英文契約リーガルチェックの全体像と、特に重要な秘密保持契約(NDA)のチェックポイントを解説します。契約全体のリスクを把握し、NDAで自社を守るための具体的な注意点と例文をご紹介します。
目次:
1.はじめに:英文契約のリーガルチェックの重要性
2.英文契約リーガルチェックの全体像とチェックリスト
リーガルチェックの全体的な流れ
リーガルチェック:全体チェックリスト
3.NDAのリーガルチェックの注意点とチェックリスト
NDAリーガルチェックの注意点
NDAリーガルチェック:チェックリストと例文
4.まとめ:NDAリーガルチェックで安全な取引を
国際取引の進展に伴い、海外の企業や個人と契約を締結する機会は増えています。その際に作成されるのが英文契約書です。
英文契約書は、日本の契約書とは異なる独特のルールや表現があり、例えば、日本の契約書ではあまり見慣れない条項があったり、同じような内容でも表現が厳格であったりします。
その内容を正確に理解し、潜在的なリスクを事前に見抜くことが非常に重要になります。
この潜在的なリスクを事前に見抜くためのプロセスが、リーガルチェックです。
リーガルチェックは、契約書の内容が法的に問題ないか、自社にとって不利な条項が含まれていないか、必要な取り決めが漏れていないかなどを、専門的な視点から確認する作業です。
英文契約書のリーガルチェックを怠ってしまうと、後になって予期せぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
例えば、不利な条項に気づかずに契約してしまい、損害賠償請求を受けたり、望まない形で契約を終了せざるを得なくなったりといった事態が考えられます。
この記事では、英文契約書のリーガルチェックを初めて行う方や、リーガルチェックの重要性を改めて確認したい方を対象に、リーガルチェックの全体像を分かりやすく解説します。
さらに、特に重要な契約類型である秘密保持契約(NDA)に焦点を当て、リーガルチェックの具体的な注意点と、いざという時に役立つ例文をご紹介します。
この記事を読んでいただくことで、英文契約のリスクを適切に管理し、安心して国際取引を進めるためステップのひとつになればと思います。
ここでは、英文契約書をリーガルチェックする際の全体的な流れと、確認すべき主要なポイントをまとめたチェックリストをご紹介します。
リーガルチェックは、一般的に以下のような流れで進められます。
1)契約の目的と背景の理解:
まず、なぜこの契約を締結するのか、どのような取引が行われるのか、という契約の目的や背景をしっかりと理解します。これにより、契約書の内容が実際の取引と合致しているかを確認する上で重要な判断基準となります。
2)各条項の確認:
契約書に記載されている各条項を一つ一つ、ていねいに確認します。特に、自社の権利義務、リスク負担、責任範囲などに関わる条項は慎重に読み込む必要があります。
3)潜在的なリスクの把握:
各条項の内容や、条項間の関連性などを分析し、将来的にトラブルに発展する可能性のある潜在的なリスクを把握します。
4)修正点の検討と提案:
特定されたリスクを軽減するため、契約条項の修正案を検討します。自社にとってより有利な条件を盛り込むための提案の検討も行います。
5)相手方との交渉:
修正提案について相手方と交渉を行います。お互いの主張を理解し、合意点を見出すことが重要です。
6)最終確認と締結:
合意に至った契約書の内容を最終確認し、問題がなければ契約を締結します。
以下のチェックリストは、英文契約書全体をリーガルチェックする際に確認すべき主要なポイントをまとめたものです。
個別の契約内容によって、重要となる項目は異なりますので、あくまで一般的なガイドラインとしてご活用ください。
1)当事者の特定 (Identification of Parties):
・契約当事者の正式名称、所在地は正確か?
・締結者が契約締結権限を有する者であるか確認できるか?
2)契約の目的と内容(Purpose and Scope of the Agreement):
・契約の目的(何のために契約を締結するのか)が明確に記述されているか?
・取引内容(商品・サービスの具体的内容、数量、仕様など)は明確か?
3)対価・支払条件(Consideration and Payment Terms):
価格、支払方法、支払期日、通貨、遅延損害金に関する規定は明確か?
4)契約期間・解除 (Term and Termination):
・契約期間(開始日、終了日)は明確か?
・中途解約の条件、手続き、解約時の効果(損害賠償など)は明確か?
5)義務・責任(Obligations and Responsibilities):
・各当事者の義務(何をすべきか)と責任範囲は明確か?
・履行遅滞、履行不能の場合の取り決めは明確か?
