- 英文契約書におけるGoverning Law(準拠法条項)の基本的な役割と具体的な記載表現
- 自国法・相手国法・第三国法(ニューヨーク州法・英国法等)をめぐる交渉戦略と判断基準
- 準拠法が契約全体の有効性や損害賠償範囲に及ぼす影響およびJurisdiction(裁判管轄条項)との密接な関係
- conflict of laws(抵触法)の概念と、予期せぬ法律の適用を排除するための「without reference to…」等の必須フレーズ
本記事では、英文契約書の一般条項(General Provisions)として欠かせないGoverning Law(準拠法条項)の基礎知識から、交渉で妥協点を見出すアプローチ、さらに準拠法の抜け穴を塞ぐconflict of laws(抵触法)の除外テクニックまで、具体的な例文とともに分かりやすく解説します。
1.解説:英文契約書における準拠法と抵触法
1) Governing Law(準拠法条項)とは
Governing Law(準拠法条項)とは、「契約の解釈や有効性の基準となる法律をどの国(または州)の法律にするか」を取り決めた契約条項のことです。
米国のように州ごとに実体法が異なる連邦国家の事業主体を相手とする契約であれば、国の法律単位だけでなく「どの州の法律(例:State of California, State of New York)」を基準にするかを明確に指定する必要があります。
なお、契約書内のタイトルとしては、Governing Law のほかに以下のような名称で置かれることも一般的です。
- Applicable Law(適用法)
- Choice of Law(準拠法/法の選択)
2) Governing Law(準拠法条項)をめぐる契約交渉
契約交渉がスタートすると、各当事者はリスク回避と利便性の観点から、自国の法律や自社が拠点をおく州法を準拠法として主張するのが通常です。
しかし、双方が自国法を強く主張し合うと交渉が難航しやすくなります。力関係によっては相手国の法律を受け入れざるを得ないケースや、互いの妥協点として「第三国の法律」を選択するケースが多く見られます。
【第三国法を選択する場合のアプローチと注意点】
例えば、日本企業が日本法を押し通せない場合、自社ビジネスと密接に関係する海外子会社や支店が存在する国の法律を指定する手法があります。
第三国法を選択する際は、判例や裁判例が十分に蓄積され、法制度が整備・安定している法域を選ぶことが極めて重要です。発展途上国などの法律を指定してしまうと、法整備が遅れており、予期せぬ法的判断を下されるリスクが高まります。
実務上の英文契約書で「第三国の準拠法」として信頼され、よく採用される法域には以下のようなものがあります。
- 米国ニューヨーク州法(State of New York)
- 米国カリフォルニア州法(State of California)
- 英国法(English Law)
- シンガポール法(Singapore Law)
3) 準拠法の選択が契約に与える具体的な影響と紛争解決条項との関係
準拠法を選ぶことは、単に「文章の読み方を決める」にとどまらず、契約全体の有効性や万が一の損害賠償の範囲にまで決定的な影響を与えます。
① 契約の解釈と有効性
- 契約解釈の違い:例えば Force Majeure(不可抗力)や Consequential Damages(間接損害)といった概念の解釈・認められる要件は、準拠法によって異なります。ある国では認められる制限条項が、別の国では無効とされる場合もあります。
- 契約の成立・有効性:契約の形式(書面要件の有無)や締結能力などの基本ルールも準拠法に依存します。適切な準拠法を定めておくことで、契約全体の有効性を法的に担保できます。
② 権利と義務の範囲(契約の補完)
- 契約の空白を埋める機能:契約書に明記されていない事項や解釈にあいまいさが残る部分については、指定した準拠法の実体法(民法や商法など)が適用されて内容が補完されます。
- 損害賠償額と範囲の決定:契約違反が発生した際の損害賠償責任の範囲や算定基準も、準拠法によって大きく変わります。
③ 紛争解決条項(Dispute Resolution Clause)との密接な関係
準拠法条項は、トラブル時の手続きを定める「紛争解決条項」と一体として設計する必要があります。紛争解決の手続きには、大きく分けて以下の2つがあります。
- Jurisdiction(裁判管轄):「どこの国の、どこの裁判所で争うか」を指定(例:東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする)。
- Arbitration(仲裁):裁判所ではなく、国際仲裁機関(例:ICC、JCAAなど)で解決を図る手続。一審制で非公開のため、国際取引で広く活用されます。
仮に「準拠法は日本法」としながら「裁判管轄は米国の裁判所」とした場合、米国の裁判官や現地弁護士に日本法の解釈を立証・理解させる必要が生じ、膨大な時間と調査費用(外国法鑑定コスト)が発生してしまいます。一致させておくことで、その法域に精通した裁判官・弁護士によるスムーズな裁判・仲裁が可能となります。
