対価・支払条件 (Consideration & Payment Terms)とは?基本と注意点

英文契約における対価 (Consideration) と支払条件 (Payment Terms) の基本について解説します。契約の有効性に関わる対価の法的な意味から、トラブル回避のための実務上の注意点まで、代表的な例文も交えて分かりやすく説明します。

目次:
はじめに
1.対価 (Consideration) とは? その法的な意味と重要性
 1)Considerationの定義と役割
   Consideration(対価)の例文
 2)日本法との違い
 3)有効なConsiderationのポイント
 4)Considerationのリーガルチェック:注意点
2.支払条件 (Payment Terms) とは? その構成と実務上の注意点
 1)支払条件(Payment Terms)を構成する主な要素
 2)支払条件(Payment Terms)の代表的な例文
   対価(Consideration)と支払条件(Payment Terms)の例文
 3)支払い条件のリーガルチェック:ポイント
 4)支払条件と実務上の注意点
まとめ

 

はじめに

英文契約書を理解する上で、その根本をなす重要な要素の一つが対価(Consideration)と支払条件(Payment Terms)です。

ビジネス取引において、何らかの価値が提供され、それに対する金銭的な対価が支払われるという基本的な構造は、契約の成立と履行において根本的な要素です。

もし、契約書におけるこれらの条項があいまいであったり、不適切に規定されていたりすると、契約が無効となるリスクが生じたり、将来的な支払いを巡る深刻な紛争に発展したりする可能性があります。

特に、異なる法制度や商習慣を持つ海外企業との取引においては、これらの基本概念を正確に理解し、契約書に明確に落とし込むことが極めて重要です。

この記事では、対価(Consideration)の法的な意味合いと、契約の有効性におけるその役割を分かりやすく解説します。

さらに、具体的な支払条件(Payment Terms)を構成する主な要素と、実務の上で注意すべきポイントを詳しく解説します。

この記事の狙いは、以下の事を理解していただくことにあります。

・英米法における対価(Consideration)の基本的な概念とその重要性

・契約を有効とするためのConsiderationの主要な要件

・英文契約書における支払条件(Payment Terms)の一般的な要素

・支払条件に関するリーガルチェックの具体的な視点

・国際取引を含む英文契約における支払条件の実務的な注意点

1.対価 (Consideration) とは? その法的な意味と重要性

英文契約を理解する上で、最初に押さえておくべき重要な概念の一つがConsideration(対価)です。

このConsiderationは、主に英米法(コモンロー)の法体系において、契約が法的に拘束力を持つための不可欠なものとされています。

1)Considerationの定義と役割

Considerationとは、当事者間における交換条件や約束の見返りのことを言います。

一方当事者が何かを約束したり、何かを提供したりする代わりに、他方当事者もまた何かを約束したり、何かを提供したりすることを意味します。

この双方向のやり取りが、英米法において契約を単なる約束ではなく、法的に強制力のある合意とするための基本となります。

Considerationの代表的な例文をご紹介します。

Consideration(対価)の例文:

Seller shall sell the Goods to Buyer, and Buyer shall pay Seller the price of $10,000 in consideration thereof.

(訳):

