Injunctive Relief(差止め条項)

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英文契約書において差止め条項として置かれるInjunctive Reliefについて解説します。併せて、例文をとりあげ対訳をつけました。例文中の基本表現に注記を入れました。

1.解説:

1)Injunctive Reliefとは

Injunctive Reliefとは、英文契約書において

差止命令による救済について定めた差止め条項

のことを意味します。

(ご参考):

Injunctive Reliefの本来の意味は、equity (エクイティ:衡平法)上の救済措置である差止命令による救済です。詳しくは、Remedies(救済条項)|英文契約書の一般条項をご覧ください。

Injunctive Relief(差止め条項)は、多くは、秘密保持契約主要条項として規定されます。

また、通常の英文契約書の秘密保持条項にもよく規定されます。

契約違反により秘密情報が第三者に漏洩すると、秘密情報により保護されている財産権を失い、以下に述べる重大な irreparable harm(取り返しのつかない損害)を発生しかねないリスクがあることから、英文契約書では、特に秘密情報について、差止めの規定がなされます。

(ご参考):

主要条項については、

英文契約書の構成(structure of contract )

General Provisions(一般条項)とPrincipal provisions (主要条項)

をご覧ください。

2)Injunctive Relief(差止め条項)で規定される内容

Injunctive Relief(差止め条項)では:

『秘密情報の受領当事者に、秘密保持義務違反のおそれがあり、金銭的賠償(money damagesのみでは救済できない取り返しのつかない損害(irreparable harmの可能性がある場合は、秘密情報の開示当事者は、差止め命令(injunction特定履行(specific performanceを含む、全ての救済措置をとることができる』

というような内容で規定されます。(下記の例文をご覧ください)

(ご参考):

specific performanceは、equity (エクイティ:衡平法)上の救済措置である特定履行という意味です。詳しくは、Remedies(救済条項)をご覧ください。

3)契約レビューの重要ポイント:Injunctive Reliefの
効果的な活用と限界

Injunctive Relief(差止め条項)は、特に秘密保持契約において、金銭賠償だけでは救済しきれない「取り返しのつかない損害(irreparable harm)」を防ぐための強力な法的手段です。

この条項を契約に含めることは、秘密情報保護の意思を明確にし、潜在的な違反者への抑止力となりますが、その適用には法的な限界や実務上の考慮事項があります。

契約レビュー時には、以下の点を周到に検討し、条項の効果を最大限に引き出すとともに、適切なリスク管理を行いましょう。

ア.「Irreparable Harm(取り返しのつかない損害)」の重要性

なぜ重要か?:

米英法系の裁判所が差止命令を出すためには、原告がirreparable harmを被る可能性が高いことを示す必要があります。

金銭賠償で十分な救済が可能な場合は、差止命令は認められにくい傾向があります。

確認すべきポイント:

明示的な合意:

例文にあるように、「a Disclosing Party will be irreparably and immediately harmed and unable to be made whole by monetary damages.(開示当事者が即座に取り返しのつかない損害を被り、金銭賠償では補償できないことを確認し合意する)」という文言を契約書に含めることは、将来裁判所が差止めを命じる際の強力な根拠となります。

これは、当事者間の合意として、損害が金銭で償えない性質のものであることを明確にすることで、裁判所の判断をサポートする役割を果たします。

実際の損害の立証:

契約書に上記のような記載があっても、実際の訴訟では、irreparable harmが発生する具体的なおそれや、その性質(例:市場シェアの喪失、競争力の低下、企業の信用失墜など)を立証する必要があることを理解しておくことが重要です。

イ.差止め命令(Injunction)と特定履行(Specific Performance)の使い分け

なぜ重要か?:

どちらも衡平法上の救済ですが、その目的と適用範囲が異なります。

適切に理解することで、より効果的な救済を求めることができます。

確認すべきポイント:

Injunction(差止め):

主に、ある行為を禁止する命令(例:秘密情報の使用・開示の禁止)や、ある行為を強制する命令(例:秘密情報の返還・廃棄の強制)として使われます。

例文の「an injunction or injunctions against the Receiving Party to remedy breaches or threatened breaches of this Agreement(本契約の違反若しくは違反のおそれを是正するため、受領当事者に対し差止め命令を行う権利)」は、この一般的な差止命令を指します。

Specific Performance(特定履行):

特定の契約上の義務を文字通り履行するよう強制する命令です。

特に、代替が困難なもの(例:特定のアート作品の売買、独自の技術開発)や、金銭賠償では代替できない義務(例:秘密情報の返還義務)に適用されます。

例文の「to compel specific performance of the Receiving Party’s obligations under this Agreement(本契約に基づく受領当事者の義務に対し特定履行を強制する権利)」は、受領当事者に秘密保持義務の履行を強制する意図が強いです。

