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英文契約書の 一般条項のひとつである Governing Law(準拠法条項)とconflict of laws(抵触法)について解説します。併せて、いくつかの例文をとりあげ、訳をつけました。例文中の基本表現には注記を入れました。
目次:
1.解説:
1) Governing Law(準拠法条項)とは
2)Governing Law(準拠法条項)をめぐる契約交渉
3)準拠法の選択が契約に与える具体的な影響と紛争解決条項
との関係
4)conflict of lawsとは
2.例文と基本表現:
Governing Law(準拠法条項) とは、
契約の解釈の基準となる法律をどの国の法律にするのか
についてを取り決めた契約条項のことです。
米国のような多くの州から成る連邦国家を相手とする契約であれば、どこの州の法律を基準にするのかを取り決める必要があります。
準拠法条項は、他に
Applicable Law(適用法)や、
Choice of Law(準拠法)
というタイトルで置かれることもあります。
2)Governing Law(準拠法条項)をめぐる契約交渉
契約交渉がスタートすると、当事者は、 Governing Law(準拠法条項)として、通常、自国の法律や州法を主張します。
しかし、自国の法律を Governing Law(準拠法条項) として、そのまま主張が通ることはあまりなく、交渉が難航することがあります。
その場合、両当事者の力関係により、相手国の法律や州法を受けざるえなくなることがあります。
又は交渉の着地点として、第三国や別の州の法律を選択するケースもあります。
たとえば、日本企業が日本法を準拠法とする主張が通らない場合は、
自社ビジネスに密接に関係する子会社や支店が存在する国の法律や州法を Governing Law(準拠法条項) にする
などのやり方があります。
なお、海外の法律を選択する場合は、裁判例が整備されているの法律を選択した方が懸命です。
発展途上国の法律にした場合、法整備が遅れており、裁判例が十分でない場合があります。
英文契約書では第三国の準拠法として、
米国ニューヨーク州法、
米国カリフォルニア州法、
英国法、
シンガポール法
などがよく使われます。
3)準拠法の選択が契約に与える具体的な影響と紛争解決条項との関係
準拠法(Governing Law)を選ぶことは、単に「契約を解釈する法律を決める」以上の意味を持ちます。
準拠法(Governing Law)選択は、契約が実際に効力を発揮する際に、さまざまな形で影響を及ぼします。
契約の解釈と有効性:
・契約はどのように解釈されるか?:
たとえば、force majeure(不可抗力)やconsequential damages(間接損害)のような条項の解釈は、準拠法によって異なる場合があります。
ある国の法律では特定の解釈が一般的でも、別の国の法律では全く違う解釈になる、ということが起こり得ます。
・契約は有効か?:
ある国の法律では有効とされる契約内容が、別の国の法律では無効となる場合があります。
例えば、特定の契約形式の要件(書面であるべきかなど)、あるいは契約の締結能力(未成年との契約など)に関するルールは、国によって異なります。
準拠法を選ぶことで、契約全体の有効性が確保されます。
権利と義務の範囲:
・当事者の権利や義務は何か?:
契約書に書かれていない部分、またはあいまいな部分があった場合、準拠法がその空白を埋めます。
例えば、保証の範囲、債務不履行の場合の賠償責任、契約解除の条件など、契約書に明記されていない細かな部分ある場合は、準拠法によって決定されます。
・損害賠償の範囲は?:
契約違反があった場合の損害賠償額の算定方法や、賠償の範囲(例:間接損害の認められ方)も、準拠法によって大きく変わる可能性があります。
紛争解決条項(Dispute Resolution Clause)との密接な関係:
準拠法条項は、通常、紛争解決条項(Dispute Resolution Clause)とセットで考えられます。
紛争解決条項とは、もし契約に関するトラブルが起こった場合に、どこで、どのような方法(裁判か仲裁か)で解決するかを定める条項です。
・裁判管轄(Jurisdiction):
「どこの国の、どこの裁判所で争うか」を定める条項です。
例えば「東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」などと定めます。
・仲裁(Arbitration):
裁判ではなく、
仲裁機関(例:ICC国際仲裁裁判所、JCAA日本商事仲裁協会など)での仲裁で解決する、と定める条項です。
仲裁は、非公開で行われ、通常は一審制で迅速な解決が期待できる特徴があります。
【重要なポイント】
・準拠法と紛争解決地は一致させるべきか?:
理想的には、準拠法と紛争解決地(裁判所や仲裁地)は同じ国にそろえるのが望ましいです。
なぜなら、その国の法律を専門とする弁護士を見つけやすく、裁判官や仲裁人がその国の法律に精通しているため、紛争解決がスムーズに進む可能性が高いからです。
もし、日本法を準拠法としたのに、紛争解決地が米国になった場合、米国の裁判官や弁護士が日本の法律を理解・適用するのに時間とコストがかかる可能性があります。
このように、準拠法を選ぶことは、契約書の隅々まで影響を与え、将来の紛争解決のプロセスにも直結するため、慎重な判断が求められます。
英文契約書では、Governing Law(準拠法条項)の中に、
without reference to principles of conflict of laws(法の抵触の原則に関係なく)
という表現が入っていることがあります。
conflict of laws は、法の抵触 とか抵触法と訳されます。
conflict of laws(法の抵触、抵触法)とは、
