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英文契約書の一般条項のひとつであるTime is of the Essence(時間厳守条項)について解説します。例文をとりあげその要点と対訳をつけました。例文中の基本表現に注記を入れました。
1.解説:
Time is of the Essence(時間厳守条項)とは、その名の通り
契約の履行期限の厳守
について定めた契約条文です。
Time is of the Essence(時間厳守条項)は、日本の契約書には見かけない条項ですが、英米法では非常に重要な意味を持ちます。
英米法においては、
・特定の期限までに履行を行うことが特に重要な意味を持つ契約で、その期限までに履行がされないと損害の発生につながるような場合は、重大な契約違反(material breach)として契約解除や損害賠償の対象となります。
・一方、履行期限がそこまで重要でない(例:単に目安として設けられた期限)と見なされる場合は、期限までに履行できなくても、それだけでは重大な契約違反(material breach)とはならず、直ちに契約解除や損害賠償の対象とはなりません。
そこで、期限までに履行がされないと契約の目的が達成されないような契約では、Time is of the Essence(時間厳守条項)の規定が契約の中に設けられます。
この条項を入れることで、「この期限は単なる目安ではなく、契約の根幹に関わる非常に重要なものだ」という意思を明確に示し、違反があった場合の法的効果を強化する狙いがあります。
2.契約レビューの重要ポイント:リスクと注意点
Time is of the Essence(時間厳守条項)は、契約における「時間」の重要性を極めて明確にする条項であり、この条項の有無や適用範囲は、契約の安定性、将来の紛争リスク、そして当事者の義務の重さに大きく影響します。
特に以下の点を意識してレビューを行うことが重要です。
1)この条項がもたらす「厳格な法的効果」を理解する
この条項が契約に含まれると、指定された期限のわずかな遅延であっても、それは重大な契約違反(material breach)と見なされる可能性が非常に高まります。
なぜ問題になるのか?:
通常、契約違反があっても、それが「重大」でなければ、直ちに契約解除や損害賠償請求の対象とはならない場合があります。
しかし、Time is of the Essence条項があると、期限の遅れが自動的に「重大な違反」となり、相手方は直ちに契約解除権を行使したり、損害賠償を請求したりすることが可能になります。
これは、期限をわずかに過ぎただけでも、多大な不利益を被る可能性があることを意味します。
確認すべきポイント:
本当にその期限が契約の「本質」であるか?:
例えば、イベント開催日の前日までの納品など、期限を過ぎると契約の目的が完全に失われるような場合にのみ、この条項を適用すべきです。
そうでない場合に安易に受け入れると、わずかな遅延で巨額の賠害賠償を請求される深刻なリスクを負うことになります。
この条項が「契約全体」に適用されるのか、それとも「特定の義務」に限定されるのかを確認しましょう(例文①と例文②・例文③の違い)。
広範囲に適用されるほど、リスクは高まります。
2)期限設定の「現実性」と「遵守可能性」を徹底的に評価する
この条項を受け入れるということは、自社がその期限を確実に遵守できるという強いコミットメントを意味します。
なぜ問題になるのか?:
予期せぬ事態(サプライチェーンの遅延、人材不足、天候不順など)は常に発生し得ます。
もしTime is of the Essence条項がある中で期限を守れなければ、不可抗力条項が適用されない限り、自社は自動的に重大な契約違反となり、高額な賠償責任を負うリスクに直面します。
確認すべきポイント:
設定された期限が、あらゆる不測の事態を考慮しても現実的に達成可能かを、関連部門(製造、開発、営業など)と徹底的に協議し、合意形成する必要があります。
もし期限遵守が不確実な場合は、この条項の削除を求めるか、あるいはより具体的な猶予期間(grace period)や免責事由を盛り込む交渉を行うべきです。
3)不可抗力(Force Majeure)条項との関連性
Time is of the Essence条項は、不可抗力(Force Majeure)条項と密接に関連します。
なぜ重要なのか?:
不可抗力事由(地震、洪水、戦争など)が発生し、それにより期限遵守が不可能になった場合、不可抗力条項がTime is of the Essence条項による厳格な責任から自社を保護する可能性があります。
しかし、その適用範囲や手続きは明確である必要があります。
確認すべきポイント:
不可抗力条項が、Time is of the Essence条項による義務不履行の免責事由として機能するかを確認しましょう(例文④は、営業日でない場合の例外を設ける例ですが、一般的な不可抗力も考慮すべきです)。
不可抗力事由が発生した場合の通知義務や、義務再開に向けた「合理的な努力義務」なども併せて確認し、自社が対応可能か評価しましょう。
4)営業日(Business Day)や休日(Holiday)の定義
期限が特定の「日数」で定められている場合、その起算日や終期が「営業日」か「カレンダー日」かによって、実際の履行期限が変動することがあります。
なぜ重要なのか?:
特に国際取引では、各国の休日や祝日が異なるため、認識の齟齬が生じやすいです。