6)表明保証(Representations and Warranties):
・各当事者が表明・保証する内容(事実の正確さ、権利の有効性など)は適切か?
・表明保証違反の場合の責任は明確か?
7)損害賠償(Indemnification / Damages):
・損害賠償の範囲(直接損害、間接損害、逸失利益など)は明確か?
・損害賠償の上限額は設定されているか?
8)知的財産 (Intellectual Property):
・知的財産権(著作権、特許権、商標権など)の帰属、利用許諾(ライセンス)、侵害時の措置に関する規定は明確か?
9)秘密保持(Confidentiality):
・秘密情報の定義、開示範囲、使用目的、秘密保持義務の期間、違反時の措置に関する規定は明確か?
10)準拠法・紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution):
・契約の準拠法(どの国の法律に基づいて解釈するか)は明確に定められているか?
・紛争解決方法(裁判管轄、仲裁など)は明確か?
11)不可抗力 (Force Majeure):
・自然災害、戦争、テロなど、不可抗力による履行遅滞や不能の場合の取り決めは明確か?
12)その他の一般条項(Miscellaneous Clauses):
・完全合意条項(Entire Agreement Clause)、可分条項(Severability Clause)などの一般条項は適切に記述されているか?
・その他の一般条項に注意すべき点はないか?(通知条項、譲渡条項など)
13)契約書の形式・署名(Form and Execution of the Agreement):
・契約書の体裁(言語、日付、署名欄など)は整っているか?
・有効な署名(サイン、電子署名、立会人など)がなされるか確認できるか?
14)関連法規の確認(Compliance with Applicable Laws and Regulations):
・契約内容が、関連する法律や規制(輸出管理法、個人情報保護法など)に適合しているか?
15)自社にとって不利な条項はないか(Unfavorable Provisions):
・上記の項目以外にも、自社にとって過度に不利な条項や、予期せぬ義務を負う可能性のある条項がないか、全体を通して確認する。
16)必要な条項が不足していないか(Missing Provisions):
・上記の項目以外にも、今回の取引に必要な取り決め(検査、検収、危険負担など)が漏れていないか確認する。
このチェックリストはあくまで一般的なものであり、個々の契約内容や取引の性質によって、確認すべき項目や重要となるポイントは異なります。
3.秘密保持契約(NDA)のリーガルチェックの注意点とチェックリスト
秘密保持契約(NDA: Non-Disclosure Agreement)は、ビジネスにおいて重要な秘密情報やノウハウを保護するために締結される契約です。
M&Aの交渉、業務提携の検討、新製品の共同開発など、様々な場面で交わされます。
NDAのリーガルチェックは、自社の重要な秘密情報を適切に保護するために不可欠となります。
ここでは、NDAのリーガルチェックで特に注意すべき点と、具体的なチェックリストをご紹介します。
NDAのリーガルチェックでは、以下の点に特に注意が必要です。
秘密情報の定義が明確であるか:
どのような情報が秘密情報として扱われるのか、その範囲が明確でなければ、秘密情報を保護することはできません。
開示目的が明確に限定されているか:
秘密情報を開示する目的を明確に限定することで、相手方による目的外利用を防ぐことができます。
秘密保持義務の内容が明確であるか:
秘密情報を受領した側が負うべき義務(秘密情報の保持、目的外利用の禁止、複製・改変の制限など)が明確に定められていなくてはいけません。
秘密情報の例外規定が適切であるか:
秘密保持義務が適用されない情報(例:公知の情報、独自に開発した情報、第三者から適法に入手した情報など)の範囲が適切であるか確認が必要です。
秘密保持義務の期間が適切であるか:
秘密保持義務がいつまで続くのか、その期間が適切であるか確認が必要です。
秘密情報の返還・破棄に関する規定が明確であるか:
契約終了時や秘密情報が不要になった場合の、秘密情報の返還または破棄に関する規定が明確でなくてはいけません。
違反時の救済に関する規定が適切であるか:
NDAに違反した場合の救済措置に関する規定が、自社にとって適切であるか確認が必要です。
準拠法・紛争解決方法が適切であるか:
万が一トラブルが発生した場合に、どの国の法律が適用され、どこで紛争を解決するのかが明確に定められていなくてはいけません。
秘密保持契約(NDA)リーガルチェック:チェックリストと例文
以下に、NDAのリーガルチェックで確認すべき主要なポイントと、それぞれの例文を記載します。
1)秘密情報の定義 (Definition of Confidential Information)
確認すべきポイント:
・どのような情報が秘密情報に該当するか、明確に定義されているか。
・口頭で開示された情報の扱いについても規定されているか。
(例文の青マーカー部分をご覧ください)
例文:
“Confidential Information” shall mean any and all information disclosed by the Disclosing Party to the Receiving Party, whether in written, oral, electronic, or any other form, including, but not limited to, trade secrets, business plans, financial information, customer lists, technical data, and any other information that is marked or otherwise identified as confidential at the time of disclosure, or that a reasonable person would understand to be confidential given the nature of the information and the circumstances of disclosure.
