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英文契約書において期限利益喪失の条項として規定されるAccelerationについて解説します。Accelerationとは具体的にどのような内容なのかについて、例文をとりあげて対訳をつけました。例文中の基本表現に注記を入れました。
1.解説:
1)Accelerationとは
Accelerationは、日常の使い方では、加速すること、早めることという意味です。
英文契約書においてAccelerationは、
期限の利益喪失(=債務の支払い期限を早める、繰り上げる)
という意味で使用されます。
もう少し詳しく言うと期限の利益喪失とは:
『金銭の借主に、債務不履行事由(Event of Default)が発生した場合には、
貸主からの一方的な通知のみで、または
重大な債務不履行の場合には何らの通知も必要としないで、
債務の支払い期限を早める(accelerate)ことにより、
借主の期限の利益を喪失させて、直ちに支払い期限が到来する(immediately due and payable)』
ことを意味します。
(ご参考):期限の利益が何かについては、こちらをご覧ください。
Acceleration(期限の利益喪失)の原因となるEvent of Default(債務不履行事由)には、以下のような事柄が挙げられます:
①借入金の元本全額の弁済がない
②利息や未払金の遅延
③借主の債務の競売申立て、破産手続き開始申立て、民事再生手続き開始申立て、会社更生手続き開始の申立て
④借主の債務の仮差押え、差押え、仮処分
⑤手形や小切手の不渡り
④その他の債務不履行が一定期間、是正されない、など。
Acceleration(期限の利益喪失)は、次の項目2)で解説する
Loan Agreement(金銭消費貸借契約、貸付契約)の主要条項
として設けられます。
2)Loan Agreementとは
Loan Agreementとは 金銭の貸付や借入を目的とする英文契約書で、
金銭消費貸借契約、貸付契約、ローン契約
などと訳されます。
Acceleration Clause(期限の利益喪失条項)は、Loan Agreement(金銭消費貸借契約、貸付契約)の主要条項として規定されます。
(ご参考):主要条項について、くわしくは、
英文契約書の構成(structure of contract)
General Provisions(一般条項)とPrincipal provisions (主要条項)
をご覧ください。
3)一般の英文契約書とAcceleration(期限の利益喪失)
Acceleration(期限の利益喪失)は、Loan Agreement(金銭消費貸借契約、貸付契約)以外の一般の英文契約書においても、Acceleration(期限の利益喪失)がよく登場します。
一般の英文契約書おいてAcceleration(期限の利益喪失)が規定される場合は、
単独のAcceleration Clause(期限の利益喪失条項)としてではなく、通常、Termination(契約解除条項)の中に一緒にセットで盛り込まれて記載されます。
Termination(契約解除条項)の中で、
『債務者にEvent of Default(債務不履行事由)が生じたことにより、その債務者は期限の利益を喪失する』
というように表現されます。(以下の例文③をご覧ください)
(ご参考):Event of Default(債務不履行事由)について、詳しくは、Event of Default(債務不履行事由の条項)の解説と例文をご覧ください。
4)Acceleration(期限の利益喪失条項)における実務上の重要点と交渉の視点
Acceleration条項は、貸主(債権者)にとっては債務者(借主)が債務不履行に陥った際に、未回収のリスクを最小限に抑え、迅速な債権回収を図るための強力な武器となります。
一方で、債務者にとっては、些細な不履行が事業全体に深刻な影響を及ぼすリスクがあるため、慎重な交渉が求められます。
ア.Event of Default(債務不履行事由)の具体的な定義と範囲
Accelerationの引き金となるEvent of Defaultの定義は、条項の効力と債務者への影響を大きく左右するため、最も重要な交渉ポイントの一つです。
重要性の程度:
軽微な違反(Minor Breach)と重大な違反(Material Breach)の区別を明確にします。
例えば、単なる報告義務の遅延と、金銭債務の不履行では、その重大性が異なります。
Accelerationは通常、重大な債務不履行事由に限定されるべきです。
是正期間(Cure Period)の有無と設定:
金銭債務の不履行など、一部の重大な債務不履行事由を除き、債務者に対して不履行を是正するための合理的な期間(Cure Period)を設けることが一般的です。
この期間内に是正されれば、Accelerationは発動しないことになります。
例えば、「書面による通知後、30日以内に当該不履行が是正されない場合」といった文言です。
この是正期間の長さは、債務者側が最も交渉したい点の一つです。
客観的な基準の設定:
Event of Defaultの定義は、客観的に判断できる基準を用いるべきです。
例えば、「債務者の事業に重大な悪影響が生じた場合」といった主観的な表現は避け、「純資産が〇〇円を下回った場合」のような具体的な数値基準を用いることが望ましいです。
イ.Acceleration発動のトリガーと通知の要否
Accelerationが「自動的に発動するのか(automatic)」、それとも「債権者の選択により発動するのか(at the option of Lender)」は、債務者にとって極めて重要な違いです。
