insolvencyの意味と例文

英文と日本語のビジネス契約書の作成・チェック(レビュー)・翻訳の専門事務所です。(低料金、全国対応)

英文契約書の契約解除債務不履行事由の条文で使われる用語であるinsolvencyについて解説します。例文をとりあげ、要点と対訳と語注をつけました。

1.解説:

1)insolvencyとは

insolvencyは、支払不能、債務超過を意味します。

支払不能とは、

債務者が支払能力を欠き、弁済期の到来した債務を弁済することができない状態

のことをいいます。

債務超過とは、

債務者の負担する債務の額が、資産の額を上回っている状態(=資産をすべて売却しても債務を返済できない状態)

のことをいいます。

次に、insolvencyの用語がどのように使われるかについて解説します。

2)insolvencyの使い方

insolvencyは、主に、英文契約書の

・Events of Default(債務不履行事由の条項)

・Termination(契約解除条項)

などの条文で使われます。

Events of Default(債務不履行事由の条項)とは、

不履行当事者のどのような行為、又は関連する出来事の発生が債務不履行に該当するのか

を定めた契約条文のことをいいます。

Termination(契約解除条項)とは、

契約上の重大な違反や基本的な違反がある場合に、契約解除となる事由を挙げてどのような事由・条件があるときに、契約に基づく義務を停止させて当事者間の契約関係を終了できるかについての手続き

を定めた契約条文のことをいいます。

使われ方は、以下のようになります。(青字部分)

Events of Default(債務不履行事由の条項)で:

『いずれかの当事者が破産、支払不能(insolvency)、管財人の手続きを開始したとき、または第三者から破産、支払不能(insolvency)、管財人の申し立てがあったときは、債務不履行事由に該当する』(下記の英文契約書の例文①をご覧ください)

Termination(契約解除条項)で:

『 いずれかの当事者が支払不能(insolvency)に陥った場合、通知により、契約を終了することができる』(下記の英文契約書の例文②例文③をご覧ください)

(注):

例文③は、厳密には、Termination for Cause(正当事由による解除の条項)からの引用です。

Termination for Cause(正当事由による解除の条項)とは、

相手方の当事者に契約の重大な違反や不履行がある場合の契約解除

について定めた条文のことをいいます。つまり、通常のTermination(契約解除条項)と同様の内容です。

3)契約レビューの重要ポイント:insolvency条項のリスク管理と交渉

insolvency(支払不能・債務超過)に関する条項は、英文契約書において、相手方の経営悪化や倒産という最悪のシナリオに備え、自社のリスクを最小限に抑えるための重要な防御策です。

この条項を適切に設計することで、相手方の破綻が自社に波及するのを防ぎ、損害を限定することが可能になります。

契約レビューや交渉時には、以下の点を周到に考慮することが不可欠です。

(注記):

insolvency条項とは、この場合、単独の独立した条項でなく、Events of Default条項やTermination条項で使われるinsolvencyの条文のことを指しています。

ア.「破産」の定義と網羅性

なぜ重要か?:

insolvencyの定義は法域によって異なり、単に「破産」とだけ書くと、法的な手続きの進行度合いによって契約解除ができない、あるいは遅れる可能性があります。

確認すべきポイント:

多角的な定義:

例文①例文②例文③にあるように、insolvencyは単なる支払不能だけでなく、「破産(bankruptcy)」「管財人による管理(receivership)」「清算(liquidation)」「債権者の利益のための一般的譲渡(general assignment for the benefit of creditors)」といった、関連する様々な倒産手続きの開始を含めるべきです。

これにより、相手方が正式な破産手続きに入る前に、より早い段階で契約を解除できる可能性が高まります。

「自発的(voluntary)または非自発的(involuntary)」手続きの明記:

例文③のように、相手方自身が開始した手続き(自発的)だけでなく、債権者など第三者によって開始された手続き(非自発的)も解除事由となることを明記することは重要です。

これにより、相手方が経営悪化を隠蔽しようとしても、債権者の動きをトリガーとして自社の権利を行使できます。

イ.是正期間(Cure Period)の有無と期間

なぜ重要か?:

通常の契約違反には是正期間(cure period)が設けられることが多いですが、insolvencyに関しては、その性質上、是正が極めて困難であるため、特別な考慮が必要です。

確認すべきポイント:

即時解除権の確保:

insolvencyが解除事由となった場合、通知後すぐに契約を解除できる(terminate this Agreement by written notice)ように規定することが、自社にとって最も有利です。

これにより、相手方の倒産による混乱や損害が拡大する前に、迅速に関係を清算できます。

短い「取り下げ期間」の設定:

例文①例文③のように、第三者からの申し立てがあった場合に、「30日以内(例文①)」「90日以内(例文③)に手続きが取り下げされない場合」に解除できる旨を規定することは一般的です。

この期間は、短ければ短いほど自社のリスクが低減されますが、相手方の交渉力によっては調整が必要となる場合があります。

ウ.破産法(Bankruptcy Law)との関係

なぜ重要か?:

多くの国の破産法には、破産手続き開始後の契約解除を制限する規定(倒産隔離規制、Ipso Facto Clauseの無効化など)が存在します。

これは、破産した企業の再生を助ける目的があります。

確認すべきポイント:

管轄法の確認:

契約の準拠法(Governing Law)が定める破産法の規定が、insolvency条項にどのような影響を与えるかを事前に確認することが重要です。

例えば、米国破産法典(U.S. Bankruptcy Code)は、特定の種類の契約において、倒産自体を理由とした契約解除条項の効力を否定する場合があります。

「破産法上の制約を受ける」旨の明記:

例文②のany proceeding under any bankruptcy or insolvency Law, whether domestic or foreignのように、国内外の破産法に基づく手続きも解除事由に含めることは重要ですが、