(訳):
「秘密情報」とは、開示当事者から受領当事者に開示されるあらゆる情報を意味し、書面、口頭、電子的形式、またはその他のいかなる形式によるかを問わず、営業秘密、事業計画、財務情報、顧客リスト、技術データ、その他開示時に秘密である旨表示または特定された情報、あるいは情報の性質および開示の状況から分別のある者が秘密であると理解すべき情報を含むが、これらに限定されない。
2)開示目的 (Permitted Purpose)
確認すべきポイント:
・秘密情報を開示する目的が明確に限定されており、その目的以外での利用が禁止されているか。(例文の青マーカー部分をご覧ください)
例文:
The Receiving Party shall use the Confidential Information solely for the purpose of evaluating a potential business collaboration between the parties.
(訳):
受領当事者は、秘密情報を具体的な目的を記載する,例: 両当事者間の潜在的なビジネス協力を評価することの目的のみに利用するものとする。
3)秘密保持義務 (Obligations of Receiving Party)
確認すべきポイント:
・秘密情報を受領した側が負うべき具体的な義務が明確に定められているか。
・第三者への開示制限、複製・改変の制限などが含まれているか。
(例文の青マーカー部分をご覧ください)
例文:
The Receiving Party shall maintain the Confidential Information in strict confidence and shall not disclose it to any third party without the prior written consent of the Disclosing Party. The Receiving Party shall take all reasonable measures to protect the confidentiality of the Confidential Information, which shall in no event be less than the measures it uses to protect its own confidential information of a similar nature. The Receiving Party shall not copy, reproduce, or modify the Confidential Information except as strictly necessary for the Permitted Purpose.
(訳):
受領当事者は、秘密情報を厳重に秘密として保持し、開示当事者の事前の書面による同意なくして、いかなる第三者にも開示しないものとする。受領当事者は、秘密情報の機密性を保護するために合理的なあらゆる措置を講じるものとし、その措置は、いかなる場合においても、受領当事者が自己の同種の秘密情報を保護するために用いる措置を下回ってはならない。受領当事者は、許諾された目的のために厳密に必要な場合を除き、秘密情報を複製、再現、または改変してはならない。
4)秘密情報の例外規定 (Exclusions from Confidential Information)
確認すべきポイント:
・秘密保持義務が適用されない情報の範囲が明確かつ適切に規定されているか。
(例文の青マーカー部分をご覧ください)
例文:
The obligations of confidentiality under this Agreement shall not apply to any information that:
(a) is or becomes generally available to the public other than as a result of a disclosure by the Receiving Party or its Representatives in violation of this Agreement;
(b) was in the Receiving Party’s possession prior to the time of disclosure by the Disclosing Party, as evidenced by the Receiving Party’s written records;
(c) is independently developed by the Receiving Party without the use of or reference to the Confidential Information, as evidenced by the Receiving Party’s written records; or
(d) is rightfully obtained by the Receiving Party from a third party without a breach of any confidentiality obligation.
(訳):
本契約に基づく秘密保持義務は、以下の情報には適用されないものとする。
(a) 本契約に違反して受領当事者またはその代表者による開示の結果によらずに、公衆に一般に入手可能になった、または入手可能になる情報
(b) 開示当事者による開示の時点以前に、受領当事者の書面による記録によって証明されるように、受領当事者が保有していた情報
(c) 受領当事者が、秘密情報を利用または参照することなく独自に開発した情報であって、受領当事者の書面による記録によって証明されるもの
(d) 秘密保持義務の違反なくして、受領当事者が第三者から正当に入手した情報
5)秘密保持義務の期間 (Term of Confidentiality Obligation)
確認すべきポイント:
・秘密保持義務がいつまで続くのか、その期間が明確かつ適切に規定されているか。一般的に、秘密情報の種類や重要性に応じて期間を設定します。
(例文の青マーカー部分をご覧ください)
例文:
The obligations of confidentiality set forth in this Agreement shall remain in effect for a period of five (5) years from the date of disclosure of the Confidential Information.
