【この記事でわかること】
- 英文契約書で頻出する「there-系語句」(thereto, thereof, thereafter, thereby, therein)の文法構造と基本意味
- 「here-系(本契約)」と「there-系(直前の特定の言葉)」の役割と指し示す対象の決定的な違い
- 現代の契約実務(Plain English)における平易な代替表現(of that, thereby等)への言い換えと使い分け
- 契約条文でthere-系単語が多用される法的理由(解釈の曖昧さ排除・冗長性の回避)
- 指し示す対象(先行詞)を明確にした実務例文、正確な和訳、および詳細な語注解説
英文契約書を読んでいると、thereto, thereof, thereafter, thereby, therein といった「there-」で始まる専門用語によく遭遇します。
これらは日常会話では馴染みが薄いものの、英文契約書では「直前に登場した名詞や文節」を正確に指し示すための不可欠な単語として定着しています。
契約書における指示代名詞の理解は、「here = this(本契約全体)」を指すのに対し、「there = that / those(直前の特定の名詞・文章)」を指すという基本ルールさえ捉えれば非常に明快になります。本記事では、主要5語の意味、文法構造、指し示す対象の見分け方、平易な代替表現、そして実務例文までを分かりやすく解説します。
目次
1. there-系表現の文法構造と意味一覧
there-系語句を分解する際の基本法則は、「there = that(または those / that matter)」と読み替えることです。
「there + 前置詞」の形になっており、前置詞が後ろから前にかかって「前置詞 + that(直前の特定対象)」という意味を構成します。
| 単語 | 分解後の文法構造 | 主な日本語訳 |
|---|---|---|
| thereto | to that / to it | それに、その、それに対して |
| thereof | of that / of it | それの、その、それについての |
| thereafter | after that | その後、それ以降は |
| thereby | by that / by doing so | それによって、その結果として |
| therein | in that / in it | その中に、その点で、そこに |
2. なぜ英文契約書でthere-系単語が使われるのか?(法的効果とメリット)
there-系語句が英文契約書で多用されるのには、契約解釈における紛争を防止するための明確な法的理由が存在します。
① 代名詞(it / they)による解釈の曖昧さを排除する
一般の英語で使われる `it` や `them` は、文脈によって「何を指しているのか」が曖昧になるケースがあります。
契約書において解釈の揺れは命取りとなります。`thereof` や `thereto` を用いることで、直前の特定の名詞句や条件文を指示対象として厳格に固定し、法的紛争のリスクを低減します。
② 長文での同一表現の重複・冗長性を回避する
「…of the Company」や「…to the Agreement」といったフレーズを何度も繰り返すと文章が冗長になります。`thereof` や `thereto` を使うことで、文章量をコンパクトに抑えつつ、契約全体の可読性と精緻さを維持します。
③ 伝統的な契約書スタイルと法的解釈の安定性
英米法体系(コモン・ロー)において、これらの表現は長年の裁判例を通じて意味が確立されています。そのため、実務家にとって解釈の誤解が生じにくい確実な文体として選ばれ続けています。
3. 「here-系」との違い・平易な代替表現(Plain English)との使い分け
契約書を読む際、最も混同しやすいのが **「here-系」** と **「there-系」** の違いです。指し示す対象のスコープ(範囲)が決定的に異なります。
【指し示す範囲の決定的な違い】
- here-系(hereof, herein, hereunder等):「この契約書(this Agreement)」全体を指す
- there-系(thereof, therein, thereto等):「直前に登場した特定の名詞・条項・事実(that / those)」を指す
Plain English(平易な英語)への書き換えと実務の動向
近年は、契約書を平易な英語で書く Plain English 運動に伴い、以下のような言い換えも増えています。
thereto→ to it / to that documentthereof→ of it / of thatthereafter→ after that / from then onthereby→ by that / as a resulttherein→ in it / in that section
法的な意味合いや効果は従来の表現もPlain Englishも同等です。相手方のドラフトをレビューする際はどちらの表記であっても「何が指し示されているか」を正確に読み取ることが重要になります。
4. 各語句の例文と詳細解説
実務でそのまま役立つ主要5語句の例文、和訳、指し示す対象(先行詞)の明確化、および重要英単語の解説です。
① thereto (= to that:それに、その)
“Attached as Exhibit “C” is a list of all material contracts to which the Company is a party, as of the Closing Date, including all amendments thereto.”
