英文と日本語のビジネス契約書の作成・チェック(レビュー)・翻訳の専門事務所です。(低料金、全国対応)
英文契約書のNDAや秘密保持条項で見かけるpublic domainについて解説します。 例文をとりあげ要点と対訳をつけ、基本表現に語注をつけました。
1.解説:
1)public domainとは
public domainは、
公知の(情報や知識)、公有の(情報や知識)
という意味です。
これは、世間一般に、既に知られており、法的に保護されておらず、原則、誰でも自由に利用できる公知の情報や知識のことを指します。
法的に保護されていない公知の情報や知識とは、
知的財産権(著作権、特許権、商標権、企業秘密など)の行使の対象とならないものをいいます。
公知の情報や知識には、たとえば、以下のようなものが挙げられます:
・著作権法で保護されない権利の切れた著作物
(例:シェイクスピアの戯曲)
・不正競争防止法で保護されない秘密性のないビジネス情報
(例:広く知られた業界の統計データ)
・商標法で保護されないありふれたブランド名や一般的な記述
(例:普通名詞化した商品名)
・特許期間が満了した技術や、特許出願公開されたが特許が付与されなかった技術
2) public domainの使い方
public domain(公知の、公有の)の表現は、
Non-Disclosure Agreement(秘密保持契約書)
で、頻繁に出てきます。
通常、秘密保持義務の対象となる「秘密情報(Confidential Information)」の定義を行った後に、
『public domain(公知の、公有の)の情報は、秘密保持義務の対象の例外である』
というように、用いられます。(以下の例文①~③をご覧ください。)
これは、「そもそも秘密ではない情報には、秘密を守る義務は負わない」という、秘密保持契約の基本原則を明確にするために不可欠な規定です。
3)契約レビューの重要ポイント:「公知情報」を巡るリスクと注意点
public domain は、秘密保持契約(NDA)や契約書中の秘密保持条項において、「何が秘密情報であり、何が秘密情報ではないのか」を区別するための極めて重要なキーワードです。
この「公知情報」の例外規定の精査を怠ると、不当に広範な秘密保持義務を負わされたり、逆に保護されるべき秘密情報が流出したりする重大なリスクに直面します。
契約レビュー時には、以下の点を徹底的に精査することが不可欠です。
ア.「公知になった原因」が最も重要
なぜ問題になるのか?:
ある情報が「公知になった」という事実だけでは十分ではありません。
「どのようにして公知になったのか」が、その情報が秘密保持義務の例外となるか否かを決定する上で最も重要な判断基準となります。
もし、秘密保持義務を負う当事者(受領当事者)が契約に違反して情報を漏洩した結果、それが公知になったのであれば、その情報が公知になったからといって秘密保持義務が解除されるべきではありません。
確認すべきポイント:
「受領当事者の過失によらずに公知になった場合のみ例外とする」:
これが最も標準的で、かつ受領側にとって有利な、公正な規定です(例文③(iii)参照)。
「本契約の条件に違反しない作為または不作為により公知になった場合」(例文①)や、
「開示当事者の契約違反によらず公知となった場合」(例文②)
などの文言も同趣旨です。
この文言があることで、自社が秘密情報を漏洩した結果公知になった場合には、秘密保持義務が継続することを意味します。
自社に不利な条項のチェック:
もし、「単に公知になった情報」が全て秘密保持義務の例外となるような規定の場合、意図的に情報を漏洩して公知化することで秘密保持義務を逃れるという悪用が可能になってしまいます。
このような規定は、開示当事者にとって極めて不利であり、絶対に避けるべきです。
イ.「証明責任」と「文書による証拠」の重要性
なぜ問題になるのか?:
ある情報が「公知であった」「独自に開発した」といった事実を主張する場合、その証明責任は主張する側(通常は受領当事者)にあります。
口頭での主張だけでは認められず、客観的な証拠が求められるため、証拠がないと秘密保持義務を逃れられないリスクがあります。
確認すべきポイント:
「文書による証拠(documentary evidence)」(例文③参照)が求められているかを確認しましょう。
これにより、将来の紛争時に、受領側が公知性や独自開発を証明するために、どのような証拠(例:公開された刊行物、自社の開発記録、タイムスタンプ付きの電子記録など)を準備する必要があるかが明確になります。
自社が情報を受領する側の場合、将来のトラブルに備えて、受領する情報が既に公知であるか否かを事前に調査し、その記録を残しておくことが極めて重要です。また、独自開発した情報については、開発記録やタイムスタンプを詳細に残すようにしましょう。
ウ.その他の「秘密情報からの除外」条件の確認
なぜ問題になるのか?:
public domain 以外にも、秘密情報から除外されるべき情報(秘密保持義務の対象外となる情報)の条件がいくつかあります。これらの条件が網羅的に規定されていないと、不必要に広範な秘密保持義務を負うことになります。
確認すべきポイント:
「受領時に既に受領当事者が保有していた情報(prior possession)」(例文③(i)参照)が除外されているか。
「受領当事者が独自に開発した情報(independently developed)」(例文③(i)参照)が除外されているか。
「開示の権利を有する第三者から合法的に取得した情報(lawfully received from a third party)」(例文③(iv)参照)が除外されているか。
「法令に基づき開示が義務付けられた情報(required by law or court order)」が除外されているか。これは、特に規制産業や上場企業にとって重要な条項です。
public domain は、秘密保持契約のバランスを決定する核心的な要素です。
この例外規定が適切に設定されていないと、企業にとって不当な義務や、逆に重要な秘密の漏洩リスクにつながります。