自動発動(Automatic Acceleration):
これは貸主にとって最も強力な形態であり、特定のEvent of Default(例:破産手続きの開始、支払停止)が発生した瞬間に、貸主からの通知や意思表示なしに、全ての債務が期限の利益を喪失し、直ちに支払期限が到来します。
債務者にとっては非常に厳しい条件ですが、貸主の迅速な債権保全には有利です。
裁量による発動(Optional Acceleration):
より一般的な形態であり、Event of Defaultが発生しても、貸主が「選択すれば(at the option of Lender)」、または「通知を発することにより(upon notice from Lender)」Accelerationが発動します。
これにより、貸主は債務者の状況や不履行の軽重を判断し、柔軟に対応する裁量を持つことができます。
債務者としては、この「通知」を受ける権利を確保することが重要です。
通知(Notice)の要否:
例文①にあるように、「without presentment, demand, protest or any other notice of any kind, all of which are hereby expressly waived(提示、要求、抗議その他の何らの通知を要せず、それらすべては明示的に放棄され)」といった表現は、債務者にとっては極めて不利です。
債務者としては、原則として書面による事前通知を受ける権利を主張すべきです。
ウ.Accelerationの対象となる債務の範囲
Acceleration条項によって、どの債務が期限の利益を喪失するのかを明確に定義することも重要です。
全ての債務か、特定の債務か:
通常は「全ての未払い債務(all outstanding Obligations)」が対象となりますが、契約によっては特定の債務に限定されることもあります。
元本、利息、費用等:
単に元本だけでなく、未払い利息、遅延損害金、貸主が債権回収のために要した弁護士費用や裁判費用などもimmediately due and payableとなる旨を明記することが多いです。
これは、貸主が実質的に被る損害の全てを回収できるようにするためです。
エ.一般契約におけるAccelerationの意図
Loan Agreement以外の、例えば販売店契約や製造委託契約のような一般の契約でAccelerationの概念が使われる場合、それは金銭債務に限定されることがほとんどです。
未払金債務の繰り上げ:
例えば、製品の代金、ライセンス料、サービス報酬など、契約に基づき相手方に支払うべき「未払い金債務」について、相手方の重大な契約違反や破産等が発生した場合に、本来の支払期限に関わらず、直ちに全額の支払いを求める旨が規定されます。
これは、損害賠償請求とは別に、既に発生している金銭債務の回収を迅速化するためのものです。
解除(Termination)との関係:
一般の契約では、Event of Defaultが発生した場合、まず契約解除の権利が発生し、その解除の結果として発生する金銭債務(例:解除時までの未払い金)がAccelerationの対象となる、という流れが一般的です。
解除権と期限の利益喪失をセットで規定することで、債権者はより強力な権利を行使できます。
Acceleration条項は、債務不履行時の契約関係を大きく左右する強力な条項であり、その影響は契約当事者の財務状況や事業継続にまで及びます。
そのため、契約を締結する際には、自社の立場(債権者か債務者か)を明確にし、上記のような点を踏まえて、リスクと利益のバランスを慎重に検討し、交渉に臨むことが不可欠です。
2.例文と基本表現:
(注):以下に示したAcceleration(期限の利益喪失)の例文①と例文②と例文③は、いずれもEvent of Default(債務不履行事由)の部分を略しています。Event of Default(債務不履行事由)の例文は、こちらをご覧ください。
(注):キーフレーズのEvent of Defaultとimmediately due and payableを青文字で示し、その他の基本表現をハイライトして語注を入れています。
1)Acceleration(期限の利益喪失)- 例文①
Loan Agreement(金銭消費貸借契約、貸付契約)からです。直ちに支払い期限が到来するという訳は、 ( )内の表記のように期限の利益を喪失すると言い換えることもできます。
Upon the occurrence or existence of any Event of Default described in Section 8(1)and(2), automatically and without notice or, at the option of Lender, upon the occurrence of any other Event of Default, all outstanding Obligations payable by Borrower hereunder shall become immediately due and payable, without presentment, demand, protest or any other notice of any kind, all of which are hereby expressly waived, anything contained herein or in the other Loan Documents to the contrary notwithstanding.
