英文と日本語のビジネス契約書の作成・チェック(レビュー)・翻訳の専門事務所です。(低料金、全国対応)
英文契約書の 一般条項として設けられるArbitration(仲裁条項)について解説します。いくつかの一般的な例文をとりあげ、要点と対訳と語注をつけました。
1.解説:
1) Arbitration(仲裁条項)とは
国際的な取引において紛争が生じた場合は、紛争解決の手段として、
・arbitration(仲裁) と
のどちらかを選択することになります。
arbitration(仲裁) を選択した場合、紛争の解決を第三者である仲裁機関にゆだねて、その仲裁判断に従う旨の合意をします。
なお、仲裁とは、
当事者が紛争の解決を、第三者である仲裁機関(仲裁人)の判断にゆだね、それに従うことを予め合意して行なわれる紛争解決の手続き
のことをいいます。
そして、英文契約書において当事者が仲裁手続きに付することに合意することを取り決めた条文が Arbitration(仲裁条項)です。
2) arbitration(仲裁) のメリット
arbitration(仲裁) は、主に、以下のメリットが挙げられています。
・執行力:
裁判所の判決は、承認を得なければ他国で執行できません。
これに対して、日本を含め、世界の主要国が加盟するニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)の加盟国で行われた仲裁は、他の加盟国でも執行が可能とされています。
これにより、国際取引における判断の実現可能性が高まります。
・非公開:
裁判は、原則として公開されます。
他方、仲裁では多くが非公開であり、企業は、機密保持や企業イメージへの影響を最小限に抑えることができます。
特に、企業秘密や顧客情報に関わる紛争において重要です。
・紛争解決の時間:
裁判と異なり、仲裁判断は上訴ができないため、短期間に紛争を解決できるといわれています。
長期化しがちな国際訴訟に比べ、迅速な解決が期待できます。
3) arbitration(仲裁) のデメリット
これらに対して、仲裁もデメリットがあります。
・裁判よりもコストがかかる:
仲裁機関への費用、仲裁人の報酬など、訴訟に比べて初期費用が高くなる場合があります。
・仲裁人の判断により、その裁定がどうなるかの予測が裁判より難しいことがある:
仲裁人の専門性や判断基準が、裁判官のそれとは異なる場合があり、結果の予測が難しいと感じることがあります。
また、判例の蓄積が裁判ほどないため、不確実性が生じることもあります。
などが挙げられています。
4)Arbitration(仲裁条項)の内容
英文契約書における Arbitration(仲裁条項)では、
・仲裁機関
・仲裁人の人数
・仲裁地
・使用言語
・費用負担
などが規定されます。
国際的な仲裁機関はいくつかあります。
次のパートでとりあげたArbitration(仲裁条項)の例文では、仲裁機関として、
・日本商事仲裁協会(JCAA:the Japan Commercial Arbitration Association)(例文①)
・国際商工会議所(ICC:the International Chambers of Commerce)(例文②と例文③)
・米国仲裁協会(AAA:the American Arbitration Association)(例文④)
を規定してます。
他に、日本企業がアジア地域でビジネスする場合によく利用される仲裁機関として、
・シンガポール国際仲裁センター(SIAC: Singapore International Arbitration Centre)
があります。
5)契約レビューの重要ポイント:仲裁条項の策定と
戦略的活用
Arbitration(仲裁条項)は、国際取引における紛争解決の中心的手段であり、その内容の吟味は、将来の紛争発生時のコスト、時間、そして結果に直接的な影響を及ぼします。
適切な仲裁条項を策定することは、単に紛争を解決するだけでなく、リスクを管理し、ビジネス関係を保護する上で極めて重要です。
以下の点に細心の注意を払いましょう。
ア.仲裁機関の選定
なぜ問題になるのか?:
どの仲裁機関を選ぶかによって、仲裁規則、費用、仲裁人の質、裁定の執行可能性が大きく異なります。
自社にとって不利な機関を選んでしまうと、紛争解決に多大な労力と費用がかかる可能性があります。
確認すべきポイント:
国際的な信頼性と中立性:
国際的に広く利用され、中立性が高く評価されている機関(ICC, SIAC, JCAA, AAAなど)を選びましょう。
相手方の国に偏りのない機関が望ましいです。
規則の理解:
各機関の仲裁規則(例えば、緊急仲裁人、迅速仲裁手続きの有無など)を事前に理解し、自社のニーズに合致しているかを確認しましょう。
専門性:
紛争の内容(例:IT、建設、知的財産など)に応じて、その分野に専門知識を持つ仲裁人名簿を持つ機関を選ぶと、より的確な判断が期待できます。
イ.仲裁地の選定
なぜ問題になるのか?:
仲裁地(The seat of the arbitration)は、仲裁手続に適用される法律(仲裁法)、仲裁判断の取消しを求める裁判所の管轄、そして仲裁判断の執行可能性に直接影響します。
確認すべきポイント:
ニューヨーク条約加盟国:
仲裁地は、ニューヨーク条約に加盟している国を選びましょう。
これにより、仲裁判断が国際的に執行可能となります。
中立性:
当事者双方にとって中立的な国を選ぶことが望ましいです。
法制度の安定性:
仲裁法が整備されており、法制度が安定している国を選びましょう。
例えば、シンガポール、ロンドン、パリ、東京などがよく利用されます。
地理的・言語的利便性:
紛争発生時の当事者の出張コストや言語の壁を考慮し、地理的にアクセスしやすく、使用言語に不便がない場所を選ぶことも実務上重要です。
ウ.仲裁人の人数と選任方法
なぜ問題になるのか?:
仲裁人の人数(単数か複数か)や選任方法は、仲裁手続きのスピード、コスト、そして判断の質に影響します。
確認すべきポイント:
人数:
単数(one arbitrator):
小額の紛争や迅速な解決を求める場合に適しています。
コストが抑えられます。
複数(three arbitrators):
複雑な紛争や多額の請求の場合に適しています。