契約レビューにおいては、この部分を特に注意深く読み込み、自社の立場(情報を開示する側か、受領する側か)に応じて、最も適切かつ公正な条件が定められているかを徹底的に確認し、必要に応じて交渉を行うことが、将来の法的リスクから自社を守るための鍵となります。
2.例文と基本表現:
(注):public domainは、青文字で示し、基本表現をハイライトしています。
1) public domain の例文①
公知の秘密情報は、秘密情報とみなされません。
Any Confidential Information that becomes of public domain through an act or omission that is not in violation of the terms hereof, shall no longer be deemed as Confidential Information.
(訳):
本契約の条件に違反しない作為または不作為により公知になった秘密情報は、もはや秘密情報とは見なされないものとする。
(注):
*act or omission は、作為または不作為という意味です。くわしくは、act or omissionの意味と例文をご覧ください。
*hereofは、本契約のという意味です。くわしくは、hereto, hereof, herein, hereby, hereunder, herewith, hereinafterの意味と例文をご覧ください。
*be deemed asは、~と見なされるという意味です。
2) public domain の例文②
開示者の契約違反で公知とならない限り、すでに公知の情報に、秘密義務はありません。
The requirements of Clause 8 shall not apply to any information or data to the extent such information has already entered the public domain (provided always that it has not entered the public domain by reason of the disclosing party’s breach of this Agreement).
(訳):
第8条の要件は、情報またはデータが既に公知となっているものについては適用されないものとする。(開示当事者が本契約を違反したことにより公知となっていないことを常に条件とする。)
(注):
*to the extentは、~の限り、~の範囲でという意味ですが、意訳(については)しています。
*provided always thatは、~を常に条件とするという意味です。
*the disclosing party’s breach of this Agreementは、the disclosing party’s (開示当事者の)と、breach of this Agreement(本契約の違反)で、開示当事者が本契約を違反したことと訳しています。
3) public domain の例文③
受領時に公知であり、そして、その後公知となった秘密情報に守秘義務はありません。
The above provisions of confidentiality shall not apply to that part of disclosing party’s Confidential Information which the receiving party is able to demonstrate by documentary evidence: (i) was in the receiving party’s possession prior to receipt from the disclosing party or is independently developed by the receiving party; (ii) was in the public domain at the time of receipt from disclosing party; (iii) subsequently becomes a part of the public domain through no fault of the receiving party or its Agents; and (iv) is lawfully received by the receiving party from a third party having a right of further disclosure.
(訳):
上記の守秘義務の規定は、受領当事者が文書の証拠によって証明できる開示当事者の以下の秘密情報に適用されないもとする:(i)開示当事者から受領する前に受領当事者が保有していた、または受領当事者が独自に創作したしたもの(ii)開示当事者からの受領時に公知であったもの (iii)その後、受領当事者またはその代理人の過失なく公知となったもの (iv)開示の権利を有する第三者から受領当事者が合法的に受領したもの。
(注):
*disclosing partyは、開示当事者という意味です。
*the receiving partyは、受領当事者という意味です。
*demonstrateは、証明するという意味です。くわしくは、demonstrateの意味と例文をご覧ください。
*documentary evidenceは、文書の証拠という意味です。
*subsequentlyは、その後という意味です。くわしくは、subsequentlyの意味と例文をご覧ください。
*Agentsは、代理人という意味です。Attorney-in-Fact(代理人)についてをご参考にしてください。
*lawfullyは、合法的にという意味です。
英文契約書・日本語契約書の作成・チェック(レビュー)・翻訳は、当事務所にお任せください。リーズナブルな料金・費用で承ります。
お問合せ、見積りは、無料です。お気軽にご相談ください。
受付時間: 月~金 10:00~18:00
メールでのお問合せは、こちらから。
ホームページ:宇尾野行政書士事務所
