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英文契約書において秘密情報の返還・廃棄条項として置かれるReturn or Destruction of Informationについて、とりあげます。例文をとりあげ、対訳をつけて廃棄証明などの重要表現に注記を入れました。
1.解説:
1)Return or Destruction of Informationとは
Return or Destruction of Informationとは、英文契約書の秘密保持契約に置かれる
秘密情報の返還・廃棄条項
のことを意味します。
Return or Destruction of Information(秘密情報の返還・廃棄条項)では、
『契約終了時や開示当事者から返還請求があったときは、受領当事者は速やかに秘密情報を返還・廃棄する義務を負う』
というような内容で規定されます。(下記の例文①と例文②をご覧ください)
契約終了後、秘密情報を返還・廃棄することを規定すれことにより、
万が一、相手方が秘密情報を他の目的に利用したり第三者に漏洩した場合に、差し止めや損害賠償などの救済を受けることも可能となります。
秘密情報の返却に関するキーワードとして、
tangible(有形物であること)
という用語がよく使われます。(下記の例文②をご覧ください)
秘密情報の返却は、書類、図面、データ、試作品、レポートなど、目に見える形になっている必要があるからです。
2.Return or Destruction of Informationにおける実務上の重要点と交渉の視点
秘密保持契約(NDA)において、Return or Destruction of Information(秘密情報の返還・廃棄条項)は、契約終了後も秘密情報が適切に管理され、情報漏洩のリスクを最小限に抑えるために非常に重要な役割を果たします。
この条項の実効性は、その具体的な内容と、当事者間の合意によって大きく左右されます。
ア.条項の目的と重要性
この条項の主な目的は、秘密保持契約の目的が達成された後、または契約関係が終了した後に、開示された秘密情報が受領者側で不適切に利用・保持されることを防ぐことです。
情報漏洩リスクの低減:
契約終了後も秘密情報が受領者側に残っていると、意図しない漏洩や不正利用のリスクが継続します。
この条項は、そうしたリスクを物理的に排除しようとするものです。
法的救済の根拠:
万が一、受領者が返還・廃棄義務を怠り、結果として情報漏洩が発生した場合、この条項は開示当事者が差し止め請求や損害賠償請求を行う際の明確な法的根拠となります。
情報が相手方の手元にあること自体が、不正利用の可能性を示唆するため、条項の履行は重要です。
コンプライアンスの確保:
企業は、顧客情報、技術情報、営業秘密など、多岐にわたる秘密情報を扱っており、法令(例:不正競争防止法)や社内規定に基づいてこれらの情報を保護する義務があります。
この条項は、そのコンプライアンス体制の一部として機能します。
イ.「返還(Return)」と「廃棄(Destruction)」の選択と実務
この条項では、秘密情報を「返還」するか「廃棄」するかの選択肢が設けられるのが一般的です。
どちらの選択肢を選ぶかは、秘密情報の性質と当事者間の合意によって異なります。
返還(Return):
有形物(tangible form)である文書、図面、試作品などは返還が容易です。
物理的に回収できるため、開示当事者にとっては情報が確実に手元に戻る安心感があります。
ただし、返還のための輸送コストや手間が発生します。
廃棄(Destruction):
電子データなど、返還が困難な情報については廃棄が現実的です。
廃棄方法として、シュレッダーによる破砕(物理的破壊)、データ消去ソフトによる完全消去(wiping)、記憶媒体の物理的破壊(degaussing / shredding)など、具体的に定めることがあります。
単なる削除(delete)では不十分な場合が多いことを理解しておく必要があります。
廃棄を選択した場合、廃棄されたことを証明する書面(written certification of destruction)の提出を義務付けることが非常に重要です(例文①参照)。
この証明書は、将来的に情報漏洩の疑義が生じた際の重要な証拠となります。
「または(or)」の解釈:
「返還または廃棄」と規定されている場合、どちらの選択権が受領者にあるのか、それとも開示当事者にあるのかが不明確になることがあります。
通常は開示当事者の指示に従うか、受領者が選択し、その上で廃棄の場合は証明書を提供する形が望ましいです。
ウ.「秘密情報」の範囲と例外
返還・廃棄の対象となる「秘密情報」の範囲を明確に定義することが、実効性を高める上で重要です。
定義の一貫性:
秘密保持契約全体の「秘密情報(Confidential Information)」の定義と、この条項で対象となる情報の範囲が一貫しているかを確認します。
例外事項の明記:
受領当事者の社内規程により保管が義務付けられている情報:
会計帳簿や監査記録など、法令(例:税法、証券取引法)や内部監査規定により一定期間の保管が義務付けられている情報は、返還・廃棄の例外となることがあります。
この場合、当該情報については秘密保持義務が引き続き適用される旨を明確に規定します。
バックアップデータ:
通常の運用で作成されるバックアップデータも例外として認められる場合がありますが、その場合もアクセス制限、保管期間、目的外利用の禁止など、厳格な管理義務を課す必要があります。
開示当事者の同意:
受領当事者が秘密情報の全部または一部を保持する必要がある場合、開示当事者の事前の書面による同意(prior written consent)を得ることを条件とすることが一般的です。
エ.違反時の対応と法的効果
条項に違反した場合の具体的な対応策を検討しておくことも重要です。
具体的な履行請求:
