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英文契約書で、保証の排除・免責の条項として規定されるWarranty Disclaimerついて解説します。代表的な例文をとりあげ、要点と対訳と語注をつけました。
(目次)
1.解説:
1)Warranty Disclaimerとは
2)Warranty Disclaimerで取り決められる内容
3)implied warranty(黙示の保証)とexpress warranty
(明示の保証)
4)契約レビューと交渉におけるWarranty Disclaimer条項
の実務上の注意点
2.例文と基本表現:
1)例文 – 秘密保持契約から
2)例文 – 売買契約から
3)例文 – ライセンス契約から
1)Warranty Disclaimerとは
Warranty Disclaimerは、
保証の排除、保証の否認、あるいは保証の免責
などと訳されます。
Warranty Disclaimer(保証の排除・免責条項)とは、たとえば売買契約であれば、
売主が製品やサービスについて、その保証を排除してas is(現状のまま)の状態で、買主に引き渡す
ことを取り決めた契約条項のことをいいます。
Warranty Disclaimer(保証の排除・免責条項)の見出しは、代わりに、
No Warranty(非保証)
2)Warranty Disclaimerで取り決められる内容
Warranty Disclaimer(保証の排除・免責条項)は、
Non-Disclosure Agreement(秘密保持契約)、
などの英文契約書で設けられます。
これらの英文契約書の
Warranty Disclaimer(保証の排除・免責条項)で取り決められる内容は、以下のとおりです。
・ Non-Disclosure Agreement(秘密保持契約)で:
『開示当事者は、開示する機密情報について、正確性や信頼性などの保証は行わない』などの内容となります。(下記の例文①をご覧ください)
『売主は、 製品の一定範囲を超えた保証は行わない』などの内容となります。
『全部の保証を行わない』とする場合もあります。(下記の例文②をご覧ください)
・ License Agreement(ライセンス契約)で:
『ライセンサーは、ライセンス技術の保証は行わない』などの内容となります。(下記の例文③をご覧ください)
3)implied warranty(黙示の保証)とexpress warranty(明示の保証)
Warranty Disclaimer(保証の排除・免責条項)では、
『implied warranty(黙示の保証)であるか、express warranty(明示の保証)であるかを問わず、保証は行わない』
という取り決めがよく見られます。(下記の 例文①、 例文②、 例文③ をご覧ください。)
英米法では、製品やサービスのWarranty(保証)は、
implied warranty(黙示の保証)と
express warranty(明示の保証)
のふたつに区分されるからです。
この両者の違いについては、
implied warrantyとexpress warrantyの意味と例文
をご覧ください。
4)契約レビューと交渉におけるWarranty Disclaimer条項の実務上の注意点
Warranty Disclaimer(保証の排除条項)は、特に米国法(Uniform Commercial Code: UCC、統一商事法典)が適用される売買やライセンス契約において、その法的意義が非常に大きい条項です。
UCCは、明示的に排除されない限り、特定の「黙示の保証(implied warranties)」が自動的に売主(ライセンサー)に課されると定めており、Warranty Disclaimerはこれらの自動的に発生する保証責任を排除するために不可欠となります。
ア.UCCにおける主な黙示の保証とその法的背景
UCCが規定する代表的な黙示の保証には、以下の二つがあります。
これらは、売主が明示的に約束しなくても、商品の性質や取引の状況から法的に当然に発生するものとみなされます。
Implied Warranty of Merchantability(商品適格性の黙示
の保証):
これは、売主が販売する商品が、同種の他の商品と比較して通常の使用目的に適合し、品質が平均的であることを保証するものです。例
えば、椅子であれば座れること、食品であれば安全に食べられること、といった基本的な品質・機能がこれに当たります。
売主がその種の商品を通常取り扱う商人である場合に自動的に発生します。
Implied Warranty of Fitness for a Particular Purpose
(特定目的適合性の黙示の保証):
これは、買主が特定の目的のために商品を購入することを売主が認識しており、かつ買主が売主の助言や知識に依拠して商品を選択した場合に、その商品が買主の特定の目的に適合することを保証するものです。
例えば、特定の作業に適した特殊な機械を購入する際に、売主がその目的を理解し、その機械を推奨した場合に発生し得ます。
イ.Warranty Disclaimerの戦略的必要性
上記の黙示の保証は、契約書に明示的な記載がなくても、法律によって自動的に発生します。