契約が複数の国や州をまたぐ場合に、どの国やどの州の法律を適用させるかを定めた法律の存在
のことをいいます。
契約で、当事者が準拠法として特定の国や州を定めたとしても、
conflict of laws(法の抵触、抵触法)による法律が存在すると、
準拠法が、当事者が決めた特定の国や州の法律でなく、全く別の国や州となってしまう事態
がありえます。
このような事態を避けるため、 Governing Law(準拠法条項)の中に、
without regard to conflict of laws(法の抵触に関係なく)、
without reference to principles of conflict of laws(法の抵触の原則に関係なく)、
without giving effect to principles of conflicts of law(法の抵触の原則は適用されない)
というような表記のいずれかを追加します。これにより、
conflict of laws(法の抵触、抵触法)を除外し、
準拠法は当事者が決めた国や州の法律であることを明確にする
ことができます。 (下記の例文②、例文③、例文④をご覧ください)
(注):基本表現をハイライトしています。
1) Governing Law(準拠法条項)の例文①
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan.
(訳):
本契約は、日本法に準拠しそれに従って解釈されるものとする。
(注):
*Governing Law(準拠法条項)では、governed は、準拠しと訳されます。construed は、解釈されると訳されます。詳しくは、be construedの意味と例文をご覧ください。
*in accordance withは、~に従ってという意味です。
2) Governing Law(準拠法条項)の例文②
法の抵触を除外しています。例文③と例文④も同様です。
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of the State of California without reference to principles of conflict of laws.
(訳):
本契約は、法の抵触の原則に関係なく、カリフォルニア州の法律に準拠しそれに従って解釈されるものとする。
(注):
*without reference to principles of conflict of lawsは、法の抵触の原則に関係なくという意味です。
3) Governing Law(準拠法条項)の例文③
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of the State of New York, without giving effect to principles of conflicts of law.
(訳):
本契約は、ニューヨーク州の法律に準拠しそれに従って解釈されるものとし、法の抵触の原則は適用されない。
(注):
*without giving effect to principles of conflicts of lawは、法の抵触の原則は適用されないという意味です。
4) Governing Law(準拠法条項)の例文④
This Agreement as well as all claims arising out of or in connection with this Agreement or the transactions contemplated by this Agreement (including all tort and other non-contract claims) shall be governed by and construed in accordance with the substantive laws of Japan, without regard to any conflict of law principles, as if both Parties were Japan entities and this Agreement was to be performed entirely in Japan.
(訳):
本契約及び本契約に起因若しくは関連する一切の請求又は本契約が意図する取引(一切の不法行為及び契約に基づかない請求を含む)は、法の抵触の原則に関わらず、両当事者が日本法人であり、且つ本契約が日本で履行されるものとして、日本の実体法に準拠とし、解釈されるものとする。
(注):
*all claims arising out of or in connection with this Agreementは、本契約に起因若しくは関連する一切の請求という意味です。arising out of or in connection withについては、arising out ofとarising fromの意味と例文をご覧ください。
*the transactions contemplated by this Agreementは、本契約が意図する取引という意味です。くわしくは、contemplateの意味と例文をご覧ください。
*tortは、不法行為という意味です。くわしくは、tortの意味と例文をご覧ください。
*non-contract claimsは、契約に基づかない請求という意味です。
*the substantive lawsは、実体法という意味です。実体法とは、民法や商法のように権利や義務の要件を定める法律のことをいいます。
*without regard to any conflict of law principlesは、法の抵触の原則に関わらずという意味です。
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