両方の明記:

例文のように、injunction or injunctions と specific performance の両方を記載することで、状況に応じた柔軟な救済を求めることが可能になります。

ウ.他の救済手段との関係性

なぜ重要か?:

差止め条項は、金銭賠償を放棄するものではなく、例文のように、追加的な(in addition to any other remedy)救済手段であることを明確にする必要があります。

確認すべきポイント:

「in addition to any other remedy」:

この文言は、差止めが排他的な救済手段ではないことを明確にします。

つまり、差止命令を求めつつ、同時に(または後から)金銭賠償も請求できることを意味します。

れにより、開示当事者は、違反行為の即時停止と、既に発生した損害の両方について救済を求めることが可能となります。

金銭賠償とのバランス:

差止めは、金銭賠償ではカバーできない損害に対する救済ですが、実際に金銭的損害が発生した場合は、その立証と請求も忘れずに行えるよう、他の救済条項(Remedies)との整合性を確認しましょう。

エ.裁判管轄と執行の可能性

なぜ重要か?:

差止命令は、通常、契約で指定された裁判管轄の裁判所によってのみ発行されます。

国際契約の場合、差止命令が実際に相手国で執行可能であるかどうかも重要な考慮事項です。

確認すべきポイント:

準拠法と管轄裁判所:

契約で指定された準拠法と紛争解決地が、差止命令の請求に適しているかを確認しましょう。

特定の国(例えば米国)の裁判所は差止命令を積極的に出す傾向がある一方、そうでない法域もあります。

執行可能性:

差止命令が出されたとしても、相手方の所在する国でその命令が実際に執行可能であるか(外国判決の承認・執行の枠組みがあるか)を事前に確認することも、国際取引においては重要です。

Injunctive Relief条項は、単なる定型句ではなく、秘密情報やその他の貴重な資産を保護するための「最後の砦」となり得る条項です。

その法的意味合いと実務上の影響を深く理解し、契約書に適切に組み込むことで、企業は予期せぬ損害から自社を効果的に守ることができます。

2.Injunctive Relief(差止め条項)– 例文と基本表現:

(注):基本表現をハイライトし語注をつけています。

The Parties acknowledge and agree that in the event of any breach or threatened breach of the confidentiality obligations of this Section 10 by a Receiving Party or its employees or agents, a Disclosing Party will be irreparably and immediately harmed and unable to be made whole by monetary damages. The Parties agree that, in addition to any other remedy to which a Disclosing Party may be entitled in law or equity, such Disclosing Party will be entitled to an injunction or injunctions against the Receiving Party to remedy breaches or threatened breaches of this Agreement and/or to compel specific performance of the Receiving Party’s obligations under this Agreement.

(訳): 

両当事者は、受領当事者、その従業員若しくは代理人によって、第10条の守秘義務の違反又は違反のおそれが発生した場合は開示当事者が即座に取り返しのつかない損害を被り、金銭賠償では補償できないことを確認し合意する 両当事者は、開示当事者本契約の違反若しくは違反のおそれを是正するため開示当事者コモンロー又はエクイティの権利による他の救済に加えて受領当事者に対し差止め命令を行う権利又は本契約に基づく受領当事者の義務に対し特定履行を強制する権利を有することに同意する。

(注):

acknowledge and agreeは、確認し合意するという意味です。 詳しくは、acknowledgeの意味と例文をご覧ください。

*in the event ofは、の場合はという意味です。

any breach or threatened breachは、違反又は違反のおそれという意味です。詳しくは、threatened breachの意味と例文をご覧ください。

Receiving Partyは、受領当事者という意味です。

*agentsは、代理人という意味です。

Disclosing Partyは、開示当事者という意味です。

irreparablyは、取り返しのつかないという意味です。 irreparable harmの意味と例文をご参考にしてください。

unable to be made wholeは、直訳すると全体を作れないですが、ここでは補償できない(救済できない)という意味です。

monetary damagesは、金銭的賠償という意味です。

in law or equityは、コモンロー又はエクイティ(衡平法)という意味です。詳しくは、remedy at law と remedy in equity|英文契約書の基本表現をご覧ください。

*be entitled toは、~する権利を有するという意味です。

an injunction or injunctionsは、差止め命令という意味です。 詳しくは、injunctionの意味と例文|英文契約書の基本表現をご覧ください。

specific performanceは、特定履行という意味です。

 

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