これがTime is of the Essence条項と結びつくと、意図しない遅延として扱われるリスクが高まります。
確認すべきポイント:
契約書内で「営業日(Business Day)」の定義が明確か(例文④参照)。具体的な営業日カレンダーや、例外規定(例:法定休日、銀行休業日など)が定められているかを確認しましょう。
期限の計算方法(例:初日算入・不算入)も確認し、誤解が生じないようにしましょう。
Time is of the Essence条項は、契約の履行を強く促す効果がある一方で、当事者にとって極めて重い責任を課すものです。
この条項が契約書に含まれる場合は、その法的影響を深く理解し、自社のリスク許容度と照らし合わせて慎重に交渉することが、トラブルを避ける上で最も重要です。
3.例文と基本表現:
(注):Time is of the essenceは、青文字で示し、基本表現をハイライトしています。
1) Time is of the Essence(時間厳守条項) の例文①
契約の履行において、期限は非常に重要です。
Time is of the essence under this agreement and in the performance of every term, covenant and obligation contained herein.
(訳):
本契約並びに本契約に記載されたすべての条件、誓約、及び義務の履行において、期限は非常に重要である。
(注):
*the performanceは、履行という意味です。くわしくは、performとperformanceの意味と例文をご覧ください。
*covenantは、誓約と訳されます。くわしくは、covenantの意味と例文をご覧ください。
*contained hereinは、contained(記載された、定められた)とherein(本契約に)の組み合わせで、本契約に記載されたという意味です。
2) Time is of the Essence(時間厳守条項) の例文②
契約の各条項について、期限の厳守が明確に定められています。
Time is expressly made of the essence with respect to each and every provision of this Agreement and the other Transaction Documents.
(訳):
期限の厳守は、本契約およびその他の取引文書の各条項に関して、明確に定められている。
(注):
*expressly は、明確に、明示的にの意味です。
*with respect toは、に関してという意味です。
*each and everyは、ありとあらゆるが直訳ですが、各に意訳しています。
*provisionは、条項という意味です。くわしくは、article, clause, provision, stipulation, covenantの意味をご覧ください。
3) Time is of the Essence(時間厳守条項) の例文③
当事者の義務の履行について、期限の厳守が契約で明確に定められています。
Time is hereby expressly made of the essence of this Agreement with respect to the performance by THE PARTIES of their respective obligations hereunder.
(訳):
本契約における当事者の各々の義務の履行に関して、期限の厳守は、本契約で明確に定められている。
(注):
*with respect toは、に関してという意味です。
4) Time is of the Essence(時間厳守条項) の例文④
Time is of the Essence(時間厳守条項) の中で、期限の期日が営業日でない場合の処理を定めている例です。(下線部)
With respect to all provisions of this Agreement, time is of the essence. However, if the first date of any period which is set out in any provision of this Agreement falls on a day which is not a Business Day, then, in such event, the time of such period shall be extended to the next day which is a Business Day.
(訳):
本契約のすべての条項に関して、期限は非常に重要である。 ただし、本契約のいずれかの規定に定められている期限の最初の日が営業日ではない場合、期間の期限は、翌日の営業日まで延長される。
(注):
*is set outは、定められているという意味です。set forthの意味と例文をご参考にしてください。
*falls on a day which is not a Business Dayは、falls on((日付)にあたる)とa day which is not a Business Day(営業日ではない)の組み合わせで、営業日ではないと訳しています。
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