実際にその権利を行使できるかは、最終的に当該法域の破産法に依拠することを理解しておく必要があります。

エ.その他の関連するリスク管理条項

なぜ重要か?:

insolvency条項単独でなく、他の条項との組み合わせでより強固なリスク管理が可能です。

確認すべきポイント:

支払いの停止(Suspension of Payment):

相手方にinsolvencyの兆候が見られた場合に、自社からの支払い義務を一時的に停止できる条項を設けることを検討しましょう。

担保権の設定:

相手方からの債務不履行に備え、担保権(例:売掛債権譲渡担保、在庫担保など)を設定することで、回収可能性を高めることができます。

契約上の義務の停止:

insolvency条項に基づき契約を解除するまでの間も、自社の義務(例:製品の供給、サービスの提供)を一時停止できる権利を規定することも有効です。

insolvency条項は、企業の最も脆弱な側面である相手方の経営破綻という事態に備えるための、いわば「緊急避難」の規定です。

その文言一つ一つが、将来の法的紛争における自社の立ち位置を決定づける可能性があるため、細部にわたる検討と、必要に応じた交渉が不可欠です。

2.例文と基本表現:

(注):上記で解説したinsolvency青文字で示し、他の基本表現をハイライトしています。

1)insolvency – 例文①

Events of Default(債務不履行事由の条項)からです。債務不履行事由に、支払い不能手続きの開始、および第三者による支払い不能の申し立てが挙げられています。

Either party will be in “Default” under the Contract if it (1) admits in writing its inability to pay its debts as they become due, commences a bankruptcyinsolvency, receivership, or similar proceeding, or makes a general assignment for the benefit of creditors(2) becomes a debtor in a bankruptcy, insolvency, receivership, or similar proceeding commenced by a third party that is not dismissed within 30 days after commencement.

(訳):

いずれかの当事者は、次の各号の事由が生じた場合に債務不履行に該当する:(1)支払期日が到来したときに債務を支払うことができないことを書面で認め、破産、支払不能管財人による管理もしくは同様の手続きを開始する、または債権者の利益のための一般的譲渡を行うとき、(2)第三者により申し立てられた破産、支払不能管財人の管理もしくは同様の手続きにより債務者となり、当該手続きの申し立て後30日以内に取り下げされないとき

(注):

*in “Default”は、債務不履行にあるという意味です。

*its inability to pay its debtsは、its inability to(~することができないこと)pay its debts(債務を支払う)の組み合わせで、債務を支払うことができないことという意味です。

*become dueは、支払期日が到来するという意味です。 dueの意味については、due(支払い期限が到来する)の解説と例文をご覧ください。

*receivershipは、管財人による管理という意味です。

*proceedingは、手続きという意味です。くわしくは、proceedingsの意味と例文をご覧ください。

third partyは、第三者という意味です。くわしくは、third party(第三者)の解説と例文をご覧ください。 

*general assignment for the benefit of creditorsは、債権者の利益のための一般的譲渡と訳しています。債権者への債務の弁済を目的として債務者の財産をtrustee(受託者)に譲渡する米国破産法の手続きです。

*debtorは、債務者という意味です。

*dismissedは、取り下げるという意味です。

2)insolvency – 例文②

Termination(契約解除条項)からです。契約解除事由に、支払い不能に陥ることが挙げられています。

Either Party to this Agreement may terminate this Agreement by written notice to the other Party if such other Party (a) becomes insolvent, (b) becomes subject as the debtor to any proceeding under any bankruptcy or insolvency Law, whether domestic or foreign, and such proceeding is not dismissed with prejudice within sixty (60) days after filing.

(訳):

本契約のいずれかの当事者は、相手方の当事者が、(a)支払不能になった場合、(b)国内又は外国を問わず、破産法に基づく手続き債務者としての対象となりその手続きが、申請後60日以内に請求棄却されない場合 、相手方への書面通知により、本契約を解除することができる。

(注):

*Either Partyは、いずれかの当事者という意味です。

terminateは、(本契約を)解除するという意味です。

*the other Partyは、相手方の当事者という意味です。

*becomes subject as the debtorは、債務者としての対象となるという意味です。

*any proceeding under any bankruptcy or insolvency Lawは、破産法に基づく手続きという意味です。insolvencyは、破産状態とも訳されます。

*dismissed with prejudiceは、請求棄却されるという意味です。

filingは、(破産手続きの)申請という意味です。

3)insolvency – 例文③

Termination for Cause(正当事由による解除の条項)からです。契約解除事由に、支払い不能の手続きが挙げられています。

Either party may terminate this Agreement upon written notice of termination if the other party is the subject of any state or federal proceeding (whether voluntary or involuntary) relating to its bankruptcy, insolvency or liquidation that is not dismissed within ninety (90) days.

(訳):

いずれの当事者も、相手方当事者が、破産、支払不能または清算に係わる州または連邦の手続き自発的なものかそうでないかに関わらず)の対象であり、90日以内に取り下げされない場合書面による解除の通知により、本契約を解除することができる。

(注):

*upon written notice of terminationは、書面による解除の通知によりという意味です。

*proceedingは、手続きという意味です。

*whether voluntary or involuntaryは、自発的なものかそうでないかに関わらずという意味です。

*its bankruptcy, insolvency or liquidationは、破産、支払不能または清算という意味です。

*dismissedは、取り下げるという意味です。

 

英文契約書・日本語契約書の作成・チェック(レビュー)・翻訳は、当事務所にお任せください。リーズナブルな料金・費用で承ります。

お問合せ、見積りは、無料です。お気軽にご相談ください。

受付時間: 月~金 10:00~18:00

メールでのお問合せは、こちらから。     

ホームページ:宇尾野行政書士事務所