売主は買主に商品を販売し買主はその対価として売主に10,000ドルを支払うものとする。

この例文では、売主の商品を販売する義務と、買主がその対価として金銭を支払う義務が、相互のConsiderationとなっています(青マーカー部)。

Considerationの役割は、単に契約を成立させるだけでなく、以下の点においても重要です。

契約の意図を明確にする:
当事者が真剣に契約を締結しようとしている意思を示すものとされます。

不当な約束を防ぐ:
一方的な贈与のような、見返りのない約束が法的な拘束力を持つことを防ぐ役割を果たします。

契約を公平に保つ:
当事者双方に何らかの負担や利益が生じることで、契約の公平性を保つ役割があります。

2)日本法との違い

重要なのは、日本法(大陸法)の考え方との違いです。

日本の民法では、原則として、当事者の合意があれば、必ずしも見返りや対価がなくても契約は成立します。贈与契約などがその例です。

しかし、英米法においては、原則としてConsiderationのない約束は、たとえ当事者間で合意があっても、法的な拘束力を持たないとみなされます。

これは、裸の約束 (bare promise:対価なしに一方的に行われる約束)と呼ばれたりします。

例えば、A社がB社に対し、あなたに100万円をあげます、と約束したとします。

日本法の場合:
B社が承諾すれば、原則として贈与契約が成立し、A社はその約束を履行する義務が生じます。

英米法の場合:
B社がA社に何も提供しない場合、この約束は原則としてConsiderationがないことになり、法的な拘束力を持たないとされます。

3)有効なConsiderationのポイント

すべての「やり取り」が有効なConsiderationとなるわけではありません。

英米法において、有効なConsiderationと認められるためには、いくつかの重要な要件があります。

当事者双方から価値の提供があること(Mutuality of Consideration):
約束の対価として、当事者双方から何らかの価値が提供される必要があります。

一方的な利益や負担だけでは、有効なConsiderationとはなりません。

例えば、A社がB社に製品を納入する義務を負うことと、B社がA社に代金を支払う義務を負うことは、相互にConsiderationの関係となります。

価値あるものが提供されること(Legal Sufficiency):
提供されるものは、法律的に何らかの価値を持つと認められる必要があります。この価値は、経済的な価値に限定されず、権利の放棄、不作為の約束なども含まれます。

また、その価値が客観的に妥当である必要はありません(Peppercorn Rent:名目的な対価の概念、と呼ばれます)。

例えば、土地を市場価格よりも極端に安い1ドルで売買する契約でも、1ドルという金銭的価値が存在するため、原則としてConsiderationとして認められます。

既存の義務と関係がないこと(Pre-existing Duty Rule):
すでに法律上または契約上の義務を負っている行為は、新たな契約における有効なConsiderationとはなりません。

例えば、すでにA社との間で製品を納入する契約を結んでいるB社が、改めて同じ製品の納入を対価として別の契約を締結しても、それは新たなConsiderationとは認められないとされています。

過去の対価ではないこと(Past Consideration):
契約が成立する前にすでに提供された行為やものは、その後の契約における有効なConsiderationとはなりません。

Considerationは、あくまで契約締結と同時に、またはその見返りとして提供されるべきものと考えられます。

例えば、A社が過去にB社に行ったサービスに対し、後日B社が「そのお礼として100万円を支払う」と約束しても、その過去のサービスは新たな契約における有効なConsiderationとは認められません。

4)Considerationのリーガルチェック:注意点

英文契約書をレビューする際は、以下の点に注意してConsiderationに関する条項や契約全体の構造を確認する必要があります。

契約書に対価が明確に記載されているか:
何と何が交換されるのか、当事者双方の義務や提供物が明確に記載されているかを確認します。あいまいな表現は、後に契約の有効性を争われる原因となることがあります。

契約変更や追加合意の場合は、新たなConsiderationが明確に存在するか:
契約内容を変更したり、新たな合意を追加したりする場合には、それに見合う新たなConsiderationが当事者双方に存在するかを確認します。

既存の義務の履行や過去の行為だけでは、変更や追加合意の有効性が認められない場合があります。

過去のサービスや情報提供が、契約のConsiderationとして扱われていないか:
契約書に、過去の行為や過去に提供された物を対価とするような記載がないかを確認します。もしそのような記載がある場合は、その有効性について慎重に検討することが必要となります。

以上のように、Considerationは、英文契約の根本的な概念なので、Considerationを理解しているかどうかが契約の有効性に大きく影響することになります。

2.支払条件 (Payment Terms) とは? その構成と実務上の注意点

上記で解説した対価(Consideration)は、契約の根本をなす交換条件のことです。

そして、以下に解説する支払条件(Payment Terms)は、その対価が具体的にいつ、どのように支払われるかを定めるものです。

このように、対価(Consideration)と支払条件(Payment Terms)は、契約において密接不可分な関係にあります。

ビジネス契約において、提供される商品やサービスに対する金銭的な対価が、いつ、どのように支払われるのかを具体的に定めるのが支払条件(Payment Terms)です。