売主やライセンサーがこれらの黙示の保証による責任を負いたくない場合、Warranty Disclaimerを契約書に含めることで、その責任を「排除(disclaim)」または「免責(exclude)」することができます。
予期せぬ法的責任の回避:
売主側は、予期せぬ法的責任や損害賠償リスクを回避するためにWarranty Disclaimerを挿入します。
特に、ソフトウェアや技術情報など、多様な利用方法があり、その全てのリスクを管理しきれない場合に重要です。
例文①、例文③のように、情報提供の正確性や技術の利用に関する保証を排除するのはこのためです。
「as is(現状有姿)」の意味:
「as is(現状有姿)」での引き渡しと組み合わせることで(例文②、 例文③ )、売主は製品やサービスが現状のままで提供され、その後の問題については原則として責任を負わないことを明確にします。
これは、特に中古品や開発途中の製品、情報提供などにおいて一般的な条項です。
ウ.有効なDisclaimerのための要件と交渉のポイント
UCCでは、これらの黙示の保証を有効に排除するためには、特定の文言や表示方法が求められます。
明確性と表示方法:
例えば、Merchantability の黙示の保証を排除するには、”MERCHANTABILITY” という単語を明示的に使用し、目立つように(大文字や太字など)記載する必要があります(例文②、 例文③の強調部分)。
また、”AS IS” や “WITH ALL FAULTS” といった表現を使用することでも、全ての黙示の保証を排除できるとされています。
明示の保証(Express Warranty)との関係:
Warranty Disclaimerは主に黙示の保証を排除するものですが、一部の条項では明示の保証も排除する旨を規定することがあります(例文①、 例文②、 例文③)。
これは、契約書に明記されたもの以外のいかなる口頭や書面での保証も無効にする意図があるためです。
ただし、実際に契約書で明確に約束した「明示の保証(express warranty)」まで完全に排除することは、買主側が容易に受け入れないため、その範囲を慎重に定める必要があります。
多くの場合、”EXCEPT AS EXPRESSLY SET FORTH HEREIN”(本契約で明示的に定める場合を除く)という留保が置かれ、契約書内で別途明記された保証は有効であることを示します(例文③)。
交渉のポイント:
買主側:
安易に全ての保証排除を受け入れるべきではありません。
特に、製品の品質や機能が事業の根幹に関わる場合、最低限の保証(例:Limited Warranty、限定保証)を求めるか、保証排除の例外を交渉することが重要です。
売主側:
自社の製品やサービスの性質に応じ、どこまで保証責任を負うかを明確にし、Disclaimerの範囲を適切に定めることで、将来のリスクを最小限に抑えることができます。
Warranty Disclaimerは、特に売主・ライセンサー側のリスクマネジメントにおいて不可欠な条項です。
しかし、その効果を最大限に発揮させるためには、準拠法(特に米国のUCC)の要件を理解し、適切な文言と形式で記載することが求められます。
契約交渉においては、当事者双方の期待とリスクをバランスさせながら、この条項の内容を慎重に検討することが、将来の紛争を避ける鍵となります。
2.例文と基本表現:
(注):基本表現をハイライトしています。
(ご参考):以下にリストしたのは、Warranty Disclaimer(保証の排除・免責条項)で共通してよく見かける表現や用語です。
例文①、 例文②、 例文③でも使われているこれらの表現や用語(青字部分)は、クリックすると解説記事に飛びます。
・EXPRESS OR IMPLIED WARRANTIES(明示的又は黙示的な保証)
・FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE(特定目的の適合性)
1)Warranty Disclaimer(保証の排除・免責条項)– 例文①
秘密保持契約からです。開示当事者は、機密情報について正確性や信頼性などの保証は行わないことを規定しています。
The Disclosing Party makes no warranty, express or implied, with respect to Confidential Information disclosed hereunder, including without limitation any warranty as to the accuracy, reliability or completeness of such Confidential Information. The Parties agree that neither the Disclosing Party nor any of its officers, employees and representatives shall have any liability to the Receiving Party or any of its officers, employees and representatives resulting from the use of Confidential Information disclosed hereunder in connection with the Purpose.
