内容に制限があったり、同じ契約書にWarranty Disclaimerが置かれていることで、保証の効果が大きく制限されるケースがあります。
したがって、英文契約書を読む際には、Warranty条項とWarranty Disclaimer条項の両方を必ず確認し、全体として有効な保証がどうなのかを確認することが非常に重要です。
5.WarrantyとWarranty Disclaimerが契約に与える影響とリスク管理
Warranty(保証)と Warranty Disclaimer(保証の否認)は、英文契約において、当事者の権利と義務、そして両当事者のリスク配分を大きく左右する重要な条項です。
それぞれの条項が契約にどのような影響を与え、当事者はどのようにリスク管理を行うべきかについて、買主と売主の立場から見ていきます。
買主の立場から:
買主にとって、契約に妥当なWarrantyが盛り込まれてることは、購入する製品やサービスの品質を確保し、予期せぬ損害から自らを守るための重要な手段となります。
強い内容のWarrantyがあれば、万が一、製品に欠陥があったり、サービスが契約内容と異なっていたりした場合に、売主に対して修理、交換、損害賠償などの救済を求めることができます。
しかし、契約にWarranty Disclaimerが含まれていると、買主は、法的に十分に保護されない場合あります。
AS IS(現状有姿)での引き渡しや、特定の黙示の保証の排除などが記載されている場合、製品に隠れた欠陥があったとしても、売主に責任を追及することが難しくなります。
買主がリスクを管理するために重要なこと:
Warranty条項の内容を詳細に確認する:
どのような品質や性能が保証されているのか、保証期間はいつまでなのか、保証の対象となる損害の範囲はどこまでなのかなどを念入りに確認します。
Warranty Disclaimer条項の有無と内容を確認する:
どのような保証が排除されているのか、免責範囲はどこまで及ぶのかを正確に把握します。特に「AS IS」という文言には注意が必要です。
必要な保証を要求する:
もし契約書に十分な内容のWarrantyが入っていない場合や、広範囲なWarranty Disclaimerが含まれている場合は、売主と交渉し、必要な保証を盛り込むように要求します。
他のリスク管理手段を検討する:
十分なWarrantyが得られない場合やWarrantyに制限がある場合は、保険への加入や、契約前のデューデリジェンス(製品、サービス、または取引全体についての詳細な調査)の実施などを検討します。
売主の立場から:
売主にとって、Warrantyを提供することは、製品やサービスに対する信頼性を示すことであり、契約締結を促す効果があります。
しかし、広範囲なWarrantyは、予期せぬクレームや損害賠償のリスクを高める可能性があります。
Warranty Disclaimerを適切に活用することで、売主は自らが負う可能性のある責任範囲を明確にし、リスクをコントロールできます。
特に、製品の複雑な場合や、買主の使用方法によって品質が左右される可能性がある場合などには、Disclaimerがより重要になります。
売主がリスクを管理するために重要なこと:
Warrantyの範囲を、提供する製品やサービスに見合ったものにする:
あまりにも広範囲なWarrantyはリスクを高め、不十分なWarrantyは顧客満足度を下げることにつながります。
Warranty Disclaimer条項を明確かつ妥当なものにする:
あいまいなDisclaimerは、かえって紛争の原因となることがあります。有効かつ明確なDisclaimerを作成するようにします。
WarrantyとWarranty Disclaimerの内容を整合させる:
契約全体として、WarrantyとDisclaimerの内容が矛盾しないように注意します。
リスクヘッジの手段を検討する:
必要に応じて、PL保険(製造物責任保険)などに加入することもリスク管理の有効な手段です。
結論として、 WarrantyとWarranty Disclaimerは、契約における当事者間のリスクの配分を決定する上で非常に重要な条項です。
買主と売主の双方が、WarrantyとWarranty Disclaimerの各条項の内容を十分に理解し、それぞれの立場から適切なリスク管理を行うことが、安全で円滑な取引を実現するための鍵となります。
6.まとめ:WarrantyとWarranty Disclaimerを正しく理解し、契約リスクを回避する
この記事では、英文契約において頻繁に登場し、契約の基本に関わる重要な用語であるWarranty(保証)とWarranty Disclaimer(保証の否認)について、その意味、種類、そして契約に与える影響とリスク管理の観点から解説しました。
Warrantyは、売主が買主に対して製品やサービスの品質や性能を約束するものであり、買主にとっては重要な権利となります。
一方、Warranty Disclaimerは、売主が自らの責任範囲を制限し、リスクを軽減するための条項であり、買主にとっては十分注意して確認すべき条項です。
一つの英文契約書の中に、買主の権利を定めるWarrantyと、売主の責任を制限するWarranty Disclaimerの両方の条項が盛り込まれることは珍しくありません。
したがって、買主はWarranty条項があるからといって安心するのではなく、Disclaimer条項の内容をしっかりと理解し、これら二つの条項を全体として確認することが必要です。
契約交渉においては、自社の立場(買主か売主か)から、Warrantyの範囲・内容を慎重に検討するとともに、不利なWarranty Disclaimerが含まれていないかを確認することが重要です。
WarrantyとWarranty Disclaimerの両方を確認して、当事者双方にとってバランスの取れた契約条件を目指します。
英文契約におけるリスク管理は、WarrantyとWarranty Disclaimerの理解から始まると言っても過言ではありません。
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