支払条件は、当事者間のキャッシュフローに直接影響を与えるため、明確かつ詳しく規定することが、双方にとって円滑な取引と将来の紛争予防のために非常に重要となります。

1)支払条件を構成する主な要素

支払条件は、個々の契約内容や取引慣行によって広範にわたりますが、一般的に以下の主要な要素で構成されます。

金額と通貨(Amount and Currency):
支払われるべき総額、単価、数量、そして使用される通貨(例:米ドル – USD、日本円 – JPY、ユーロ – EUR)を明確に記載します。

通貨が指定されていない場合やあいまい場合は、後々の解釈の争いを生じる可能性があります。

支払期日(Payment Due Date):
いつまでに支払いが行われるべきかを具体的に定めます。

例えば、
・請求書発行日から30日以内 (within 30 days of the invoice date)、
・製品の納品後10日以内 (within 10 days after delivery of the Products)、
・〇年〇月〇日まで (by Date)、
・あるいは、特定のイベントの完了後 (upon completion of Event)

といった形式で規定されます。

支払方法(Method of Payment):
どのような手段で支払いが行われるかを定めます。

一般的な方法としては、

・銀行振込 (bank transfer)
・クレジットカード (credit card)
・小切手 (check)
・オンライン決済プラットフォーム (online payment platform)

などが挙げられます。

銀行振込の場合、振込先の銀行口座情報(銀行名、支店名、口座番号、口座名義)を正確に記載することが不可欠です。

請求書(Invoice):
請求書の発行に関する規定です。

・発行のタイミング(例:製品出荷後、サービス提供後、毎月末)
・必要な情報(品名、数量、単価、合計金額、税金、請求書番号、発行日、支払期日、支払方法など)
・送付方法(郵送、電子メールなど)
・送付先

などを定めます。

遅延損害金(Late Payment Interest/Charges):
支払いが期日までに履行されなかった場合に適用される利息や遅延損害金に関する規定です。

・利率(年率または月率)
・計算方法
・適用開始日

などを明確に定めます。

遅延損害金の規定は、支払いの遅延を抑制する効果があります。

税金(Taxes):

特に国際取引においては、

・付加価値税(VAT)
・消費税(GST)
・源泉徴収税

など、適用される税金の種類と負担者(買主または売主)を明確に規定する必要があります。

為替(Currency Exchange):
異なる通貨での取引の場合、

・為替レートの適用基準(例:支払日の市場レート、特定の時点のレート)
・為替変動リスクの負担者

などを定めることがあります。

相殺(Set-off):
買主が売主に対して持つ債権と、売主が買主に対して持つ債権を相殺する権利の有無や条件を定めることがあります。

2)支払条件の代表的な例文

支払条件は契約の内容によってさまざまですが、ここでは一般的な条項例をいくつかご紹介します。

例文1:一括払い

The Buyer shall pay the purchase price of US$10,000 to the Seller within thirty (30) days from the date of delivery of the Products.

(訳):

買主は、製品の引渡し日から30日以内に、売主に対し購入代金10,000米ドルを支払うものとする。

例文2:分割払いとマイルストーン

The Buyer shall pay the purchase price in two installments: (a) 50% (US$5,000) upon execution of this Agreement; and (b) the remaining 50% (US$5,000) upon completion of the acceptance testing of the Software.

(訳):

買主は、購入代金を2回の分割払いで支払うものとする。(a) 本契約締結時に50%(5,000米ドル)、(b) ソフトウェアの検収完了時に残りの50%(5,000米ドル)。

例文3:遅延損害金

Any amount not paid when due shall bear interest at the rate of one percent (1%) per month, or the maximum rate permitted by applicable law, whichever is lower, from the due date until paid in full.

(訳):

期限までに支払われなかった金額には、支払期日から完済されるまで、月率1%または適用法で認められる最大利率のいずれか低い方の利率で利息が発生するものとする。

対価(Consideration)と支払条件(Payment Terms)の例文:

前述のように、対価(Consideration)と支払条件(Payment Terms)は、密接に結びついているので、一つの条項や条文の中で、一緒に記載されることが多いです。(注:契約内容によっては、契約の中で、双方の条文が離れた場所で記載されることもあります。)

Consideration and Payment Terms:

The Seller shall sell the Goods to Buyer, and Buyer shall pay Seller the price of $10,000 in consideration thereof.  The Buyer shall pay the purchase price of US$10,000 to the Seller within thirty (30) days from the date of delivery of the Goods.