受領者が返還・廃棄義務を履行しない場合、特定の履行(specific performance)を求める訴訟を提起できる可能性もあります。
損害賠償の請求:
秘密情報が不正利用されたり漏洩したりして損害が生じた場合、その損害賠償を請求できます。
この際、秘密情報が返還・廃棄されていなかった事実は、受領者の過失を裏付ける重要な証拠となりえます。
監査権の明記:
受領当事者が返還・廃棄義務を履行したかを確認するため、開示当事者が受領当事者の施設を監査する権利(audit rights)を契約に盛り込むことを検討することもあります。
これは、受領者側にとっては負担が大きいため、交渉が必要です。
Return or Destruction of Information条項は、秘密保持契約の「出口戦略」であり、契約終了後の情報管理を左右します。
開示当事者としては最大限の保護を、受領当事者としては実行可能な範囲での義務を負うよう、情報の性質、技術的な制約、法令上の要件などを考慮しながら、慎重に交渉を進めることが不可欠です。
2.例文と基本表現
1)Return or Destruction of Information(秘密情報の返還・廃棄条項)– 例文①
Return or Destruction of Information
Upon termination of the discussions between the parties contemplated by this Agreement or upon request by the Disclosing Party’s written request, the Receiving Party and its Representatives will promptly return to the Disclosing Party all written Information that has been provided to the Receiving Party by the Disclosing Party; provided, that in lieu of being returned to the Disclosing Party, such written Information may be destroyed by the Receiving Party, in which case the Receiving Party shall provide the Disclosing Party a written certification that such written materials have been destroyed.
(訳):
秘密情報の返還・廃棄
本契約の目的である両当事者間の検討が終了したとき、または開示当事者による書面の要請に応じて、受領当事者とその代表者は、開示当事者が受領当事者に提示したすべての書面の情報を速やかに開示当事者に返却するものとする。ただし、開示当事者に返却する代わりに、かかる書面の情報は受領当事者により廃棄することができる。その場合、受領当事者は、開示当事者に対し、かかる文書資料が廃棄された事を示す証明書を提出するものとする。
(注):
*Upon terminationは、終了したときという意味です。
*the discussionsは、検討という意味です。
*contemplated by this Agreementは、本契約の目的であるという意味です。contemplateについては、くわしくは、contemplateの意味と例文をご覧ください。
*upon requestは、要請に応じてという意味です。
*Representativesは、代表者という意味です。
*provided, thatは、ただし、(that以下を条件に)という意味です。
*in lieu ofは、ラテン語の表現のひとつで、~の代わりにという意味です。くわしくは、in lieu ofの意味と例文をご覧ください。
*in which caseは、その場合という意味です。前の文章にかかります。
*a written certification that such written materials have been destroyedは、かかる文書資料が破棄された事を示す証明書という意味です。
2)Return or Destruction of Information(秘密情報の返還・廃棄条項)– 例文②
Return or Destruction of Information
Upon termination or expiration of this Agreement and upon request by the Disclosing Party, the Receiving Party will promptly return to the Disclosing Party all Confidential Information received from the Disclosing Party which is in tangible form or provide a letter certifying as to its destruction.
(訳):
秘密情報の返還・廃棄
本契約の終了又は満了時、及び開示当事者からの要請に応じて、受領当事者は、開示当事者から受け取ったすべての機密情報を速やかに開示当事者に有形の形で返却するか、その破棄を証する書状を提出するものとする。
(注):
*Upon termination or expirationは、本契約の終了又は満了時という意味です。
*upon requestは、要請に応じてという意味です。
*in tangible formは、有形の形でという意味です。
*a letter certifying as to its destructionは、その破棄を証する書状という意味です。
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