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英文契約書でよく使われる用語のcovenantについて、とりあげます。 併せて、例文に要点と対訳と語注をつけました。
1.解説:
1)covenantとは
covenantは、英文契約書では、通常、二つの意味で使われます。
ひとつは、誓約(=一方当事者の相手方への約束)の意味です。
もうひとつは、約定、合意(=当事者双方の合意)の意味です。
そして、covenantがどのような場面で使われるのかによって、誓約を意味するのか、それとも約定、合意を意味するのかが異なります。
二つの意味の使い分けについては、次の2)のcovenantの使い方をご覧ください。
(ご参考):
covenantは、これら二つの意味とは別に、
契約書の条と項
を指すこともあります。詳しくは、article, clause, provision, stipulation, covenant|英文契約書の基本表現をご覧ください。
2)covenantの使い方
covenantがよく使われる場面は、以下のとおりです。
① M&A契約のrepresentations and warranties(表明保証条項):
covenantは、本来は、株式譲渡契約、事業譲渡契約などのM&A契約で使われる用語です。
そして、M&A契約のrepresentations and warranties(表明保証条項)の中で、よく使われます。
この場合、covenantは、誓約または誓約すると訳されます。
M&A契約では、
『売主は、買主に対し、合意する~の内容が真正であることを、表明し、保証し、誓約する。』
というような内容で使われます。 (下記の例文①をご覧ください)
② Whereas clause(前文):
covenantは、英文契約書のWhereas clause(前文)でもよく使われます。
この場合、covenantは、約定、合意などと訳されます。
『相互の約定を約因として、両当事者は以下のとおり合意する。』
というような内容で使われます。(下記の例文②をご覧ください)
③その他の使用例:
covenantは、英文契約書の他の条項でも使われることがあります。(下記の例文③、例文④、例文⑤をご覧ください)
まとめ:
まとめると、covenantの意味と使い方は、以下のようになります。
・Whereas clause(前文)で:
約定、合意(=当事者双方の合意)の意味で使われる。
・Whereas clause(前文)以外で:
通常、誓約(=一方当事者の約束)の意味で使われる。
・ほかに、契約書の条項の意味もある。
3)covenantの実務上の重要性、法的拘束力、および交渉時の考慮点
covenantは、英文契約書において、当事者の将来の行為を規律する約束を指す重要な用語です。
単なる「約束」以上の、強い法的拘束力を持つ概念であり、その意味合いと用法を正確に理解することは、契約締結後の義務履行や紛争解決において不可欠です。
ア.covenantの法的性質と「約束(promise)」との違い
日常会話で使われる「約束(promise)」は、法的拘束力があるとは限りません。
一方、契約書におけるcovenantは、違反した場合に法的責任(主に損害賠償責任)を伴う、拘束力のある義務を意味します。
拘束力のある誓約:
covenantは、特定の行為を行う、または行わないことを一方当事者が他方当事者に対して誓約するものです。
これは、契約の条項として明記されることで、法的な強制力を持ちます。
表明保証(Representations and Warranties)との関連:
M&A契約でよく見られるように、representations(表明)は「過去または現在の事実に関する言明」であり、warranties(保証)は「その事実が真実であることの保証」です。
これに対し、covenantsは「契約締結後の将来の行為に関する約束」を指します。
表明保証の違反:
事実が真実でなかった場合に、契約締結時に遡って損害賠償責任が発生する可能性があります。
covenantの違反:
将来の約束が履行されなかった場合に、その不履行によって生じた損害に対する責任が発生します。
このように、covenantは契約の履行フェーズにおける義務を定めるものであり、M&Aなどの取引においては、クロージング後の特定期間における売主の競業避止義務や情報開示義務などがcovenantとして規定されます。
イ.affirmative covenant(積極的誓約)とnegative covenant
(消極的誓約)
covenantは、その内容によって大きく2種類に分けられます。
Affirmative Covenant(積極的誓約):
特定の行為を行うことを約束するものです。
例:「売主は、買主に対して特定の情報を提供することを誓約する。」(Seller covenants to provide certain information to Buyer.)