※詳細な解説については、当サイト内の「Jurisdiction(裁判管轄条項)」の解説ページもあわせてご参照ください。
4) conflict of laws(抵触法)とは
英文契約書の準拠法条項では、以下のような決まり文句が添えられていることがよくあります。
… without reference to principles of conflict of laws
conflict of laws は、日本語で「法の抵触」または「抵触法」と訳されます。
国際的な契約のように複数の国や州が関与する取引において、各国の「どの法律を適用すべきか」という指定ルールを定めた国内法自体のことを「抵触法」と呼びます。
【なぜ抵触法を除外(without reference to…)する必要があるのか?】
当事者が契約書で「○○州法を準拠法とする」と合意していても、その○○州の「抵触法(conflict of laws)」のルールが作動した結果、「この取引は相手国で履行されているため、相手国の法律を適用する」といった形で、当事者が意図しない別の国の法律へと連鎖的に転換されてしまうリスク(反致などの問題)が存在します。
このような不測の事態を防ぎ、「自分たちが選んだ特定の国・州の実体法だけをダイレクトに適用させる」ために、Governing Law 条項の中に以下のような除外フレーズを明記します。
- without regard to conflict of laws(法の抵触に関係なく)
- without reference to principles of conflict of laws(法の抵触の原則に関係なく)
- without giving effect to principles of conflicts of law(法の抵触の原則は適用されない)
準拠法条項(Governing Law)は、契約の解釈基準となる法域を特定する「一般条項(General Provisions)」という条項タイプ(clause type)に分類されます。その具体的機能(specific function)は、「万が一の紛争時に、どの国の法律に基づいて契約文言が解釈されるべきかという基準を1つに確定させ、予期せぬ外国法や抵触法の適用による解釈の混乱を未然に防ぐこと」にあります。
■ チェック時の権利(rights of use)の確保
自社が不慣れな海外法で不利益を被るリスクを回避したい場合、自国の慣れ親しんだ法律で戦えるよう「日本の実体法を準拠法として指定し、不法行為などの契約外の請求まで日本法に一括して服せしめる権利」を確保します(例文①、例文④)。
やむを得ず相手国法や第三国法を受け入れる場合でも、「各法域の抵触法の原則を明示的に除外させ、当事者が選んだ州法や国法だけをピンポイントで適用させる権利」を組み込むことが、不確実な国際取引において予測可能性を最大化するための必須の防衛線となります。
2.例文と基本表現
以下では、英文契約書で実際に使用される Governing Law(準拠法条項)の典型的な例文と、実務で頻出する英単語・表現の解説を掲載します。
例文①:シンプルな日本法準拠(基本的な形)
・be governed by:〜に準拠する、〜に従う
・be construed in accordance with:〜に従って解釈される
例文②:カリフォルニア州法準拠(抵触法原則の除外)
・without reference to principles of conflict of laws:法の抵触の原則に関係なく(抵触法を除外するフレーズ)
例文③:ニューヨーク州法準拠(抵触法原則の適用排除)
・without giving effect to principles of conflicts of law:法の抵触の原則に効力を与えることなく(=法の抵触の原則は適用されない)
例文④:詳細な日本実体法準拠(不法行為・契約外請求の包含と完全履行の想定)
・all claims arising out of or in connection with…:〜に起因または関連する一切の請求
・transactions contemplated by this Agreement:本契約が意図する取引
・tort / non-contract claims:不法行為/契約に基づかない請求
・substantive laws:実体法(手続法に対置され、権利・義務の要件を定める法律)
・without regard to any conflict of law principles:法の抵触の原則に関わらず
- applicable law(適用法):
準拠法条項や契約本文で「適用される法律全般」を指す際に頻出する用語です。 - to the maximum extent permitted by applicable laws:
「適用される法律が許容する最大限の範囲において」という限定を付け、免責や賠償制限の有効性を保つための必須フレーズです。
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