(訳):
第8条第1項第2項の債務不履行事由が発生若しくは存在した場合には、自動的かつ催告なしに、又は貸主の選択によりその他の債務不履行事由が発生した場合にも、借主が支払うべき全ての未払い債務は、提示、要求、抗議その他の何らの通知を要せず、それらすべては明示的に放棄され、本契約若しくは他の貸付文書の別段の定めにかかわらず、直ちに支払い期限が到来する(=期限の利益を喪失する)ものとする。
(注):
*Upon the occurrence or existence ofは、~が発生若しくは存在した場合にはという意味です。
*without noticeは、催告なしに、事前通知なしにという意味です。
*Event of Defaultは、債務不履行事由を意味します。
*all outstanding Obligations payable by Borrowerは、all outstanding Obligations(全ての未払い債務)とpayable by Borrower(借主が支払うべき)の組み合わせで、借主が支払うべき全ての未払い債務という意味です。
*immediately due and payableは、直ちに支払い期限が到来するの意味です。詳しくは、due and payableの意味と例文をご覧ください。
*without presentment, demand, protest or any other noticeは、提示、要求、抗議その他の通知を要せずという意味です。
*of any kindは、いかなる種類の、何らの(通知)という意味です。
*all of which are hereby expressly waivedは、それらすべては明示的に放棄されるという意味です。
*anything contained herein or in the other Loan Documentsは、ここでは本契約若しくは他の貸付文書という意味です。
*to the contrary notwithstanding は、~の別段の定めにかかわらずの意味です。詳しくは、notwithstandingの意味と例文をご覧ください。
2)Acceleration(期限の利益喪失)- 例文②
Loan Agreement(金銭消費貸借契約、貸付契約) からです。 直ちに支払い期限が到来するという訳は、( )内の表記のように期限の利益を喪失すると言い換えることもできます。
Upon the occurrence of an Event of Default, the entire principal amount shall immediately become due and payable by Borrower, regardless of the original due date, without the need for any demand or notice from Lender. Upon the occurrence of an Event of Default referenced in Clauses (2), (3), or (4) of Article 5, (i) Borrower shall promptly notify Lender of the relevant circumstances, and (ii) if Lender has not yet transferred the Loan Amount to Borrower as provided for in Article 3, Lender shall have the right to terminate this Agreement with immediate effect upon written notice to Borrower.
(訳):
債務不履行事由が発生した場合は、元本の期日に関係なく、貸主からの催告又は通知を何ら必要とせず、借主が負う元本全額について支払い期限が直ちに到来する(=期限の利益を喪失する)ものとする。 第5条第2項、第3項又は第4項の債務不履行事由が発生した場合は、(i)借主は、直ちに当該事由を貸主に通知し、(ii)借主が第3条で規定する借入金をまだ貸主に送金していない場合は、貸主は、借主に対する書面通知により直ちに本契約を解除する権利を有する。
(注):
*Upon the occurrence ofは、~が発生した場合はという意味です。
*the entire principal amountは、元本全額という意味です。
*the original due dateは、直訳すると当初の支払い期日ですが、文脈より元本の期日と訳しています。
*demand or noticeは、催告又は通知という意味です。
*the relevant circumstancesは、直訳すると関連する状況ですが、文脈より意訳(当該事由)しています。
*the Loan Amountは、直訳すると融資額ですが、金銭消費貸借契約なので、単に借入金と訳しています。
*as provided for inは、~で規定するという意味です。
*terminateは、解除するという意味です。くわしくは、terminateとexpireの意味と例文をご覧ください。
*with immediate effectは、直ちにという意味です。詳しくは、こちらをご覧ください
*upon written notice toは、に対する書面通知によりという意味です。
3)Acceleration(期限の利益喪失)- 例文③
販売店契約のTermination(契約解除条項)からです。Acceleration(期限の利益喪失)が盛り込まれています。 直ちに支払い期限が到来するという訳は、( )内の表記のように期限の利益を喪失すると言い換えることもできます。
If this Agreement is terminated in accordance with Article 8.3, or if a Party is subject to any of the circumstances listed in Article 8.4, any amounts owed by the breaching/Insolvent Party to the other Party hereunder shall become immediately due and payable, regardless of the original due date.
(訳):
本契約が第8.3項条に従って解除されたとき、又は相手方が第8.4条のいずれかに該当するとき、債務不履行当事者/支払不能当事者は、他方当事者に対する一切の債務につき、当初の支払い期限にかかわらず、支払い期限が直ちに到来する(=期限の利益を喪失する)ものとする。
(注):
*in accordance withは、~に従ってという意味です。
*is subject to any of the circumstancesは、直訳するといずれかの状況の対象となるですが、いずれかに該当すると訳しています。is subject toは、~の対象となるという意味です。
*any amounts owed byは、直訳すると~が負担しているいくらかの金額でもですが、文脈より一切の債務と訳しています。
*the breaching/Insolvent Partyは、債務不履行当事者/支払不能当事者という意味です。
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