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英文契約書の一般条項である Jurisdiction(裁判管轄条項)について、とりあげます。併せて、Jurisdiction(裁判管轄条項)の例文をとりあげ対訳をつけました。例文中の基本表現に注記を入れました。
1.解説:
1) Jurisdictionとは
Jurisdictionは、裁判管轄を意味します。
そして英文契約書に置かれるjurisdiction(裁判管轄条項)とは、
訴訟を管轄する裁判所を、どこの国または地域(例えば米国であればどこの州)の裁判所の管轄にするか、の当事者間の合意
について記載した条文のことをいいます。
2)settlement of dispute(紛争解決)との関係
英文契約書で、settlement of dispute(紛争解決)について取り決める場合は、紛争解決のための手段として、通常、
arbitration(仲裁) と
jurisdiction(裁判管轄)
のどちらかを選択することになります。
arbitration(仲裁) を選択すると、紛争の解決を第三者の仲裁機関にゆだねて、その仲裁判断に従う旨の合意をします。
jurisdiction(裁判管轄)を選択すると、訴訟によって解決を図るため、訴訟を管轄する裁判所をどこにするかの裁判所の管轄について合意をすることになります。
(注記):
次の項目2のパートでとりあげたJurisdiction(裁判管轄条項)の例文①は、裁判管轄と仲裁の両方を認めるパターンになっています。
Jurisdiction(裁判管轄条項)の例文②と例文③が、裁判管轄のみのパターンです。
3)jurisdiction(裁判管轄条項)の重要性
紛争解決の効率化:
紛争が生じた場合、どの裁判所に訴訟を提起すべきかが明確となり、訴訟手続きの遅延や混乱を回避することができます。
予見可能性の向上:
当事者は、紛争が生じた場合に適用される国または地域の法制度を事前に知ることができるため、契約締結時にリスクを適切に判断することができます。
国際取引における重要性:
国際取引においては、異なる法制度が適用される可能性があるため、裁判管轄権条項を明確に定めることが重要です。
4)exclusive jurisdiction(専属裁判管轄)とnon-exclusive jurisdiction(非専属裁判管轄)とは
exclusive jurisdictionは、
特定の裁判所による裁判管轄について合意を目的とする専属裁判管轄
を意味します。(下記の例文②をご覧ください)
non-exclusive jurisdictionは、
特定の裁判所以外に、他の裁判所への提訴も認める非専属裁判管轄
を意味します。(下記の例文③をご覧ください)
5)契約レビューの重要ポイント:裁判管轄条項の選択と戦略
Jurisdiction(裁判管轄条項)は、紛争が発生した際に「どこで、どのようなルールで争うか」を事前に定める、極めて戦略的な条項です。
この条項の選択は、コスト、時間、結果の予測可能性、そして自社にとっての有利・不利に直接影響するため、契約レビュー時には以下の点を徹底的に検討することが不可欠です。
ア.専属管轄(Exclusive Jurisdiction)と非専属管轄
(Non-Exclusive Jurisdiction)の選択
なぜ問題になるのか?:
どちらを選択するかによって、将来の訴訟戦略が大きく変わります。
誤った選択は、不利益な場所での訴訟や予期せぬコストにつながります。
確認すべきポイント:
専属管轄(例文②):
メリット:
紛争発生時に訴訟を提起できる裁判所が特定されるため、予見可能性が高まり、相手方の「奇襲」的な提訴を防げます。
また、訴訟が集中するため、法廷戦略を立てやすいです。
デメリット:
相手方が自社の指定した裁判所で訴訟を提起しない場合、自社が相手方の所在地の裁判所で提訴せざるを得なくなる可能性があります。
自社にとって地理的に遠い、あるいは法制度が不利な場所が指定された場合、コストや労力が大きく増加します。
戦略:
一般的に、紛争解決のコントロールを維持したい当事者(例:頻繁に契約を締結する大企業、有利な法制度を持つ国の企業)が自国の裁判所を専属管轄とすることを求めます。
非専属管轄(例文③):
メリット:
指定された裁判所以外の、他の管轄権を有する裁判所でも提訴が可能となるため、柔軟な対応が可能です。
相手方の所在地や資産がある場所で提訴できる選択肢が残ります。
デメリット:
訴訟を提起される可能性がある裁判所が複数存在するため、予見可能性が低下し、相手方による「フォーラム・ショッピング(当事者に有利な裁判所を選択すること)」のリスクが生じます。
戦略:
一般的に、どちらか一方の当事者が優位に立たない、あるいは柔軟性を重視したい場合に用いられます。
イ.具体的な裁判所の特定
なぜ問題になるのか?:
「〇〇国の裁判所」といった漠然とした指定では、その国の中に複数の裁判所が存在する場合に曖昧さが残ります。
特に米国のように連邦制の国では、州裁判所と連邦裁判所があり、さらに州内にも複数の地方裁判所があります。
確認すべきポイント:
「State of California」の「County of Orange」の「Courts」(例文①)や「Tokyo District Court」(例文②)、あるいは「any State or Federal Court of competent jurisdiction located within the State of New York」(ニューヨーク州内に所在する正当な管轄権を有する州又は連邦裁判所、例文③)のように、国、州(米国の場合)、郡(必要であれば)、および裁判所の種類(例:地方裁判所)まで具体的に指定されているかを確認しましょう。
ウ.適用法(Governing Law)条項との整合性
なぜ問題になるのか?:
裁判管轄条項と適用法条項(契約の解釈に適用される法律を定める条項)は密接に関連しています。
例えば、日本の裁判所を管轄としながら、適用法をニューヨーク州法とすると、日本の裁判所がニューヨーク州法を解釈・適用することになり、双方にとって専門性とコストの負担が増える可能性があります。
確認すべきポイント:
原則として、裁判管轄地と適用法を一致させることが望ましいです。
これにより、裁判所の専門性が確保され、紛争解決が効率的になります。
エ.仲裁条項(Arbitration Clause)との関係
なぜ問題になるのか?:
裁判管轄条項は、訴訟を前提としていますが、仲裁を選択する場合、仲裁地や仲裁機関を定める仲裁条項を設けることになります。
両者が併存する場合、どちらが優先するのか、またはどのように使い分けるのかが不明確だと混乱が生じます。
確認すべきポイント:
