英文契約書の重要概念:契約成立の鍵となるConsideration (約因)とは

英文契約書を読む上で、頻繁に登場するけれど少し理解しにくい表現の一つにConsideration (約因)があります。

日本の法律には直接対応する概念がないため、難しく感じる方もいるかもしれません。

しかし、Consideration(約因)は英文契約が有効に成立するための非常に重要な要素なのです。

この記事では、Consideration (約因)の意味から、注意点、具体的な例文、そして関連する重要な考え方まで、分かりやすく解説します。

目次:
1.はじめに:Consideration (約因)は、なぜ重要なのか?
2.Consideration (約因)とは:意味と役割
3.Consideration (約因)の注意点
4.Consideration (約因)の用法と例文
5.例外:Promissory Estoppel(約束的禁反言)とは
6.まとめ

 

1.はじめに:Consideration (約因)は、なぜ重要なのか?

もしあなたが英文契約書を目にする機会があれば、契約書の冒頭部分に

In consideration of

という書き出しを目にすることがあると思います。

これは、それ以下に表記される約束が、法的に拘束力を持つための「Consideration (約因)」に基づいて行われることを示唆しています。

Consideration(約因)とは、簡単に言うと

お互いにとって何か価値のあるもの」のことです。

これは、お金だけでなく、物、サービス、または「何かをしない」という約束、つまり不作為も含まれます。

このConsideration (約因)がない場合、原則としてその約束は法的な拘束力を持たない、つまり、守らなくても法的な責任を問われない、こともありうるのです。

英文契約の世界では、このConsideration (約因)の有無が契約の有効性を大きく左右するため、非常に重要な概念と言えます。

2.Consideration (約因)とは:意味と役割

意味:

Consideration (約因)とは、契約が法的に有効となるために、

当事者一方のみが利益を得たり負担を負うという関係でなく、当事者双方が利益を得るまたは負担を負う関係

のことです。

一方当事者の約束は、他方当事者からの何らかのConsideration(対価)と引き換えに行われる必要があります。

役割:

Consideration (約因)の役割をまとめると、以下のようになります。

法的な効力の発生:

Consideration (約因)があることによって、単なる約束が法的な義務へと変わります。

一方的な約束でなく相互の約束:

Consideration (約因)があることにより、無償の約束や単なる好意による申し出では、法的拘束力を持つ契約として扱われないことになります。

取引に対する真摯な意思の確認:

当事者が何か価値のあるものを差し出す、または負担を負うという要素があることで、契約に対する当事者の真摯な意思を確認することができます。

3.Consideration (約因)の注意点

Consideration (約因)を理解する上で注意すべき点がいくつかあります。

対価性が必要:

単なる好意や、過去の行為に対する約束(Past Consideration:過去に実行済みの義務)は、原則として有効なConsideration (約因)とは認められません。

約束はその時点での対価と引き換えに行われる必要があります。

妥当性は不要:

Consideration (約因)は「何か価値があるもの」であればたります。

その価値が実際に取引されている価格と釣り合っている必要はありません(Adequacy of Consideration:当事者間で交換される対価の公平性や同等性、は問わない)。

ただし、極端に不均衡な場合は、詐欺などの他の法的問題が生じる可能性があります。

名目的なConsideration (約因):

当事者間で実質的な価値の移転がない場合でも、契約の形式を整えるために、ごくわずかな金額(例:1ドル)をConsideration(約因)とすることがあります(Nominal Consideration:名目的な約因)。

これだけで有効となる場合もありますが、状況によってはその有効性が争われることもあります。

日本法との違い:

日本法(民法522条)では、当事者の意思表示の合致があれば、契約は有効に成立します。

契約の成立に、Consideration(約因)のような対価の存在は必要ありません。

また、贈与などの無償契約は、日本法では当事者の意思表示の合致によって有効に成立します。

しかし、英文契約の世界では、無償契約は、Consideration(約因)がないため、原則として拘束力を持ちません。

4.Consideration (約因)の用法と例文

英文契約書では、Consideration (約因)は、通常、契約の冒頭部分や、当事者の義務を定める条項の中で記載されます。

例文1:契約冒頭に置かれるConsideration(約因)条項

In consideration of the mutual covenants contained herein, the parties agree as follows:

(訳):

本契約に含まれる相互の約束を約因として、両当事者は以下の通り合意する。

解説:

これは、契約書全体に記載されたお互いの約束が、それぞれのConsideration(約因)となり、契約を有効にするという基本的な用法です。

例文2:具体的な義務となるConsideration(約因)

Seller shall sell the Goods to Buyer, and Buyer shall pay Seller the price of $10,000 in consideration thereof.