(訳):
本契約に定める秘密保持義務は、秘密情報の開示日から5年間の期間、有効に存続するものとする。
6)秘密情報の返還・破棄 (Return or Destruction of Confidential Information)
確認すべきポイント:
・契約終了時や秘密情報が不要になった場合の、秘密情報の返還または破棄に関する規定が明確であるか。(例文の青マーカー部分をご覧ください)
例文:
Upon the termination or expiration of this Agreement, or at any time upon the written request of the Disclosing Party, the Receiving Party shall promptly return to the Disclosing Party or destroy (at the Disclosing Party’s option) all Confidential Information received from the Disclosing Party, including all copies thereof, and shall certify in writing to the Disclosing Party that it has complied with this provision.
(訳):
本契約が終了または満了した場合、または開示当事者からの書面による請求があった場合、受領当事者は、開示当事者から受領した全ての秘密情報(その全ての複製物を含む)を、直ちに開示当事者に返還するか、または破棄(開示当事者の選択による)するものとし、その旨を開示当事者に書面にて証明するものとする。
7)違反時の救済 (Remedies for Breach)
確認すべきポイント:
・NDAに違反した場合の救済措置に関する規定が、自社にとって適切であるか。
・差止請求権、損害賠償の範囲・上限、違約金など、その他の救済措置に関する規定は適切か。
(例文の青マーカー部分をご覧ください)
例文:
The Receiving Party acknowledges that a breach of its obligations under this Agreement would cause irreparable harm to the Disclosing Party for which monetary damages alone would not be an adequate remedy. Therefore, the Receiving Party agrees that the Disclosing Party shall be entitled to seek injunctive relief, in addition to any other remedies that may be available at law or in equity, to prevent any actual or threatened breach of this Agreement.
(訳):
受領当事者は、本契約に基づく義務の違反が、開示当事者に対し金銭賠償のみでは十分な救済とならない回復不能の損害を与えることを認識する。したがって、受領当事者は、開示当事者が、本契約の実際のまたはおそれのある違反を防止するために、コモンローまたはエクイティ上の利用可能な他の救済措置に加えて、差止命令による救済を求める権利を有することに同意する。
8)準拠法・紛争解決 (Governing Law and Dispute Resolution)
確認すべきポイント:
・万が一トラブルが発生した場合に、どの国の法律が適用され、どこで紛争を解決するのかが明確に定められているか。自社にとって有利な国・地域を選択することが重要です。
(例文の青マーカー部分をご覧ください)
例文:
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan. Any dispute arising out of or in connection with this Agreement shall be submitted to the exclusive jurisdiction of the Tokyo District Court.
(訳):
本契約は、日本国の法律に準拠し、同法に従って解釈されるものとする。本契約に起因または関連して生じるいかなる紛争も、東京地方裁判所の専属管轄に服するものとする。
この記事では、英文契約リーガルチェックの全体像と、特に、ビジネスにおける秘密保持契約(NDA)の重要性と、NDAのリーガルチェックにおける主要な注意点、そして具体的なチェックリストをご紹介しました。
秘密保持契約は、企業が保有する重要な秘密情報やノウハウを保護するための不可欠となるものです。
適切なNDAを締結することで、情報の漏洩や不正利用のリスクを低減し、企業の競争優位性を維持することができます。
NDAのリーガルチェックにおいては、単に契約の存在を確認するだけでなく、
・秘密情報の定義が明確であるか
・開示目的が限定されているか
・秘密保持義務の内容が明確かつ適切であるか
・秘密情報の例外規定が適切であるか
・秘密保持義務の期間が適切であるか
・秘密情報の返還・破棄に関する規定が明確であるか
・違反時の救済措置に関する規定が適切であるか
・準拠法・紛争解決方法が適切であるか
といった点をていねにに確認することが重要です。
特に、秘密保持義務違反による損害は金銭では完全に補償しきれない場合が多いため、差止請求権に関する規定は注意する必要があります。
また、損害賠償の範囲や上限、違約金に関する規定についても、開示者・受領者双方にとって重要な検討事項となります。
ご紹介したチェックリストは、NDAのリーガルチェックを行う上での基本的なガイドラインとなります。
しかし、個々の取引の内容や秘密情報の内容によって、注意すべき点は異なります。
したがって、実際にNDAを締結する際には、この記事の内容を参考にしつつ、契約内容を十分に検討することをおすすめします。
NDAの適切なリーガルチェックを行うことで、安心してビジネスを進めることが可能となります。
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