判断の公平性が高まる傾向がありますが、コストも増加します。
選任方法:
仲裁機関の規則に従うことが多いですが、当事者間で選任方法(例:各当事者が1名ずつ選任し、その2名で主審を共同選任するなど)を合意することも可能です。
自社にとって公平な選任プロセスとなるよう確認しましょう。
エ.仲裁言語と準拠法
なぜ問題になるのか?:
仲裁言語は、提出文書、証言、仲裁判断に影響します。
また、契約の準拠法(Governing Law)は、契約の内容自体を解釈する際に適用される法律であり、仲裁手続きの進行とは別の概念ですが、密接に関連します。
確認すべきポイント:
仲裁言語:
当事者双方が理解できる言語(通常は英語)を指定しましょう。
これにより、通訳費用や誤解のリスクを減らせます。
準拠法:
仲裁条項自体と、契約全体の準拠法を明確に指定しましょう。
これらが一致していると、仲裁人が判断しやすくなります。
準拠法は、一般的に法制度が安定しており、国際商取引の判例が豊富な国(例:英国法、ニューヨーク州法)が選ばれることが多いです。
オ.仲裁費用負担
なぜ問題になるのか?:
仲裁費用は高額になる可能性があるため、その負担方法が明確でないと、紛争発生時に不必要な争いが生じます。
確認すべきポイント:
「costs will be divided evenly between the Parties」(費用は両当事者間で均等に分割される – 例文④)のように、費用の分担方法が明確に規定されているかを確認しましょう。
「敗訴者負担(loser pays)」の原則を適用するか、均等負担とするかなど、事前に合意しておくことが重要です。
Arbitration(仲裁条項)は、国際取引におけるリスクマネジメントの中核をなす条項です。
契約レビュー時には、単にテンプレートを貼り付けるのではなく、紛争の種類、金額、相手方の属性、そして自社の戦略を深く考慮し、カスタマイズされた仲裁条項を策定することが、ビジネスの安定的な発展と国際競争力維持のために不可欠となります。
※実務上の視点:
仲裁条項(Arbitration)は、国際取引において契約上の紛争が生じた場合に、国家の裁判所による公的な裁判ではなく、民間の中立的な第三者機関に最終判断を委ねることをあらかじめ合意しておく一般条項という条項タイプ(clause type)であり、万が一の紛争時において「一審限りで上訴のないスピーディーな確定判断(裁定)を得るとともに、手続きの非公開性を活かして企業の機密情報やレピュテーション(企業名誉)を完全に保護する機能(specific function)」を担っています。
リーガルチェックの際は、この条項が自社に「どのような手続的なコントロール権や、判決の強制執行における実効性という権利(rights of use)」を付与しているかを精査します。
具体的には、自社が相手国の不慣れな裁判所での不公平な審理や、外国判決の強制執行が拒絶されるリスクを徹底的に排除したい立場であれば、国際的な執行力を確保するために「ニューヨーク条約加盟国である中立地を仲裁地(The seat)として指定し、自国語や英語での迅速な手続きによって相手方を拘束する権利(rights of use)」(例文1、例文3)を確実に確保します。
逆に、予測される紛争の規模が小さく、手続きの重厚さよりもコストの肥大化を抑えたい立場であれば、過度な金銭負担を防ぐための防衛線として「仲裁人の数を合理的に1名に制限し、かつ発生した手続き費用を双方で均等に折半する権利(rights of use)」(例文2、例文4)を戦略的に組み込んでおくことが、国際ビジネスにおける紛争解決の実効性を最大化するための必須の設計となります。
裁判管轄(Jurisdiction)と 仲裁(Arbitration)の比較:
英文契約の実務において、紛争解決条項を設計する際に最も基本的な選択となる「裁判管轄(Jurisdiction)」と「仲裁(Arbitration)」の本質的な違いと選択基準を整理しておくことは非常に重要です。
-
-
裁判管轄(Jurisdiction):国家の司法権を利用する手続き
-
特徴: 三審制による慎重な審理が受けられる点や、予見可能性が高い点がメリットですが、原則として「裁判が公開されるリスク」があります。また、最大のリスクは、日本(または相手国)の裁判所が下した判決が、相手国の法域でそのまま通用する(強制執行できる)とは限らない点にあります(二国間の条約がない場合、外国判決の執行は極めて困難になります)。
-
-
仲裁(Arbitration):民間の独立した解決機関を利用する手続き
-
特徴: 一審限りで上訴ができないため「迅速な解決」が可能であり、原則「完全非公開」で進められるため企業秘密が守られます。そして最大の強みは、世界170カ国以上が加盟する『ニューヨーク条約』により、加盟国間であれば外国で下された仲裁判断であっても、現地の資産に対して強力に強制執行をかける権利(rights of use)が国際的に担保されている点にあります。
-
-
【選択の指針】
相手方の国が「外国の裁判所の判決」を素直に受け入れない可能性が高い法域(アジア、中東、新興国など)である場合や、紛争の内容に高度な技術秘密が含まれる場合は、迷わず「仲裁(Arbitration)」を選択すべきです。
一方で、契約の規模が小さく、仲裁機関に支払う高額な初期費用(予納金や仲裁人報酬)が割に合わないと判断される場合は、費用を抑えられる「裁判管轄(Jurisdiction)」を選択して自国の地方裁判所を指定するのが実務上の定石となります。
2.例文と基本表現:
1)Arbitration(仲裁条項)- 例文①
日本商事仲裁協会の商事仲裁規則、仲裁地は東京です。
All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this contract shall be finally settled by arbitration in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association. The place of the arbitration shall be Tokyo, Japan.