(訳):

売主は買主に商品を販売し、買主はその対価として売主に10,000ドルを支払うものとする。

解説:

売主が商品を売るという約束と、買主が代金を支払うという約束が、互いのConsideration(約因)となっています。

例文3:不作為(何かをしないこと)がConsiderationとなる例

In consideration of Employee’s agreement not to compete with Employer for a period of two years following termination of employment, Employer shall pay Employee $5,000 as a signing bonus.

(訳):

従業員が雇用終了後2年間、雇用者と競業しないことに合意することを約因として、雇用者は従業員に5,000ドルをサインオン・ボーナスとして支払うものとする。

解説:

従業員が競業しないという「不作為」が、雇用者からのサインオン・ボーナスというConsideration(約因)と引き換えになっています。

補足:In consideration ofの表現について

上記三つの例文では、いずれもIn consideration of ~という表現が使われています。直訳すると~を約因として、ですが、条文の内容によって、訳が変わってきます。

例文2では、売買という具体的な取引において、代金の支払いが商品の引き渡しに対する直接的な対価となるため、その対価として、と訳しています。

一方、例文1や例文3のように、契約全体の相互の約束や、特定の行為(不作為を含む)が、契約全体の成立や特定の義務の発生の前提となる場合には、~を約因として、という訳が適切になります。

いずれにしても、In consideration ofは、その後に続く約束が法的に拘束力を持つための根拠となるものを示す重要な表現です。

5.例外:Promissory Estoppel(約束的禁反言)とは

Considerationの原則には、

重要な例外的な法理としてPromissory Estoppel(約束的禁反言)があります。

これは、

Consideration(約因)がなくても、約束を法的に拘束力のあるものとする

考え方であり、以下の要件が満たされる場合です。

明確な約束の存在:
約束をした側が明確な約束をしたこと。

相手方の信頼:
約束をされた側がその約束を信頼し、それに基づいて行動したこと。

相手方の損害:
約束をされた側がその信頼に基づいて行動した結果、損害を被ったこと。

衡平性(公平性):
約束を強制することが衡平(公平)であること。

Promissory Estoppel(約束的禁反言)は、厳格なConsideration(約因)の原則を修正するとともに、不公正な結果を防ぐために用いられます。

例えば、無償の約束であっても、相手がそれを信じて多額の投資をした場合などに、約束をした者が一方的に撤回することを許さないことがあります。

6.まとめ

Consideration (約因)は、英文契約の根幹をなす重要な概念であり、契約が法的に拘束力を持つための鍵となります。

単なる合意だけでなく、当事者間での相互の利益や負担が求められる点を理解することが不可欠です。

日本法には直接的な対応概念がないため、その違いを意識し、具体的な事例や契約書の表現を通して理解を深めることが重要です。

また、Consideration(約因)の原則には、Promissory Estoppel(約束的禁反言)という例外的な法理も存在することを覚えておきましょう。

英文契約を扱う際には、このConsideration (約因)の有無を常に意識することが、契約リスクを適切に管理する上で不可欠と言えます。

特に、有効なConsideration(約因)が存在しない場合、その契約は原則として法的な拘束力を持たないという重大なリスクがあります。こ

れは、単に、対価が支払われない、という問題だけでなく、契約そのものが無効となり、当事者の意図した法的効果が発生しないという事態を招きかねません。

そのため、契約締結時には、当事者間で適切かつ有効なConsideration(約因)が交わされているかを慎重に確認する必要があります。

 

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