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英文契約書の 一般条項である Entire Agreement(完全合意条項)とParol Evidence Rule(口頭証拠排除原則)について、その要点を解説します。いくつかの例文をとりあげ要点と対訳をつけました。例文中の基本表現に注記を入れました。
1.解説:
1) Entire Agreement(完全合意条項) とは
Entire Agreement(完全合意条項)とは、
本契約とは別に他に合意や交渉があったとしても、本契約のみが完全で最終的な合意であり、他のすべての合意や交渉などに優先する
とする英文契約書の一般条項のことです。
英文契約書では、すべての事項を想定して規定にすることが一般的です。
すべての事項を想定し規定にいれるため、本契約までに存在した合意事項や交渉事項は、契約内容として一切認めないとすることで、紛争のリスクを避ける狙いがあります。
ちなみに、日本国内の契約書には、完全合意条項 はほとんど見かけません。
日本の契約書では、完全合意条項 のかわりに「契約内容に疑義が生じたときは、円満に協議解決する」とする協議解決の条文がおかれるのが一般的です。
2)Parol Evidence Rule(口頭証拠排除原則)について
英米法ではParol Evidence Rule(口頭証拠排除原則)と呼ばれるルールがあります。これは、
書面化していない口頭での合意を証拠として提出しても、契約としてみとめないとする原則
のことをいいます。
そして、この原則を具体的に契約条文にまとめたのが、
Entire Agreement(完全合意条項) です。
以下に、Entire Agreement(完全合意条項)のいくつかの例文をとりあげました。
3)契約レビューの重要ポイント:完全合意条項と口頭証拠
排除原則の理解とリスク
Entire Agreement(完全合意条項)とParol Evidence Rule(口頭証拠排除原則)は、英文契約書において契約の最終性と確定性を担保し、将来的な紛争を予防する上で極めて重要な役割を果たします。
これらの原則と条項を深く理解し、適切にレビューすることは、企業が予期せぬ法的リスクを負うことを防ぐために不可欠です。
以下の点に細心の注意を払いましょう。
ア.「完全な合意」の範囲の確認
なぜ問題になるのか?:
完全合意条項は、「本契約書に書かれていることだけが、当事者間の最終的な合意である」と宣言するものです。
もし、契約書作成前に交わされた重要な合意や了解事項(例えば、Eメール、議事録、口頭での約束など)が契約書に明示的に含まれていない場合、この条項によって、それらの合意や了解事項が法的に無効と判断されるリスクがあります。
これは特に、複雑な交渉や長期にわたるやり取りがあった場合に顕著なリスクとなります。
確認すべきポイント:
全ての重要な合意の包含:
契約書にサインする前に、当事者間で合意された全ての重要な事項が、漏れなく本契約書に記載されているかを徹底的に確認しましょう。
もし記載漏れがある場合、本契約書に署名する前に、必ず追記または修正を行う必要があります。
参照文書の明記:
添付資料(Exhibits)、別紙(Schedules)、付属書(Appendices)など、契約書の一部を構成する全ての関連文書が、完全合意条項の中で明確に言及され、本契約書の一部として含まれているかを確認しましょう(例文②参照)。
これにより、それらの文書も「完全な合意」の一部であることが担保されます。
「口頭および書面による全ての事前の合意(all prior agreements and understandings, both oral and written)」(例文②参照)
という表現が含まれているか。
これにより、書面だけでなく口頭での合意も排除されることが明確になります。
イ.過去の交渉や文書の取り扱い
なぜ問題になるのか?:
完全合意条項は、過去の全ての交渉、合意、了解事項、表明に「優先する(supersedes)」と規定することで、それらの証拠価値を排除します(例文①、例文②、例文③参照)。
これは、過去の議論の「蒸し返し」を防ぐ点でメリットがある一方、もし過去の交渉過程で、契約書には記載されていないが当事者間で暗黙の了解となっていた重要な事項がある場合、それが無効となるリスクを意味します。
確認すべきポイント:
契約前のやり取りの精査:
過去のメール、交渉メモ、プレゼンテーション資料などに、契約締結後の義務や権利に影響を与える可能性のある記載がないか、改めて確認しましょう。
もしそのような記載があり、それが契約書に反映されていない場合は、契約書に盛り込むか、またはその記載が意図的に契約の範囲外であることを確認する必要があります。
表明保証条項との整合性:
契約書には、過去の特定の「表明(representation)」や「保証(warranty)」が真実であることを定める条項が別途設けられる場合があります。
完全合意条項とこれらの表明保証条項が矛盾しないか、またはどちらが優先するのかが明確にされているかを確認しましょう(例文③のように、契約で明示的に規定されていない表明等が影響を与えない旨が明確化されているか)。
ウ.変更・修正条項(Amendment Clause)との関連性
なぜ問題になるのか?:
完全合意条項は、「本契約書の内容は、本契約書に署名するまでのものである」という最終性を与えます。
しかし、契約は締結後に変更される可能性があります。
その際の変更手続きが不明確だと、有効な変更と無効な変更が混在し、混乱を招きます。
確認すべきポイント:
完全合意条項の直後または関連する箇所に、「本契約の変更は、両当事者の署名のある書面による場合にのみ有効である(This Agreement may be amended or modified only by a written instrument signed by both parties)」といった、変更手続きを定める条項が設けられているかを確認しましょう。
これにより、口頭での変更や片方だけの意図による変更が排除され、契約の安定性が保たれます。
エ.Parol Evidence Rule(口頭証拠排除原則)の理解
なぜ問題になるのか?:
この原則は、完全合意条項の背景にある英米法の重要な概念です。
この原則があるため、契約書が最終的な合意であると明記されている場合、それ以前の口頭での約束や合意は、たとえ事実であったとしても、裁判で証拠として認められにくくなります(例文④参照)。
確認すべきポイント:
この原則があることを踏まえ、全ての重要な約束事が必ず書面化された契約書に記載されているかを再確認しましょう。
特に、契約交渉中に口頭で「これは大丈夫」「後で対応する」といった約束があった場合は、それが契約書に明記されていない限り、法的な拘束力を持たない可能性が高いと理解しておく必要があります。