(訳):
開示当事者は、本契約に基づき開示される機密情報に関して、明示又は黙示を問わず、かかる機密情報の正確性、信頼性又は完全性に関する保証を含むがそれら限定せず、一切の保証を行わない。両当事者は、開示当事者又はその役員、従業員及び代表者のいずれも、受領当事者又はその役員、従業員及び代表者に対し、本契約の目的に関連して開示された機密情報の使用に起因する責任を負わないことについて、合意する。
(注):
*The Disclosing Partyは、開示当事者という意味です。
*with respect toは、~に関してという意味です。
*hereunderは、本契約に基づきという意味です。詳しくは、hereto, hereof, herein, hereby, hereunder, herewith, hereinafterの意味と例文をご覧ください。
*including without limitationは、~を含むがそれらに限定されないという意味です。詳しくは、including, but not limited to/including, without limitationの意味と例文をご覧ください。
*officers, employees, representativesは、それぞれ役員、従業員、代表者という意味です。
*in connection withは、~に関連してという意味です。
2)Warranty Disclaimer(保証の排除・免責条項)– 例文②
売買契約からです。売主は、 商品適格性を含め一切の保証を行わないことを規定しています。
SELLER DISCLAIMS AND THE PRODUCTS ARE SOLD WITHOUT ANY WARRANTY AS TO MERCHANTABILITY OF FITNESS FOR ANY PARTICULAR PURPOSE OR DESIGN WHATSOEVER, OR ANY OTHER WARRANTY, EXPRESS OR IMPLIED, ORAL OR WRITTEN.
(訳):
売主は、一切の特定の目的若しくは設計に対する適合性の商品適格性又は明示的若しくは黙示的、口頭若しくは書面によるその他の保証を否認し、製品は、かかる保証なしで販売される。
(注):
*DISCLAIMSは、否認する、免責されるという意味です。
*WHATSOEVERは、いかなる~もないという意味の強調表現です。上記では、一切のと意訳しています。詳しくは、whatsoeverの意味と例文をご覧ください。
3)Warranty Disclaimer(保証の排除・免責条項)– 例文③
ライセンス契約からです。ライセンサーは、ソフトウェアを現状のまま保証なしで引渡すことを規定しています。
EXCEPT AS EXPRESSLY SET FORTH HEREIN AND TO THE MAXIMUM EXTENT PERMITTED BY APPLICABLE LAW, Any and all SOFTWARE, documentation, CONFIDENTIAL INFORMATION and any other technology or materials provided by LICENSOR to the CUSTOMER are provided “as is” and without warranty of any kind. EXCEPT AS OTHERWISE STATED IN THIS LICENSE AGREEMENT, LICENSOR MAKES NO OTHER WARRANTIES, EXPRESS OR IMPLIED, INCLUDING EXPRESS OR IMPLIED WARRANTIES OF MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE, AND NONINFRINGEMENT.
(訳):
本契約で明示的に定める場合を除き、および法によって認められる最大の限度で、ライセンサーが顧客に提供するすべてのソフトウェア、ドキュメント、機密情報及びその他の技術又は資料は、「現状のまま」提供され、いかなる保証もされない。 本ライセンス契約で別段の記載がある場合を除き、ライセンサーは、商品適格性、特定の目的への適合性及び非権利侵害性の明示的又は黙示的な保証を含み、その他の明示的又は黙示的な保証は行わない。
(注):
*EXCEPT AS EXPRESSLY SET FORTH HEREINは、EXCEPT AS(~する場合を除いて)とEXPRESSLY SET FORTH HEREIN(本契約で明示的に定める)で、本契約で明示的に定める場合を除きという意味です。
*TO THE MAXIMUM EXTENT PERMITTED BY APPLICABLE LAWは、法によって認められる最大の限度でという意味です。詳しくは、to the maximum extent permitted by applicable lawsの意味と例文をご覧ください。
*any and allは、すべての、一切のという意味です。
*EXCEPT AS OTHERWISE STATEDは、~で別段の記載がある場合を除きという意味です。 詳しくは、except asとexcept as provided inの意味と例文をご覧ください。
*NONINFRINGEMENTは、非権利侵害性(=第三者の権利を侵害しないこと)と訳されます。
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