(訳):

対価と支払条件:

売主は買主に商品を販売し、買主はその対価として売主に10,000ドルを支払うものとする。買主は、商品の引渡し日から30日以内に、売主に対し購入代金10,000米ドルを支払うものとする

上記の例文では、Consideration and Payment Terms(対価と支払条件)の見出し条項で、The Sellerから始まる前段に対価(Consideration)が、The Buyerから始まる後段に支払条件(Payment Terms)が規定されています。

3)支払条件のリーガルチェック:ポイント

英文契約書の支払条件をレビューする際には、以下の点に特に注意して確認します。

明確で具体的であること(Clarity and Specificity):
金額、期日、方法などが曖昧でなく、誰が読んでも一つの意味に解釈できるような明確かつ具体的な表現で記載されているかを確認します。

網羅的であること(Comprehensiveness):
上記の主要な構成要素が、取引の内容に応じて網羅的に規定されているかを確認します。

例えば、国際取引であれば税金や為替に関する規定は不可欠です。

自社のオペレーションと整合していること(Alignment with Business Operations):
規定された支払条件が、自社の経理処理、請求書発行サイクル、入金管理体制などと矛盾しないかを確認します。

リスクが許容できる範囲であること(Risk Assessment):
遅延損害金の利率、支払遅延時の対応(支払停止、契約解除など)、為替リスクの負担などが、自社にとって許容できる範囲であるか評価します。

準拠法と整合していること(Compliance with Applicable Law):
支払条件が、適用される法律(例えば、利息制限法、消費者保護法など)に違反していないかを確認します。

特に国際取引では、相手国の法律も考慮に入れる必要があります。

4)支払条件と実務上の注意点

支払条件は、法的な側面だけでなく、その後のビジネスの円滑な運営にも大きく影響します。実務上、以下の点に留意することが重要です。

交渉段階での明確な合意:
契約締結前に、支払条件について相手方と十分に協議し、明確な合意を得ておくことが、後のトラブルを防ぐ上で最も重要です。

請求書の正確な発行と迅速な送付:
契約で定められたタイミングと方法で、正確な請求書を発行し、速やかに相手方に送付することが、スムーズな支払いにつながります。

支払いの進捗管理とフォローアップ:
支払期日を管理し、期日を過ぎても入金がない場合は、速やかに相手方に連絡を取り、状況を確認することが重要です。

国際取引におけるコミュニケーション:
言語や商習慣の違いから、支払条件に関する誤解が生じることがあります。必要に応じて、図や表を用いるなど、分かりやすいコミュニケーションを心がけるようにします。

契約変更時の再確認:
契約内容が変更された場合は、支払条件もそれに合わせて適切に見直す必要があります。

支払条件は、単なる事務的な手続きではなく、契約の重要な要素の一つです。

その内容をしっかりと理解し、適切に管理することで、ビジネス上のリスクを低減し、安定したキャッシュフローの確保につなげることができます。

まとめ

この記事では、英文契約において極めて重要な要素である対価(Consideration)と支払条件(Payment Terms)について、その基本的な概念から、契約書における具体的な規定、そして実務上の注意点までを解説しました。

英米法に特有の概念であるConsiderationは、契約が法的な拘束力を持つための基本であり、単なる約束ではない、当事者間の交換条件を意味します。

このConsiderationの理解を深めることは、英文契約の有効性を判断する上で基本となるものです。

一方、支払条件(Payment Terms)は、合意された対価がいつ、どのように支払われるかを定めるものであり、企業のキャッシュフローに直接的な影響を与えます。

明確で具体的な支払条件を定めることは、将来的な支払いを巡る紛争を未然に防ぎ、円滑なビジネス関係を維持することにつながります。

英文契約をレビューする際には、

契約全体を通して、有効なConsiderationが存在するかどうか
支払条件が明確かつ具体的に規定されているか
支払条件が自社のビジネスオペレーションやリスク許容度と合致しているか

といった点を意識することが重要です。

国際取引においては、異なる法制度や商習慣、通貨、税制などが複雑に絡み合います。

そのため、対価と支払条件については、より慎重な検討と、必要に応じて専門家の助言を得ることをお勧めします。

 

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