Entire Agreement 条項とそれに密接に関連する Parol Evidence Rule は、英文契約書が「全てを網羅した最終的な文書である」という原則を確立するための、極めて強力なツールです。
この条項を適切にレビューし、必要に応じて交渉することで、企業は契約の明確性を確保し、将来の不必要な紛争から自社を守ることができるようになります。
2.例文と基本表現:
(注):キーワードとなるentire agreementは青文字で示し、基本表現をハイライトしています。
1) Entire Agreement(完全合意条項) の例文①
Entire Agreement(完全合意条項)の標準的なタイプです。
This Agreement constitutes the entire agreement between the parties hereto with respect to the subject matter contained in this Agreement and supersedes all prior agreements, understandings and negotiations between the parties.
(訳):
本契約は、本契約に記載された主題に関する両当事者間の完全な合意を構成し、両当事者間の以前のすべての合意事項、了解事項、および交渉に優先する。
(注):
*constitutesは、を構成するという意味です。くわしくは、constituteの意味と例文をご覧ください。
*the subject matterは、主題という意味です。
*contained in this Agreementは、本契約に記載されたという意味です。
*supersedesは、に優先するという意味です。
*agreementsは、契約でなく、ここでは合意事項を意味します。
2) Entire Agreement(完全合意条項) の例文②
Entire Agreement(完全合意条項)の対象に、本契約以外に、添付資料などの取引文書を加えています。(下線部)
This Agreement, including the Exhibits and the Disclosure Schedules, and the other Transaction Documents constitute the entire agreement among the parties hereof with respect to the subject matter hereof and thereof and supersede all prior agreements and understandings, both oral and written, between the parties with respect to the subject matter hereof and thereof.
(訳):
添付資料および開示スケジュールを含む本契約ならびにその他の取引文書は、本契約およびこれら取引文書の主題に関する当事者間の完全な合意を構成し、本契約ならびにこれら取引文書の主題に関する当事者間の口頭および書面によるすべての事前の合意事項ならびに了解事項に優先する。
(注):
*the Exhibitsは、添付資料という意味です。
*the Disclosure Schedulesは、開示スケジュールという意味です。
*with respect toは、~に関するという意味です。
3) Entire Agreement(完全合意条項) の例文③
本契約以外に、表明や保証などがあっても、本契約で規定されない限り、本契約に影響をあたえないことを明確にしています。(下線部)
This Agreement embodies the entire agreement and understanding between the parties hereto with respect to the subject matter hereof and supersedes all prior oral or written agreements and understandings relating to the subject matter hereof. No statement, representation, warranty, covenant or agreement not expressly set forth in this Agreement shall affect or be used to interpret, change or restrict, the express terms and provisions of this Agreement.
(訳):
本契約は、本件に関する両当事者間の完全な合意事項および了解事項を具体化し、本件に関する以前の口頭または書面によるすべての合意事項および了解事項に優先する。 本契約で明示的に規定されていない声明、表明、保証、誓約もしくは合意事項は、本契約の明示的な条件および条項に影響を与えず、または解釈、変更もしくは制限するために使用されない。
(注):
*embodiesは、を具体化するという意味です。
*statementは、声明という意味です。
*representationは、表明という意味です。
*covenantは、誓約という意味です。くわしくは、covenantの意味と例文をご覧ください。
*expressly set forthは、明示的に規定されるという意味です。
*the express terms and provisions of this Agreementは、本契約の明示的な条件および条項という意味です。
4) Entire Agreement(完全合意条項) の例文④
Parol Evidence Rule(口頭証拠排除原則)を明確にしています。本契約にない約束事項を排除する狙いがあります。(下線部)
It is expressly acknowledged and recognized by the parties that there are no oral agreements, understandings, or representations between the parties other than as contained in this Agreement.
(訳):
本契約に記載される場合を除き、当事者は、当事者間での口頭による合意事項、了解事項または表明が存在しないことを明確に確認し認識する。
(注):
*is expressly acknowledged and recognizeは、を明確に確認し認識するという意味です。
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