(訳)
別紙「C」として添付されているのは、クロージング日現在において当社が当事者である一切の重要な契約のリストであり、かかる重要な契約に対するすべての変更・改定を含むものとする。
・theretoの指す対象:直前の下線部「all material contracts to which the Company is a party」(当社が当事者であるすべての重要契約)を指します(=amendments to those contracts)。
・Exhibit:別紙、添付書類。
・material:重大な、重要な。
・the Closing Date:クロージング日(取引実行日・資産移転日)。
② thereof (= of that / of it:それの、その)
“If Licensor approves such subcontractor, then, for purposes of such sublicense only, the Territory for the license hereunder shall be deemed to include the country or sub-division thereof in which the manufacturing will be performed, as mutually agreed to by the Parties.”
(訳)
ライセンサーがかかる下請事業者を承認した場合、当該サブライセンスの目的のみにおいて、本契約に基づくライセンス対象地域には、両当事者が相互に合意した通り、製造が行われる国またはその(=その国の)一部の行政区画が含まれるものとみなされる。
・thereofの指す対象:直前の下線部「the country」(国)を指します(=sub-division of that country)。
・subcontractor:下請事業者、再委託先。
・be deemed:〜とみなされる。
・sub-division:(州や県などの)一部の地域・行政区分。
③ thereafter (= after that:その後、それ以降)
“The failure at any time of either Party to enforce or require strict compliance with any provision of this Agreement shall in no way be construed as a waiver of such provision nor in any way be construed to affect the right of such Party to thereafter enforce that or any other provision of this Agreement.”
(訳)
いずれかの当事者が本契約の規定の厳格な履行を強要または要求しなかった場合であっても、それが当該規定の権利放棄と解釈されることはなく、またその後において当該当事者が本契約の当該規定または他の規定を履行させる権利に影響を与えるものと解釈されてはならない。
・thereafterの指す対象:下線部の「権利行使や履行要求をしなかった事実・出来事」の「後」を指します。
・failure to:〜しないこと、怠ること。
・be construed:〜と解釈される。
・waiver:権利放棄(権利不放棄条項:No Waiver Clauseにおける最重要単語)。
④ thereby (= by that / by doing so:それによって、その結果として)
“In the event that a court or other tribunal of competent jurisdiction at any time holds that any provision of this Agreement is illegal or unenforceable, such provision shall be severed from this Agreement, and the remainder of this Agreement shall not be affected thereby and shall continue in full force and effect.”
(訳)
管轄権を有する裁判所その他の紛争解決機関が、本契約のいずれかの条項を違法または執行不能と判示した場合、当該条項は本契約から分離されるものとし、本契約の残りの部分はそれ(=当該条項が分離されたこと)によって影響を受けることなく、引き続き完全な効力を有するものとする。
・therebyの指す対象:下線部の「条項が違法・無効と判断されて分離されたという事実」を指します。
・tribunal of competent jurisdiction:管轄権を有する裁判所・仲裁機関。
・severed:切り離された、分離された(分離可能性条項:Severability Clauseより)。
・continue in full force and effect:引き続き完全な法的効力を有する。
⑤ therein (= in that / in it:その中に、そこに)
“Articles XX shall survive the expiration or termination of this Agreement for so long as the subject matter therein is relevant.”
(訳)
第XX条は、同条項中に規定された対象事項が関連性を有する限り、本契約の期間満了または終了後も存続するものとする。
・thereinの指す対象:直前の下線部「Articles XX」(第XX条)を指します(=subject matter in Articles XX)。
・survive:(契約終了後も条項が)存続する(存続条項:Survival Clause)。
・subject matter:対象事項、主題。
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