(訳):
本契約に起因又は関連して生じるすべての紛争、論争又は意見の相違は、日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。 仲裁地は日本の東京とする。
(注):
*disputes, controversies, differencesは、それぞれ、紛争、論争、意見の相違という意味です。
*arising out of or in connection withは、に起因又は関連して生じるという意味です。くわしくは、arising out ofとarising fromの意味と例文をご覧ください
*the Commercial Arbitration Rulesは、商事仲裁規則という意味です。
*in accordance withは、に従ってという意味です。
2)Arbitration(仲裁条項)- 例文②
国際商工会議所の仲裁規則、一人又は複数の仲裁人です。
All disputes arising out of or in connection with the present contract shall be finally settled under the Rules of Arbitration of the International Chamber of Commerce by one or more arbitrators appointed in accordance with the said Rules.
(訳):
現在の契約に起因又は関連するすべての紛争は、国際商工会議所の仲裁規則に従って、当該規則に従って任命された1人又は複数の仲裁人により、最終的に解決されるものとする。
(注):
*arbitratorsは、仲裁人という意味です。
*in accordance withは、に従ってという意味です。
3)Arbitration(仲裁条項)- 例文③
国際商工会議所の仲裁規則、3人の仲裁人、仲裁地はパリ、仲裁言語は英語です。
Any disputes, controversy or claim arising out of or in relation to this Agreement, including the validity, invalidity, breach or termination thereof, shall be finally settled under the Rules of Arbitration of the International Chambers of Commerce by three arbitrators appointed in accordance with the said Rules. The seat of the arbitration shall be Paris, France. The arbitral proceedings shall be conducted in English.
(訳):
有効性、無効性、違反又は契約解除を含み、本契約に起因又は関連する紛争、論争又は請求は、国際商工会議所の仲裁規則に基づき、当該仲裁規則に従って任命された3名の仲裁人により最終的に解決されるものとする。 仲裁地はフランスのパリとする。仲裁手続は英語で行われるものとする。
(注):
*validity, invalidity, breach, terminationは、それぞれ、有効性、無効性、違反、契約解除という意味です。
*The seat of the arbitrationは、仲裁地という意味です。
*The arbitral proceedingsは、仲裁手続という意味です。proceedingsについては、くわしくは、proceedingsの意味と例文をご覧ください。
4)Arbitration(仲裁条項)- 例文④
米国仲裁協会の商事仲裁規則、費用は均等に分担です。
In the event of any dispute between the Parties which arises under this Agreement, such dispute shall be settled by confidential arbitration in accordance with the rules for commercial arbitration of the American Arbitration Association in effect at the time such arbitration is initiated. In the event that Arbitration is needed, the costs will be divided evenly between the Parties.
(訳):
本契約に基づき当事者間で紛争が生じた場合、かかる紛争は、仲裁が開始された時点で有効な米国仲裁協会の商事仲裁規則に従って、秘密仲裁により解決されるものとする。 仲裁が必要な場合、費用は両当事者間で均等に分割される。
(注):
*in the event ofは、の場合という意味です。
*in effectは、有効なという意味です。くわしくは、in forceとin effectの意味と例文をご覧ください。
*is initiatedは、開始されるという意味です。
英文契約書・日本語契約書の作成・チェック(レビュー)・翻訳は、当事務所にお任せください。リーズナブルな料金・費用で承ります。
お問合せ、見積りは、無料です。お気軽にご相談ください。
受付時間: 月~金 10:00~18:00
メールでのお問合せは、こちらから。
ホームページ:宇尾野行政書士事務所