例:「当社は、本契約に定められたすべての義務を履行することを誓約する。」(We covenant to perform all obligations set forth in this Agreement.)
Negative Covenant(消極的誓約 / 不作為誓約):
特定の行為を行わないことを約束するものです。
これは、「restrictive covenant(制限的誓約)」とも呼ばれます。
例:「競業避止義務(Non-Compete Covenant)」:
「当事者は、契約期間中または契約終了後一定期間、相手方の事業と競合する事業を行わないことを誓約する。」
例:「秘密保持義務(Confidentiality Covenant)」:
「受領者は、開示された秘密情報を第三者に開示しないことを誓約する。」
M&A契約では、クロージング前の期間における売主の事業運営に関する制限(例:通常業務範囲外の債務を負わない、重要資産を売却しないなど)もnegative covenantとして規定されます。
ウ.実務上の重要点と交渉時の考慮点
covenant条項は、契約の核心的な義務を定めるものであり、その内容によって当事者の権利義務、将来の事業活動の自由度、そして違反時のリスクが大きく変動します。
明確な義務の特定:
covenantの内容は、具体的に、かつ明確に特定されるべきです。
曖昧な表現は、将来の義務不履行をめぐる紛争の原因となります。
義務の実現可能性:
covenantとして定められる義務が、現実的に履行可能であるかを慎重に検討する必要があります。
過度な義務は、意図しない違反を招く可能性があります。
期間と範囲の限定:
特にnegative covenant(制限的誓約)は、その期間と地理的範囲が適切に限定されているかを確認することが重要です。
過度に広範な制限は、競争法(独占禁止法)に違反するリスクや、そもそも裁判所によって執行不能と判断される可能性があります。
違反時の救済(Remedies):
covenant違反の場合の救済措置(損害賠償、差止命令など)は、Remedies条項や、個別のcovenant条項の中で明確に規定されるべきです。
例文⑤のように、「money damages may be inadequate with respect to any such breach and the non-breaching party may have no adequate remedy at law」(金銭的損害賠償では不充分なものがあり、違反を被った当事者が 充分な法的救済を受けれない可能性がある)と記載される場合、これは衡平法上の救済(equitable remedies)、例えば特定の履行(specific performance)や差止命令(injunctive relief)を求める可能性を示唆しています。
これは、covenantが単なる金銭的損害では補償しきれないほどの重要性を持つことを意味します。
「and/or covenants」の文言:
例文③のように「representations and/or covenants」(表明又は誓約)と記載されることがあります。
これは、表明保証と誓約のいずれかの違反でも補償義務が発生することを意味します。
特に、M&A取引では、売主の責任範囲を明確にする上で重要な表現です。
covenantは、契約締結後の当事者の行動を法的に拘束する、非常に強力なツールです。
その内容と法的影響を十分に理解し、自社の権利と義務、そしてリスクを適切に管理するために、契約書のドラフトおよび交渉において細心の注意を払う必要があります。
2.例文と基本表現:
(注):上記で解説したcovenantは青文字で示し、他の基本表現をハイライトしています。
1)covenant(誓約)– 例文①
M&A契約のrepresentations and warranties(表明保証条項)からです。covenantは、誓約するという意味で使われています。
Seller hereby makes the following representations, warranties and covenants to Purchaser, all of which shall be true as of the Effective Date hereof and as of the date of any Closing hereunder:
(訳):
本契約により、売主は、買主に対して、以下の事項がすべて、本契約の発効日及びクロージング日現在において、真実であることを表明し、保証し、誓約する:
(注):
*the Effective Date hereofは、本契約の発効日という意味です。詳しくは、the date hereofとthe effective date hereofの意味と例文をご覧ください。
*the date of Closingは、契約に基づく取引実行日(資産の受け渡し日)を意味しますが、クロージング日と訳されます。詳しくは、ClosingとClosing Dateの意味と例文をご覧ください。
2)covenant(約定、合意)– 例文②
Whereas clause(前文)からです。covenantは、約定、合意という意味で使われています。
W I T N E S S E T H :
WHEREAS, the Parties wish to exchange certain information which may be confidential and proprietary to a disclosing Party, subject to the terms and conditions hereinafter set forth.