・「resolution of all legal disputes arising under the terms of this Agreement, including, but not limited to, enforcement of any arbitration award」(本契約の条件に関わり生じるすべての法的紛争の解決については、仲裁判断の執行を含みこれに限定されず、カリフォルニア州オレンジ郡の裁判所の裁判管轄に服するものとする。例文①)のように、仲裁判断の執行については裁判所の管轄に服する旨が明確に規定されているか確認しましょう。
これは、仲裁判断には執行力がないため、裁判所の判決を通じて強制執行する必要がある場合に備えるものです。
・仲裁を主たる紛争解決手段としつつ、特定の事項(例:秘密保持義務違反に対する差止請求、少額訴訟)については裁判所での訴訟を許容するなど、両者の関係が明確にされているか確認しましょう。
オ.外国判決の執行可能性
なぜ問題になるのか?:
特定の国や地域の裁判所で判決を得たとしても、相手方がその国に資産を持たない場合、判決を相手方の本国で執行できるかが問題になります。
これは、国によって外国判決の承認・執行に関するルールが異なるためです。
確認すべきポイント:
・もし相手方の本国が、自社が指定する裁判所の判決をスムーズに執行しない可能性がある国である場合、裁判管轄の再検討や、仲裁の利用を検討することも戦略の一つとなります。
Jurisdiction 条項は、契約の履行期間中はあまり意識されないかもしれませんが、「いざ」という時の企業の命運を握る条項です。
契約締結時には、紛争が発生した場合のシナリオを具体的に想定し、自社にとって最も有利かつ実現可能性の高い管轄地を選択できるよう、戦略的な視点を持ってレビューすることが極めて重要となります。
■ 実務での活用法と注意点:
2.例文と基本表現:
1) jurisdiction(裁判管轄)- 例文①
jurisdiction(裁判管轄)の規定ですが、arbitration(仲裁) も認めているパターンです。
The parties submit to the jurisdiction of the Courts of the County of Orange, State of California for the resolution of all legal disputes arising under the terms of this Agreement, including, but not limited to, enforcement of any arbitration award.
(訳):
両当事者は、本契約の条件に関わり生じるすべての法的紛争の解決については、仲裁判断の執行を含みこれに限定されず、カリフォルニア州オレンジ郡の裁判所の裁判管轄に服するものとする。
(注):
*submit to the jurisdictionは、裁判管轄に服するという意味です。
*including, but not limited toは、を含みこれに限定されないという意味です。詳しくは、including, but not limited to/including, without limitationの意味と例文をご覧ください。
*enforcementは、執行という意味です。
*arbitration awardは、仲裁判断という意味です。
2) exclusive jurisdiction(専属裁判管轄)- 例文②
特定の裁判所(東京地方裁判所)による専属裁判管轄です。
All disputes arising from this Agreement shall be subject exclusively to the jurisdiction of Japan and will be brought to the Tokyo District Court as the court of exclusive jurisdiction for the first trial.
(訳):
本契約に起因するすべての紛争は、専属的に日本の管轄権の対象となり、第一審の専属管轄裁判所として東京地方裁判所に提起されるものとする。
(注):
*arising fromは、~に起因する、~から生じるという意味です。
*be subject exclusively to the jurisdiction of Japanは、専属的に日本の管轄権の対象となるという意味です。
*the Tokyo District Courtは、東京地方裁判所のことをいいます。
*the court of exclusive jurisdictionは、専属管轄裁判所という意味です。
*the first trialは、第一審(=訴訟について最初の審級の裁判所が行う裁判)という意味です。
3) non-exclusive jurisdiction(非専属裁判管轄)- 例文③
特定の裁判所以外に、他の裁判所への提訴も認める非専属裁判管轄です。(ニューヨーク州所在の州裁判所または連邦裁判所)
The parties to this Agreement hereby consent to the non-exclusive jurisdiction of any State or Federal Court of competent jurisdiction located within the State of New York, in connection with any actions or proceedings arising directly or indirectly from this Agreement.
(訳):
本契約の当事者は、本契約から直接的又は間接的に生じる訴訟又は訴訟手続きに関連して、ニューヨーク州内に所在する正当な管轄権を有する州又は連邦裁判所の非専属裁判管轄権に同意する。
(注):
*the non-exclusive jurisdictionは、非専属裁判管轄権という意味です。
*competent jurisdiction は、正当な管轄権を有する(裁判所)という意味です。
*in connection with は、~に関連してという意味です。
*any actions or proceedingsは、訴訟又は訴訟手続きという意味です。proceedingsについては、詳しくは、proceedingsの意味と例文をご覧ください。
*arising directly or indirectly from this Agreementは、本契約から直接的又は間接的に生じるという意味です。
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