NOW, THEREFORE, in consideration of the foregoing premise and mutual covenants hereinafter contained, the Parties hereby agree as follows:
(訳):
本契約は、以下を証する :両当事者は、以下に規定される条件に従って、開示当事者にとって機密であり専有的な特定の情報を交換したいと考えている。
したがって、上記の前提と以下に記載された相互の約定を約因として、両当事者は以下のとおり合意する。
(注):
*WITNESSETH は、本契約は、以下を証するという意味です。詳しくは、WITNESSETH, WHEREAS, NOW, THEREFORE, in consideration of|英文契約書の基本表現をご覧ください。
*WHEREASは、~なのでという意味ですが、意訳しています。
*proprietaryは、専有的な、専有のという意味です。proprietary informationで、専有情報を意味します。詳しくは、proprietary rightsとproprietary informationの意味と例文をご覧ください。
*a disclosing Partyは、開示当事者という意味です。
*the terms and conditionsは、(本契約の)条件という意味です。
*hereinafter set forthは、以下に規定されるという意味です。
*NOW, THEREFORE, は、したがって(よってここに)という意味です。
*in consideration ofは、~を約因としてという意味です。
*the foregoingは、上記のという意味です。詳しくは、the foregoingとthe aforementionedの意味と例文をご覧ください。
*hereinafter containedは、以下に記載されたという意味です。
3)covenant(誓約)– 例文③
Indemnification(補償条項)からです。covenantは、誓約という意味で使われています。
Seller agrees to indemnify and hold Buyer harmless from any and all claims, damages and liabilities arising from Seller’s breach of its representations and/or covenants set forth herein.
(訳):
売主は、本契約に規定された売主の表明又は誓約に係る、売主の違反に起因した一切の請求、損害及び責任から、買主を補償し免責することに合意する。
(注):
*indemnify and hold Buyer harmless fromは、~から(買主)を補償し免責するという意味です。詳しくは、indemnify and hold harmlessの意味と例文をご覧ください。
*any and allは、すべての、一切のという意味です。
*claims, damages and liabilitiesは、請求、損害及び責任という意味です。
*arising fromは、~に起因する、~から生じるという意味です。
*set forth hereinは、本契約に規定されたという意味です。
4)covenant(誓約)– 例文④
Time is of the Essence(時間厳守条項)からです。covenantは、誓約という意味で使われています。
Time is of the essence under this agreement and in the performance of every term, covenant and obligation contained herein.
(訳):
本契約並びに本契約のすべての条件、誓約及び義務の履行において、期限の厳守は非常に重要である。
(注):
*Time is of the essenceは、期限の厳守は非常に重要という意味です。
*performanceは、履行という意味です。
*contained hereinは、本契約に記載された、本契約のという意味です。
5)covenant(誓約)– 例文⑤
Remedies(救済条項)からです。covenantは、誓約という意味で使われています。
Each of the parties hereto acknowledges and agrees that, in the event of any breach of any covenant or agreement contained in this Agreement by the other party, money damages may be inadequate with respect to any such breach and the non-breaching party may have no adequate remedy at law.
(訳):
本契約の各当事者は、相手方が本契約の誓約又は合意事項に違反した場合、かかる違反に関して金銭的損害賠償では不充分なものがあり、違反を被った当事者が 充分な法的救済を受けれない可能性があることを確認し合意する。
(注):
*acknowledges and agreesは、確認して合意するという意味です。詳しくは、acknowledgeの意味と例文をご覧ください。
*in the event ofは、の場合という意味です。
*agreementは、ここでは合意事項という意味です。
*contained in this Agreementは、本契約の、本契約に記載されたという意味です。
*money damagesは、金銭的損害賠償という意味です。
*with respect toは、(かかる違反)に関してという意味です。
*the non-breaching partyは、違反を被った当事者という意味です。
*remedy at lawは、法的救済(コモンローによる救済)という意味です。詳しくは、remedy at law(コモンローによる救済)とremedy in equity (エクイティによる救済)をご覧ください。
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